バカロレア哲学の試験の選択問題のひとつ、『幸福は探さなくては見つからないか?』の答えで、フランスのラップグループPNLの『Recherche du bonheur/幸福の追求』を例に出した生徒が何人か(何十人?)いて、「えっそんなのあり?」というツィートが飛び交ったそうだ。

PNLのふたり。「えっ!俺たちが哲学の解答に??」と言ったかどうか。

ヒップホップ/ラップグループPNL

パリの某高校の哲学教師がそれに答え、
「歌、映画、バンドデシネなど大衆文化を例に出すことは禁じられていないし、減点対象にはならない。問題は、それが適切に使われているか。つまりPNLを例に出したら、そこから建設的な意見に発展させる必要がある」
なるほど。
「でも、バカロレアの哲学試験は、論証する能力を試すと同時に知識を測るもの。だからデカルトとかソクラテスの例を出せば、PNLに差をつける」
Recherche du bonheurを聞いてみたけど、
「・・・・・汚い場所で幸福を探す
ヨー、嵐の中を航海して、
地面に額をくっつけても、俺は借金だらけ
飛び立つための羽根をくれ・・・・」
のような歌詞から“建設的な意見”を4時間に渡って書くのは至難の業に思える。

ディズニーの『ジャングルブック』でクマのバルーが歌う「ちょっとしたことで幸せになれる」は、「幸福」がテーマになる度に登場するそうだ(このアニメ、息子のお気に入りで何十回観たことか!息子だけじゃなかったのね)

ジャングル・ブック

「例と論証を混同している生徒が多い」と先生。
「『ジャングルブック』でモーグリの親友バルーが言っているように“ちょっとしたことで幸せになれる” 、では答えにならない。独断でしかない」(私だって書ける)
目下採点の真っ最中でこの手の解答に苛立っているらしい。
「この謙虚さ(日常にちょっとしたことに幸福を見つける)が幸福への鍵なのか?という展開が必要」
ふむふむ・・・

大学の頃、哲学科の学生が“現実離れしたことを勉強している雲の上の人”に見えたもんだ。若気の至り・・・
日常の色々なシーンで、哲学の知識の切れっ端や考え方が役に立つ、と最近思う。だから高校で、幸福、人間のルーツ、芸術の存在理由・・・などについて自分の意見を述べる訓練をするのは、羨ましいなぁ、と。
PNLや『ジャングル・ブック』の例を、「フランスのバカロレアも地に落ちたもんだ」と嘆く意見があるけど、身近な例で論証できたら、それこそ”身に着けた”ことになりません?



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バカロレア哲学、何を書けばいい?

この時期になると子供たちのバカロレアを思い出す:
あまり勉強しているようには見えなかった息子が発表を見に行き「受かってた!」 電話の声がまだ耳に残っている。
けっこう勉強していたのに「落ちたらどうしよう・・・」と繰り返していた娘。こっちも「落ちる方が難しいって(合格率は90%近い)」と繰り返すしかなかった。

木曜日、恒例の哲学の試験でスタートした2017バック。

2017バカロレア
photo:Europe1

問題:
バカロレアL(人文系)
1. 観察するだけで知ることができるか?
2. してもいい権利があることはすべて正しいか?
3. ルソー『人間不平等起源論』の抜粋を解説

バカロレアS(科学系)
1. 自分の権利を護ることはすなわち自分の利益を護ることか?
2. 自分の文化から自由になることは可能か?
3. 『ミッシェル・フーコー思考集成』の抜粋を解説
・・・から選んで、4時間で展開する。

この中で少しでも書けそうなのは「自分の文化から自由になることはできるか?」(ノンだ)
ちょうどラジオで、哲学の先生がこの問題にどう答えるかの一例を解説していた。
1. 前提として、私たちは自分の文化に“幽閉”されているか?“自分の文化”とは何を指すか?
2. いや、幽閉されてはいない。私たちは旅をし異国に滞在することで、他の文化に触れ、その中で生活することができる。
3. しかし。文化(民族、宗教、階級・・・)は今日の自分を形成しているもの、自分のルーツである。従ってそれを切り捨てることはできない。
4. 文献の参照、例えばモンテスキュー『ペルシャ人の手紙』
*宮廷の政争にうんざりしたペルシア人ユスベクが友人リカとともにパリに住み、そこから故国の友人や愛人と手紙を交換する。ユスベクとリカの手紙には、当時のフランスの風俗、政治、思想への批判や風刺が綴られる。

なるほどねぇ・・・私が書いたら20行で終わってしまいそうだ。
今年の哲学は「“幸福”が出る」という前予想で、果たしてバカロレア・テクノロジーに
「幸福を見つけるためには探さなければいけないか?」
試験会場から出てきたところインタビューされた女子は、
「簡単だったわ( !?)幸福は恋と同じで、探しても見つからないのよ」
それで何枚書けたんだろう ??


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エマニュエル・マクロンが大統領になったのは、一重にマリーヌ・ルペンを阻止するためのデフォルト投票のお陰。
それだけに続く総選挙で、マクロンの新党『La République en marche/共和国前進』が過半数を取れるかは賭けだった。

ところが11日の第一回投票で32%を獲得。右派Les Républicains(LR)21.2%、極右Front National(FN)13.9%、メランションの急進左派La France Insoumise10.9%、社会党(PS)10%。

地元トゥーケで投票したエマニュエル&ブリジット。このジャケットもルイ・ヴィトン?

エマニュエル&ブリジット・マクロン

「誰に入れた?」「教えないわよ」

エマニュエル&ブリジット・マクロン
photos:Parismatch

信じられないのは社会党の激衰退:社会党書記長ジャン=クリストフ・カンバデリス、元文化相オーレリ・フィリペティ、こともあろうに元教育相、左派大統領候補だったブノア・アモンまで、あっさり一回目で落選している。

眼を疑う、という顔のオーレリ・フィリペティ。彼女はオランド大統領の政策に反対して、経済相アルノー・モントブールと辞任。一緒に辞任しただけでなく、一緒に子供を作り、別れている。

社会党衰退
photo:lepoint

一方喜ぶべきはFNの後退。大統領選の決選投票まで行ったというのにどうした ?!
理由は、決選投票前マクロンとの討論でのマリーヌのメチャクチャ、支持率の高かった姪マリオン=マレシャル・ルペンの一時引退・・・

さて「共和国前進」勝利の理由は、まず大統領になったマクロンの国際シーンでの快挙:G7で、自分の権力を思い知らせるようなトランプ大統領の握手に負けず(事前に練習したとか)、プーチン大統領をヴェルサイユに招待し、トランプがパリ協定離脱を発表し、再交渉を提案したとき「再交渉の余地はない。・・・・・環境問題に代替プランはない。地球に代替えはないのだから」と返答。マクロンの弱点だった環境問題でポイントを稼ぎ・・・

そして「せっかく大統領に選んだんだから、足を引っ張るよりチャンスを与えてやろう」という風潮。文句を言うばかりが能じゃない。
就任1か月後のアンケートでマクロンに満足が68%だった。

50%という記録的な棄権率は、従来の政党への失望・怒りの反映。これもマクロン新党に有利に働いた。

さて『共和国前進』の立候補者447人のうち、半分以上の273人が「政治経験全くなし」の弁護士、経済学者、医者、農業従事、警察特別介入部隊のモト隊長・・・
これもプラス要因かもしれない。右派だろうが左派だろうが、権力志向とエゴの塊で、私腹を肥やすことしか考えていない政治家たちにウンザリした国民にとって、今までにない人選は新鮮で「やらせてみよう」という気になるんじゃないかと。やらせてみよう・・・


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韓国版 “真昼の悪魔”

明け方、ひとりで朝ごはんをかきこんでいるBongwan。そこに寝間着姿の奥さんが現れる。
「どうしてこんなに早くに行くの?」
「眠れないから」
「あなた、なんか変よ」
「変?・・・」

ホン・サンス『The day after』

「愛人がいるんじゃない?」
男は笑ってご飯をかきこむ-汁かけご飯に漬物(キムチ?)をのせてズズッと食べるんだけど、食べ方がなかなかうまい。
「答えなさいよ」
「ズズズ・・・」

彼は小さな出版社を経営し、唯一の女子社員とできていた。彼女が去って1か月になる。オフィスに向かいながら、Bongwanはまだ彼女のことを考えている。
オフィスが彼らの愛の巣だった・・・

ホン・サンス『The day after』

その日は、新しく雇った社員の第一日目。若く綺麗でやる気満々の女性がやってくる。

ホン・サンス『The day after』

差し向いでお昼を食べ、本が山積みになった小さいオフィスに2人。そこへ奥方が躍り込んでくる・・・

ホン・サンスの『Le jour d’après/The day after』。
この表情がまさに中年のメランコリー!

ホン・サンス『The day after』

今年のカンヌ、コンペティション参加作品、賞は取らなかったけど評判はよかった。

人生の後半に差しかかり妻とは倦怠期、もう一花咲かせたいと焦る50男が、モト愛人、一日目の女子社員、嫉妬に狂う妻の板挟みになるお話。
フランス語ではDémon de midi/真昼の悪魔と呼ばれる、中年過ぎ現象-若さへの執着、性的誘惑-をユーモラスに細やかに描いている。
エリック・ロメールが引き合いに出されるけど、ロメールより自然でリアル。
しょっちゅう差し向いでお酒(韓国のお酒は強いの?)を飲んでいるとこは小津の映画のようだ。
でも何より、フィリップ・ガレルの『L'Amant d'un jour/一日の愛人』を思わせる。ともにモノクロで、50男+すごく若い2人の構図・・・
恋愛において、優位に立つのは女なのだ

Le jour d’après
ホン・サンス監督作品
主演:Kim Min-Hee(キム・ミニ) Hae hyo Kwon、Kim Saeybuk
1時間37分
フランスで上映中

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5月27日から始まったラマダン、イスラム教徒の断食期間。夜明けから日没まで飲まず食わず(水もダメ)、でも仕事はするので、大変だなぁと眺めていたら、この断食期間に太る人が多い、食費は+30%、総額3億5000万ユーロと聞いてのけぞった。

売り上げトップはブリック(小麦粉の皮)、デーツ(ナツメヤシ)、発酵乳、断食明けの夜食に欠かせない3食品。ツナの缶詰も普段の4倍以上の消費。そういえばこの前作ったブリックとチュニジアサラダ、どちらにもツナが入っている。

ラマダンは聖なる月で、お祝いでもあるから、日没後の食事は盛大で大量だ。3時間前から料理に取り掛かり、日没と同時にヨーイドンで延々と“食い溜め”をする。朝と夜しか食べないお相撲さんが太るのと同じだ。
娘は、ラマダンの時期にチュニスの友達(イスラム教徒)宅に滞在した。その年はラマダンが夏休みと重なったので、若い子は夜明けギリギリまで食べて、日中は寝ていたそうだ。日中、断食せず、夜は果てしない夜食に付き合っていた彼女は当然太って帰ってきた。

この“ラマダン中の食費増加”に目をつけたのが大手スーパー。ラマダンはここ5-6年、バカンスと被っていて、期間中にお里帰りするイスラム教徒が多かった。今年は丸ごとバカンス前、つまり3億5000万ユーロはフランスで消費される!
Intermarché/アンテルマルシェは「オリエントの市場」
Leclerc/ルクレール「オリエントの美味」
Auchan/オーシャン「オリエンタルの味をお手頃価格で」

ラマダン

おお!これは客寄せになるであろう・・・

ラマダン

ラマダンを謳っていないキャッチで、一般のお客にもアピールしようとしている。
ムスリムファッションを始めたブランドもあるし、すべてはビジネスに・・・


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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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