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ブルーライトと網膜

「網膜に穴?」
「そう、たくさん穴が開いてるんだって」と眼医者から帰ってきた娘。
「網膜剥離と違うのね?」
「違うみたい。先生が最初になんて言ったと思う?」
「なんて?」
「Merde !」

網膜裂孔。穴を塞ぐため娘はレーザー光凝固をすることになった。
網膜剥離で2度レーザーをした私が「不快だけど痛くないって。それに数分で終わる」といくら言っても、ネットで恐ろしい体験談ばかり読んで怖がっている。
「大体、あなたの年で穴が開くってのは、ブルーライトの見すぎよ」
この子は動画やテレビシリーズまで携帯で観るし、絵の修正も全部PCでやっている。レザーを怖がっているクセに画面を減らす気配は全くない。

「ブルーライトが脳と身体に及ぼす害」の図:スマートフォンのブルーライトは睡眠を乱し、記憶力を落とし、網膜を傷つける・・・

lumière-1

「目が霞んで帰れないかも」と言うので、当日ついていった。先生にちゃんと言ってもらわなくちゃ。

20年来、家族全員が通っている眼科のシロ先生は定年退職を2回伸ばし、ついにこの3月末でリタイアすることになった。
伸ばしたのは後任が見つからなかったせい。一般医でも専門医でも、若い医師が自分の医院を持ちたがらないらしい。
責任が重すぎる、経費がかかりすぎる、と、あちこちで休暇中の医師の“代理”をしている。結局、シロ先生も後任が見つからず、35年間にわたるおびただしい患者データはすべて近くの眼科医院に送られた。

その日が医院閉鎖前最後のレザー治療なので、狭い待合室にはレーザー待ちの患者さんが10人。平均年齢(娘を除いて)70歳。事前に瞳孔を開く目薬を3回さすので、
「アタシ、2回したかしら?忘れちゃった」
「手が震えてさせない!」
「みなさん、レザーの前にお金を払ってください」と看護婦さん。
「なんだ、タダじゃないのか?」
と騒々しい。
娘の番になり、10分くらいして先生とともに現れた。
「お嬢さんのはブルーライトとは関係ありません」
横で娘がニンマリ笑う。
「そんな!この子がどんな生活してるかご存知ないでしょう?」
「網膜裂孔や剥離には色々な原因があって、お嬢さんのは、言ってみれば“製造上の欠陥”」
「 セイジョウジョーの欠陥?!」
「文句があるなら製造元(つまり親)に言いなさいね。はい、次の方」
満足げな娘と懐疑的な私を残し、先生は再びレザーに戻って行った。


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エルメス傘の修理はハウマッチ?

お店を買ったのはいいけど、お客は少ない(繁盛してたら売らないものね)
それに21世紀に傘修理なんて・・・
「そこでホームページを作った。当時、私は先駆者だった」
ヨーロッパ唯一の傘の修理職人というレアさが注目され、テレビにも出演。彼のユーモラスなキャラがウケて、
「日本のテレビにも出たよ。『もったいない』という番組」
次第に外国からも傘が送られてくるようになった。

アトリエに案内してあげよう、とティエリーさん。細い階段を上ると、傘の骨や持ち手や留め具や、修理を待つ傘が溢れている。

peps atelier1

ちょうどエルメスの傘が修理を待ってた。
エルメスにはバッグ修理人はいるだろうけど傘修理はいないから、彼のところに委託される。
生地は厚手コットン、渋いオレンジ、ステッキの持ち手。傘だってエスメスだと700ユーロ近いから修理したくもなるだろう。
ティエリーは傘を広げ、情け容赦なく骨を折って総取り替え。

エルメス傘

その間も階下にお客が来ると、細くて急な階段を駆け下りていく。よく落ちないね・・・
開閉を試してから、持ち手を付けなおし、ニスを塗る。15分ほどで傘は元通りになった。
「この傘の修理はいくらですか?」と聞くと「エスメスだって他のブランドと一緒」。じゃ50ユーロ?
ティエリーははっきり答えなかった。企業秘密?

エルメス傘

傘の修理を頼むお客のプロフィルは?と聞くと、
「うーん、特にプロフィルはないけど、年齢層は高め。30代が一番若いかね。そういえばこの前、100歳のおばあさんが傘を持ってきた」
「アタシは100歳ですよ」と自慢げに言うおばあさんと入れ違いに“バービーみたいに綺麗なマダム”が入ってきた(“バービーみたい”は決して誉め言葉ではないけど)。今のご婦人100歳なんだって、と言うと、
「アラ、アタシはいくつに見えます?」とバービー。
「ご婦人の年なんか・・・」とティエリーが言うと、
「80歳!でもまだイケますでしょ」とニッコリ。

「60~65にしか見えなかった。ほんとに“まだイケます”だった」
質のいいものを買って、修理に出して長く使う習慣は、この年代の人たちで終わってしまうんだろうか?
でもH&Mのスローガン「See now buy now(そして翌年には捨てる)」は消費者団体から叩かれていたし、Retoucherと呼ばれる服直し屋はパリのどの地区にもある。
ティエリーのような職業と、おばあさんたちのエスプリが引き継がれていってほしい、と私は思うけど。


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傘修理はエコロジー!

「この前、持ち手が取れた傘の修理をお願いしましたよね。新しい持ち手が22ユーロだったでしょ。夫に話したら『それなら新しい傘が買える』って」
「22ユーロの傘はすぐ壊れて捨てる。お金払って環境汚染してるってこと」
はあ、なるほど。帰ったら言って聞かせよう。

150万本。フランス(だけ)で毎年捨てられる傘の数。
ちょっとの雨では傘をささず、子供や若い子は傘を使わないこの国でこの数。
安いビニール傘が氾濫する日本では何百万本が捨てられているだろう?
ビニールやポリエステル、金具は地面を汚染する。
壊れた傘を捨てずに修理するのが、エコロジーな行為とは気づかなかった。
私は靴も修理するのが好きで、最年長は30年前のフランソワ・ヴィヨンのブーツ。ブランドはもうなくなってしまったからコレクターものになった。
自慢はさておき。
ヨーロッパで唯一の傘修理屋さん、ティエリー・ミエ氏に興味を引かれてまた訪ねて行った。
アトリエ・ブティックはパリで一番古いパッサージュ、Passage de l’Ancre/錨のパッサージュにある。
1637年、初めての辻馬車会社が登場したのがこのパッサージュだ。

パッサージュ・ドゥ・ランクル/passage de l'Ancre

カラフルな傘が溢れる小さい店で、ティエリーさんは年間約1万本の傘を修理する。
一見、気難しそうだけど実はそうでもない。笑顔が可愛い。

傘修理ティエリー・ミエさん

傘が好きだったわけでも、親の職業を継いだわけでもない。
彼はEcole Boulle/エコール・ブールという造形芸術の学校に4年間通い、家具メーカーRoche Bobois に就職(「仕事を見つけるのが簡単な時代だったね」)。家具チェック、販売員、そして仕入れ総責任まで上った。
「給料はよかったけど、15年経って同じことをやるのに退屈して辞めた」
もったいない・・・
潔く辞めたはいいけど、なかなか仕事が見つからず、たまたま傘修理屋が後継者を探しているのを知って会いに行く。
傘修理の経験なんてない。
「傘の修理を教える学校なんてないでしょ。みんな独学」

傘修理屋さんはティエリーにごく基本だけ教え、「君は手先が器用だ。私より上手い」
Ecole Boulleでは、版画、家具作り、彫金、製本などアート/工芸を一通り教えるので、お世辞ではなかったはず。
こうしてアトリエブティックが彼のものになる。2003年のこと(続く)


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神様のお陰?

フランソワ・オゾンの最新作は公開が許可されるかがギリギリまでわからなかった。なにしろバルバラン大司教裁判のまっ最中。
聖職者のペドフィリア(小児性愛)行為を、バルバラン大司教が知っていて隠ぺいした経過を描いたこの作品が、ジャッジに影響を及ぼすのを裁判所が恐れたからだ。しかも映画の登場人物は実名になっている。

結局予定日に封切りになった。『Grâce à Dieu/神様のお陰で』

フランソワ・オゾン 『Grâce à Dieu/神様のお陰で』

リヨンに住むアレクサンドル(メルヴィル・プポー)は銀行家。妻と子供5人、敬虔なカトリックのブルジョア家族だ。

フランソワ・オゾン 『Grâce à Dieu/神様のお陰で』

ある日、彼はプレナ神父が司教区に戻ってきたのを知り、30年前の記憶が蘇った:教会のボーイスカウトに入ってた彼は、ブレナ神父から何度も性的愛撫を受けた。しかも被害者は彼だけではなかった。
30年間、悪夢を押し込めてきた。でももう黙っていられない。子供たちに同じ思いをさせてはいけない。彼はプレナ神父を役職から外してくれるよう教会に手紙を書く。
アレクサンドルの訴えはバルバラン大司教まで届くが、事態は変わらない:プレナ神父は相変わらず教会にいて、子供たちに公教要理を教えている。彼は他の被害者たちとアソシエーション《解放された言葉》を作る。重い口を開く人が増えていった。

前列の4人が被害者の”代表者”。どの被害者も、なんらかの“後遺症”を抱えていた。

フランソワ・オゾン 『Grâce à Dieu/神様のお陰で』

彼らはメディアに働きかけ、隠ぺいしようとする教会と戦おうとする。

女装することでアイデンティティを発見する男性の話『彼は秘密の女ともだち』、ブルジョア家庭の娘が売春する『17歳』など、性の形を、挑発的に描いてきたフランソワ・オゾン。この作品ではトーンがガラリと変わり、事実を追ったドキュメンタリーに近い。

どうして被害者たちがこんな長い間黙っていたのかがよく描かれている。
当時、親たちが子供の訴えに取り合わなかった。神様との仲介をする神父がそんなことをするのが信じられなかった。世間体もあった。子供たちも最初は神父に”気に入られた”ことを誇りにさえ感じたのだ。

信仰というのは個人的なものなのに、その上に政治力、権力を持った教会という制度がある。
私のおばあちゃんは熱心なキリスト教だったけど、プロテスタントとかカトリックとか形式は構わず、“直で”神様と繋がっていたような気がする。当時はぶっ飛んだ人だと呆れていたけど、あのプリミティブな形が本当なんじゃないか、と最近思う。

映画の中でバルバラン大司教が記者会見で言うセリフ:
「とにかく昔の話です。神様のお陰で時効になりました」(タイトルはここから)
記者のひとりがはじかれたように立ち上がる。
「あなた、今暴力的なを言いましたね。“神様のお陰”とは“幸いにも”ということですか?」
全くなんてこと!被害者たちにとっては時効になってないよ!
数日後のニュースで、バルバラン大司教には執行猶予付き禁錮6カ月の有罪判決が下りたのを知った。

Grâce à Dieu
フランソワ・オゾン監督作品
主演:メルヴィル・プポー、ドニ・メノシェ、スワン・アルロー
2時間17分
フランスで公開中


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「ムスメさん帰ってきてにぎやかになったでしょ」と友達。
「それが“なりすぎ”たのよ」
娘が戻って来ると、彼女のボーイフレンドも“うちで暮らす”ようになった。経済力のない2人だから、選択肢は、うちか彼のうちしかない。彼の家は郊外で、「遠すぎる」と娘がなかなか行かないので、自然とうちになった。
つき合って2年になるその男子は、パリのボザールに通っていて、なかなかいい子。
最初は「ハタチの恋が続くはずがない」と思っていたけど、ますます仲が良くて、最近「もしかしたら・・・」と思うようになった。

そこまでは予想していたけど、もう一人、娘の親友が転がり込んできた。
住んでいたアパルトマンを追い出され「別のが見つかるまで泊まらせて!」
両親は彼女が小さい時に離婚、母親とは上手く行かず、父親は若い女性と一緒になり子供を作り、別れてまた他の女性と子供を作り、また別れて他の・・・を繰り返している。
・・・という境遇なのにグレることもなく可愛い性格、1年前からレストランで働いている。
だからイヤとは言えず、うちはユースホステルのようになった。
「今夜、うちでご飯食べる人は?」
「まだわかんない」
「アタシ、肉は食べないの」(知るか!)
「お風呂、誰が入ってるの ?! もう1時間になる!」
「〇×よ、次はあたしの番なんだから」(私はどうなる!)
「ボク、7時ごろ帰るけど、誰かいる?」
「ところで誰が鍵持ってるの?あの鍵、高いんだからなくしたら罰金よ!」

猫たちは静かな場所を探して彷徨った。
タマは窓辺で瞑想に耽り・・・

タマ

リュリュ!落ちるよ!

リュリュ

「アパルトマンが見つかるまで」という親友の子は本気で探している気配もなく、見学にも行かず。娘に聞くと「望みが高すぎて見つかるはずがない」という絶望的な意見。
確かにパリは高い、高すぎる。うちの隣のステュディオが14㎡で600ユーロ。娘がアングレームでクラスメート2人と借りていたアパルトマンは120㎡で850ユーロと夢のような家賃だ。
でもこの“同居”に一番困っていたのは娘だろうね。本の作業していても、おしゃべりにやってくる。イラつくけどむげにはできない。よく、同居するには友達より少し距離がわる人とのほうが上手く行く、と言われる訳だ。

結局“1週間か10日”が3か月住んでいた。
来たときはベジタリアンで、豆腐とキノアのサラダなど食べていたが、次第に私たちが食べているものを羨ましそうに見るようになり、「同じものが食べたい」と言い出し、ステーキでもハンバーグでもパクパク食べるようになった。

「じゃアパルトマン見つかったの?」と友達。
「ううん、叔母さんのうちに一部屋空いたんだって」
というわけで、やや静かな生活が戻ったのだ。


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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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