Category : 映画

韓国版 “真昼の悪魔”

明け方、ひとりで朝ごはんをかきこんでいるBongwan。そこに寝間着姿の奥さんが現れる。
「どうしてこんなに早くに行くの?」
「眠れないから」
「あなた、なんか変よ」
「変?・・・」

ホン・サンス『The day after』

「愛人がいるんじゃない?」
男は笑ってご飯をかきこむ-汁かけご飯に漬物(キムチ?)をのせてズズッと食べるんだけど、食べ方がなかなかうまい。
「答えなさいよ」
「ズズズ・・・」

彼は小さな出版社を経営し、唯一の女子社員とできていた。彼女が去って1か月になる。オフィスに向かいながら、Bongwanはまだ彼女のことを考えている。
オフィスが彼らの愛の巣だった・・・

ホン・サンス『The day after』

その日は、新しく雇った社員の第一日目。若く綺麗でやる気満々の女性がやってくる。

ホン・サンス『The day after』

差し向いでお昼を食べ、本が山積みになった小さいオフィスに2人。そこへ奥方が躍り込んでくる・・・

ホン・サンスの『Le jour d’après/The day after』。
この表情がまさに中年のメランコリー!

ホン・サンス『The day after』

今年のカンヌ、コンペティション参加作品、賞は取らなかったけど評判はよかった。

人生の後半に差しかかり妻とは倦怠期、もう一花咲かせたいと焦る50男が、モト愛人、一日目の女子社員、嫉妬に狂う妻の板挟みになるお話。
フランス語ではDémon de midi/真昼の悪魔と呼ばれる、中年過ぎ現象-若さへの執着、性的誘惑-をユーモラスに細やかに描いている。
エリック・ロメールが引き合いに出されるけど、ロメールより自然でリアル。
しょっちゅう差し向いでお酒(韓国のお酒は強いの?)を飲んでいるとこは小津の映画のようだ。
でも何より、フィリップ・ガレルの『L'Amant d'un jour/一日の愛人』を思わせる。ともにモノクロで、50男+すごく若い2人の構図・・・
恋愛において、優位に立つのは女なのだ

Le jour d’après
ホン・サンス監督作品
主演:Kim Min-Hee(キム・ミニ) Hae hyo Kwon、Kim Saeybuk
1時間37分
フランスで上映中

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モノクロのパリ、奇妙な三角関係

大学の廊下で出会う教授と女子学生。2人は事務的な感じで一緒に歩き、教授用トイレに入り、激しく愛し合う。彼50歳、彼女23歳。
「最初の哲学の講義で、あなたは『哲学は生活と対立するものではない』と言って、私を見たの。覚えてる?」
「いや」
「その時、あなたを好きになったの」

彼(エリック・カラヴァカ)と彼女(ルイーズ・シュヴィロット)

フィリップ・ガレル『一日の愛人』

ある晩、婚約者に追い出された彼の娘が目を泣きはらしてやってくる。

彼と娘(エステル・ガレル)

フィリップ・ガレル『一日の愛人』

父は慰め、泊まっていくように言う。テーブルの上に花柄のペンケースがあるのを見た娘、
「誰かいるの?」
「うん・・・」

翌朝、顔を合わせる彼女と娘。
「私たち同い年なの、イヤじゃない?」
「別に・・・いつから一緒にいるの?」
「3か月前から。あなたのお父さん口説くのに時間かかったんだから」
「あなたが口説いたの?」
「そうよ」
突然、2人の若い女と暮らすようになったオジサン教授。彼は、若い彼女との生活が続けばいいと願う。
彼女は、落ち込んでる娘に服を貸し、一緒に料理を作り、外に連れ出そうとする。連帯感もあれば嫉妬もある。彼が帰ってきて、まず娘にキスすると癇癪を起すのだ。

彼女と娘

フィリップ・ガレル『一日の愛人』

フィリップ・ガレルの『L'Amant d'un jour/一日の愛人』。
この監督は、いつも同じテーマ“愛”を、ごくシンプルに描いて-モノクロ、一人称、飾り気のないパリの日常、アパルトマン-どっぷり感情移入できて、後を引く。
ストーリーはすべて彼の経験から生まれているそうだけど(そんなに若い愛人がいた?)そぎ落とされ、「愛に苦しみは不可欠?」という普遍的な問いかけが浮かび上がる。

お父さんが名優のモーリス・ガレルで、13歳のとき最初の短編を撮った。息子のルイ・ガレル、娘のエステル・ガレル(この作品の娘役)も俳優で、映画と人生に境界がないみたいな人。ゴダールやロメールと比較される。
私はガレルのほうが好きかな。『ジェラシー』(2013)、『女の影』(2015)も、もう一度観たい。

ところで、この映画で男50歳-女23歳=27歳差で、誰も驚かないのに、逆(ブリジット-マクロン=24歳差)だと世界中が騒ぐのね。

L’Amant d’un jour

フィリップ・ガレル監督作品
主演:エリック・カラヴァカ、エステル・ガレル、ルイーズ・シュヴィロット
1時間17分
フランスで公開中

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フランソワ・オゾン 『ダブルの愛人』

クロエはずっとお腹が痛くて(お腹と言っても下腹。食べ過ぎてお腹が痛くてもフランス語はmal au ventreで同じ)婦人科に行くけど、何も異常はない。精神的なものでは?と言われて、精神分析家に会いに行く。
回を重ねるうち、分析家ポールはクロエに「職業倫理に反する感情を覚え(早い話、彼女が好きになった)これ以上続けていけない」と告白する。同じ感情を抱いていたクロエは喜ぶ。
数か月後、一緒に住み始めた2人。引っ越しの段ボールを開けていたクロエは、ポールのパスポートに別の姓が記されているのに気づく。 数日後には、いるはずのない場所でポールを見かけ、一緒に暮らしている男性に、秘密の部分があるのを疑い出す。

「何か隠してるでしょ」「そんなことないって・・・」
クロエ(マリーヌ・ヴァクト)とポール(ジェレミー・レニエ)

フランソワ・オゾン『L'Amant double/ダブルの愛人』

フランソワ・オゾンの最新作『L’Amant double/ダブルの愛人』。

フランソワ・オゾン『L'Amant double/ダブルの愛人』

この監督、毎年のようにカンヌのコンペティション作品に選ばれるのに、賞が取れない。でも彼ほど、毎回ガラリと違った作品を作る監督は珍しい。彼ひとりかも。
『Frantz/フランツ』(2016)の舞台は第一次大戦直後のドイツの村。婚約者フランツを戦争で亡くしたドイツ女性と、フランツと戦地で知り合ったというフランス男性の物語。
『彼は秘密の女ともだち』(2015)ではロマン・デュリスを女装させ、『17歳』(2014)は高校生売春のお話。
遡って『8人の女たち』(2002)は、殺人をきっかけに家族の秘密が次々に暴かれる心理劇をミュージカルコメディ(!)で。

この『L’Amant double』はジャンルで言えばエロティックサスペンス。クローネンバーグの『戦慄の絆』やポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』、ヒッチコックの作品の雰囲気もある。
とにかくクロエ役のマリーヌ・ヴァクトが綺麗、中性的な裸を惜しげもなく見せる。ジェレミー・レニエもカッコいい。背景も美しく、特に精神分析家の家の豪華さ(分析家が概してリッチだけど、ちょっとやりすぎで現実味がない)。
しかし。ジャクリーン・ビセットとの最後が、夫も私も「????」。帰って批評を見たけど、ネタがばれるのでどの批評も言及していない。
若いころのジャクリーヌ・ビセット。ミステリアスな雰囲気がマリン・バクトに似てない?

ジャクリーヌ・ビセット

信憑性には欠けるけど、俳優が魅力的&官能的でサスペンスがあるので、一見の価値あり。

チケットを買う時「“愛人”2人」と言ったら、横にいたマダムが「まあ!」と目を輝かせ、
「しかも『ダブルの愛人』だから計4人!」とうっとりした顔になった。

L’Amant Double
フランソワ・オゾン監督作品
主演:マリーヌ・ヴァクト、ジェレミー・レニエ、ジャクリーン・ビセット
1時間47分
フランスで上映中


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マニュキア指一本40ユーロ!

「私たちが服を着るのは脱ぐためだ。どんなドレスも、男性が脱がせたいと思わなければ意味がない」という名言はフランソワーズ・サガン。レッドカーペットを上るスターたちの、ますます露出度の高いドレスを見ていると、これじゃ脱がせる必要もないかと。

でも彼女たちのドレスージュエリーは貸出だけど-一度しか着ない訳でしょ。いくらしたのか知らないけど、もったいない・・・でも夢を売るスターたちはイメージが大切だ。ちょっとでもバストの垂れ下がりや整形の跡がわかったら、ソーシャルネットワークでこき下ろされることになる。だからヘアメイクにかけるお金も桁が違う。

カンヌなどの映画祭の場合、請求書はそのスターが出る映画を買った配給会社にいく(知らなかった)。
フランスの某配給会社は、2日間映画祭に顔を出す主演女優の“ヘア+メイク+スタイリスト+マニキュア”代として3万ユーロ(約380万円)請求された、という話を読んだ。マニュキア指一本40ユーロ!(指1本塗るのに2-3秒?3度塗りしたって10秒・・・)メイクは整形の回数が多くなるほど(隠すのに)時間がかかり、高くなる。

顔は変わらず、ポイントばっちり。誰がメイクしたの?マリオン・コティアール

カンヌ映画祭 ヘアメイク代
photo:aufeminin.com

これがアメリカのスターになるとまた桁が違う。お抱えのヘアデザイナー、メイク、ベビーシッターを連れてきて、自分のホテル(5つ星)に近い、つまり海岸沿いのホテル(3つ星)に泊まらせる。1週間の滞在で彼らは-ベビーシッター以外-9万ユーロ(約1134万円)近く稼ぐそうだ。ほんとかね・・・

ロレアル(カンヌの協賛社)のイメージスターで毎年来るエヴァ・ロンゴリア。彼女はメイクに最低2時間かかるそうだ。
でもなんか顔、変わってない?

カンヌ映画祭 ヘアメイク代
photo:GALA

アメリカの配給会社はお金がありそうだけど、こういうスターを何人か抱えていたら天文学的な額にならない?ま、払えるだけ稼いでいるならいいけど・・・
カンヌ映画祭は一度だけ行ったけど、別の惑星に着いた異星人の気分。1日目は昼も夜も招待され、2日目は夫も私も二日酔いであまり食べなかったのでお金がかからなかった。


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プレス評が良くて観客の評判が悪い時、どちらを信じるべきか?当然、後者だ。
アルノー・デプレシャンの最新作『les Fantômes d’Ismaël/イズマエルの幽霊たち』がその例。
それなのに、キャストがすごい(マチュー・アマルリック、マリオン・コティアール、シャルロット・ゲンズブール)、カンヌのオープニング作品・・・などのミーハーな好奇心に負け、観に行ってしまった。(第一、誘った人がみんな「アレ、つまんなそう」と乗ってこなかった。)
イズマエル(マチュー・アマルリック)は映画監督・脚本家。弟にインスピレーションを受けて、外交官イヴァン(ルイ・ガレル)の映画を撮っているところだ。徹夜、アルコール、タバコ、薬漬けの彼を支える彼女、シルヴィア(シャルロット・ゲンズブール)。
そこへ20年前に姿を消し、誰もが死んだと思っていた妻、カルロッタ(マリオン・コティヤール)が現れる。

「あなた、イズマエルのパートナー?」「・・・」「私は彼の妻よ」と、まるでお天気の話をするみたいに。

アルノー・デプレシャン『イズマエルの幽霊たち』

アルノー・デプレシャン『イズマエルの幽霊たち』

「自分が引き裂かれそうになったからいなくなったのよ」
「君は俺の人生を引き裂いた!」
「私にはあなたが必要なの」
「俺は必要じゃない!」
それでもシルヴィアは、イズマエルがカルロッタを忘れていなかったことを感じる。

・・・そこまではまぁいいんだけど、それに弟イヴァンの人生が平行して語られ、イズマエルが撮っている映画が挟み込まれ、過去・現在が何の断りもなく変わり訳が分からん。デプレシャンの混沌とした頭の中に投げ込まれたようで、一刻も早くここから抜け出したい(=早く映画館を出たい)と思うけど、左右に座っている人たちを踏み越えて出ていく勇気はなく、映画が終わるのを待つばかり。(第一、イズマエルもこの状況に正気を失い、撮影を中断して北フランス、ルーベの実家に逃げ込む。)

マチュー・アマルリックは正気と狂気の境目みたいな役が多いけど、ここではそのカリカチュア。そういえば朝市で隣にいたことがあったけど、服のまま寝たようなシワクチャのシャツとズボン、染ムラのある髪はボサボサで、映画で見るのと全く一緒だった。

どこか似ている(特にボサボサ頭)デプレシャンとアマルリック。トリュフォー&ジャン=ピエール・レオーみたいなデュオ。

アルノー・デプレシャン『イズマエルの幽霊たち』
photos:allociné

プレス評の中にも「躁鬱で、一貫性がなく繋ぎ合わせたような作品」(Nouvel obs)
「デプレシャンは、アヴァンチュール、愛、ノスタルジー、若いころの夢、過去の現在の対立・・・など、彼が執着するテーマを再び取り上げているが、要素がたくさんありすぎてついていけない」(Figaro scope)など全く同感の批評もある。
「マリオン・コティヤールでも救えなかった」とはイギリスのThe Guardian。

一方、絶賛しているプレスがあるんで平均点が上がっているんだけど、なぜ絶賛するんだろう?
自分(批評を書いた人)の頭の中も同じように混沌としていて感情移入できた?
サイコロジカルに入り組んだデプレッシャンの世界を評価しなかったらバカと思われるから?
映画が終わったとき、周囲のブツブツざわざわから、退屈したのは私だけじゃなかったのがわかった。
『キングス&クィーン』や『クリスマス・ストーリー』は良かったのに・・・

Les Fantômes d’Ismaël
アルノー・デプレッシャン監督作品
主演:マチュー・アマルリック、マリオン・コティヤール、シャルロット・ゲンズブール
1時間58分
フランスで公開中

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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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