Category : 映画

忍耐強い患者たち 『Patients』

歩く、食べる、身体を洗う、服を着る、そしてバスケットをする・・・事故で手足が麻痺したバンジャマンはもう何もひとりではできない。リハビリセンターに着いた彼は、同じように四肢や下肢の麻痺でリハビリを受けている人たちと知り合う。

最初は電話も持てなかった。

映画『Patients』

しばらくして車椅子に座れるようになったときは感激だった。ひとつめの自立。
手にフォークを固定してもらってひとりで食べれるようになる。またひとつの自立。
彼らが学んでいくのは“忍耐”。文句を言い、ケンカし、ヘトヘトになりながら、再び“生活する”エネルギーを見つけられるのは、仲間がいるからだ。ひとりでは立ち直れない。

車椅子仲間たち

映画『Patients』


Grand Corps Malade/グラン・コール・マラードというラッパーが、自伝をもとに監督した作品『Patients』。“忍耐強い人”と“患者”の意味。

映画『Patients』

彼はスポーツ万能で、特にバスケットは、高校の時クラブからスカウトに来るほど。1997年(20歳)、コロニー(子供たちの集団バカンス)のモニターをしているとき、浅すぎるプールに飛び込み、脊椎が移動して四肢が麻痺する。治る望みはあまりないと言われながら、1年のリハビリで、杖をついて歩けるようになる。2003年、Grand Corps Malade(大きな病める身体:彼は身長196㎝)という名前で、ラッパーとして初めてステージに立った。

この作品、泣かせるメロドラマになりそうでならず、ユーモラスで前向き。暖かい人間関係が描かれていて、『最強のふたり』にも通じるところがある。お奨めです。
それにラッパーが監督しているだけあって音楽がすごくいい。

例えば:The Roots«You got me»



NTM « That’s my people »



Patients
Grand Corp Malade & Mehdi Idir監督作品
主演:パブロ・ポーリー、スフィアンヌ・グラブ、ムーサ・マンサリー
1時間40分
フランスで上映中


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家族か自由かの二者択一『Noces/婚礼』

ベルギーで、両親と兄妹と仲良く暮らす18歳のザイラはパキスタン人。とりわけ兄貴のアミールは、何でも打ち明けるほど近い。彼女が妊娠して随ろす手術をすることも兄は知っている。

映画『Noces/婚礼』

ある日、両親があらたまってザイラを呼び、3枚の写真を並べる。この中から結婚相手を選べ、と。夫となる男性はパキスタン人でイスラム教でなければならないのだ。
「だってこの人たち、パキスタンにいるのに・・・」
「スカイプで話して決めるんだ」と父。
「私もお父さんのこと、結婚する日まで知らなかったの。でも一緒になってとても幸せよ」と母。

結婚は、自分の愛する男性と結婚したい、とザイラ。両親を愛しているけど、“自分の人生を生きたい”という欲望のほうが強い。
アミールはザイラの気持ちを理解するものの、長男の彼には一家の名誉を守る、という任務がある。引き裂かれる兄。

慣習や世間体に縛られた両親は、娘の幸せを考えることができない。写真選びを拒否するザイラに、
「おまえが結婚しなければ、世間に顔向けできない」「私たちの人生はもう終わりだ」と怒鳴り泣き崩れる。
結婚を拒めば勘当され、家族とは2度と会えなくなる。
でも自分の未来を3枚の写真から決めるなんて・・・不可能な二者択一を迫られ、引き裂かれるザイラ。

ザイラ役のリナ・エル アラビ、綺麗なだけでなくすごく上手い。

映画『Noces/婚礼』


ベルギー人監督ステファン・ストレッカーの『Noces』

映画『Noces/婚礼』


2015年の『Mustang/ムスタング』を思い出させる。トルコを舞台に、イスラム教の戒律にがんじがらめになった家族と5人の娘の戦い。

でもステファン・ストレッカーは誰も悪者にしない。親は“それが娘の幸せ”と信じて疑わないのだ・・・と言っても、たった3人から、しかもスカイプで話しただけで生涯の伴侶を決めろなんて、どう考えてもシュール。“娘の幸せ”はぶっ飛んでいる。

日本でも世間体のプレッシャーや本人の焦りはまだ強い。私がいた30年も前のことだけど、適齢期を超えた知人男性が上司に呼ばれ、「この中の誰か、どうかね?」と年頃の女性のお見合い写真をずらりと並べられた、と言っていた。
「トランプのカードを並べて1枚選べ、というみたいだった」と彼。もちろん断ってもクビになることはなかったけど。
『ムスタング』同様、残る作品だ。

NOCES
ステファン・ストレッカー監督作品
主演:リナ・エル アラビ、セバスチャン・フーバニ、ババク・カリミ
フランスで上映中。上映館が少なくなっているのでお急ぎを!


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重くて激しい『沈黙』

日本より3週間遅れで封切りになったマーティン・スコセッシの『Silence/沈黙-サイレンス-』

スコセッシ『沈黙-サイレンス-』

1633年.ポルトガルの宣教師、ロドリゲスとガルペは、彼らの師であるフェレイラ神父を探しに日本に旅立つ。キリスト教を布教するために日本に滞在したフェレイラ神父が、棄教したという噂を2人は信じられない。
密かに九州の村に辿りついた2人は、隠れキリシタンに匿われ、彼らがヒステリックなほどに告解と罪の許しを請うのに驚く。

スコセッシ『沈黙-サイレンス-』

そして踏み絵を拒んだ信者たちが拷問のあげく死んでいくのを目のあたりにする。
これらの死は無駄ではないのか?神は彼らの叫びを聞かれたのか?これほど苦しんだ人々を前に神はなぜ沈黙しているのか?
揺らぐ信仰に必死でしがみつくロドリゲス。彼も捕らえられ、檻に放り込まれる。

スコセッシ『沈黙-サイレンス-』
photos:allociné

日本政府にとって2人のしていることは、布教というより“植民地開拓”なのだ。既に確立している仏教を、他の宗教に取り替えようとしている狂信者なのだ。
『日本には偉大な自然以外存在しない。人間を超越するものはないのだ。キリスト教の神の概念は、日本人には理解できない』とロドリゲスはやがて気づく・・・

この映画、キリシタンの拷問や処刑のシーンがかなりショッキング。踏み絵は歴史の教科書にあったと思うけど、こんな残虐なことをしていたんだ、と。
でも考えるとユグノー戦争などヨーロッパの宗教戦争でも多くの人が虐殺されている。終わりなきパレスチナ問題、今日では、イスラム教の名のもとに殺戮を続けるジハードたち。宗教をめぐる戦いは過激だ。

スコセッシはこの作品で善悪の判断を示さず、日本人をカリカチュアもしない。
私は日本で僅か1%と言われるクリスチャンの家庭で育った。特に熱心だったおばあちゃんがこの映画を観たら何と言うだろう?
結局、信仰は自分の中にあるもの、踏み絵を踏んでも、信仰を変えることはできない、という気がした。

登場人物の中で、井上筑後守(イッセー尾形)が特に光っていた。狡猾で、ユーモアがあり、憎めない。夫もさかんに『あの俳優はすごい!』。イッセー尾形さんは『意地悪ばあさん』などテレビドラマに出演していて『長谷川町子物語』では、私が生まれる前に亡くなった祖父の勇吉役。私は見てないけど、なんか親近感。

Silence
マーティン・スコセッシ監督作品
主演:アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライヴァー、リーアム・ニーソン、イッセー尾形、浅野忠信、窪塚洋介
2時間40分
フランスで上映中

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まずララランド。
久々のライアン・ゴスリング、ゴールデン・グローブ賞を独り占め(7部門)で、前評判がすごかった。
封切りの週は、映画館の前に長蛇の列で諦め、翌週の夜、めでたく観れた。
舞台はロサンジェルス。女優志願のミアはオーデションの合間、カフェで働く。
冴えないクラブでピアノを弾くセバスティアン、彼の夢は本物のジャズクラブを開くこと。
それぞれ情熱を持つ2人が出会い、愛し合う。でも彼らの現実は夢とは遠いものだった。

ラ・ラ・ランド

ライアン・ゴスリングは相変わらずカッコよく、エマ・ストーンの目は相変わらず普通サイズの2倍だった。
セリフも全部歌っちゃうミュージカルは苦手だけど、これは普通に話して、時々歌い踊り出すパターン。

ラ・ラ・ランド

音楽はというと、オリジナルより、セバスティアンの弾くジャズがよかった。音楽&ダンス&キャストの魅力のエンターテイメントで、批評が悪くても観ただろうけど、賞を総舐めにするほどかな、と。ゴールデン・グローブの最優秀シナリオ賞もとっているけど、作品の3/4はもう何回も観たようなストーリーだ。
でも批評、前評判が良すぎたので、普段こういう映画を観ない人も来ていて、私の近くに座っていたおばあさんは後半で「なんて長いんでしょう!」 全然好みじゃなかったみたい。

監督のデイミアン・チャゼル監督は『セッション/Whiplash』(ドラム教師と生徒の殆どサドマゾの練習)で有名になった。この監督、フランスではダミアン・シャゼルと発音され、ゴールデン・グローブではまるでフランス人が受賞したみたいに騒ぐんで、フランス人なのかと思ったら、父親が仏米ハーフというだけだった。まったく・・・

日本では去年公開になった『ブルーに生まれて』。50年代のジャズ・トランペット奏者、チェット・ベーカーの人生の一コマを描いた作品は、上映館も少なく、長蛇の列もなかったけど、すごくよかった。

ブルーに生まれついて
photos:allociné

自伝映画の撮影中、チェット・ベーカーは駐車場で滅多打ちに殴られる。借金があったディーラーの仕業。チェットはヘロイン所持でムショの出入りを繰り返していた。
顎や歯を打ち砕かれ、撮影は中止。どころか、再びトランペットを吹けるだろうか?絶望するチェットを、撮影で知り合い愛し合うようになったジェーンは励まし、立ち上がらせようとする。でも、ヤクと手を切ることも、プロデューサーの信頼を取り戻すのも難しかった。

ジャズは特に好きなジャンルではないけど、チェットのトランペットは熱く切なく、演じるイーサン・ホークは限りなくセクシー。そして彼の才能と人生を滅茶苦茶にしたドラッグの怖さ。この作品は絶対2度目観るだろうな。

La La Land/ラ・ラ・ランド
デイミアン・チャゼル監督作品
主演:エマ・ストーン、ライアン・ゴスリング
2時間8分
あちこちで上映中。日本では2月24日公開
ロバート・バッドロー監督作品

Born to be bleu/ブルーに生まれついて

主演:イーサン・ホーク、カルメン・イジョゴ
1時間37分

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異様に太った全裸の女たちが、4段腹をブルブル揺らせて踊るシーンで始まる。スーザン(エイミー・アダムス)が企画したエクスポジションだ。
ギャラリーを経営するスーザンは、実は仕事に情熱をなくし、私生活に疲れていた:美男で金持ちの夫は彼女をほっぽらかし、仕事や女で忙しい。眠れない夜が続いていた。

『メッセージ』(仏タイトル『Premier contact』がよかったエイミー・アダムス。この作品ではちょっとワンパターン。

トム・フォード『Nocturnal Animals』

ある日、スーザンは小包を受け取る。19年会っていない前夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)が送ってきた著書だった。
『夜行性動物』と題された小説は、彼女に献辞されている。
眠れないひとりの夜、スーザンは本を開く:妻と娘と車でどこかへ向かっていたトニーが、いかがわしい2人組に絡まれ、悪夢のような出来事に発展していくというヴァイオレントなスリラー。

トム・フォード『Nocturnal Animals』

臆病だ、現実を直視しないとスーザンが批判していたエドワードと、作中のトニーが重なり、彼女の脳裏に結婚当時の場面が蘇る。

『Noctuenal Animals』夜行性動物。日本語タイトルは『美しきスリラー』とか。

トム・フォード『Nocturnal Animals』

トム・フォードの1作目『シングルマン』(2009)はひたすら耽美的で(コリン・ファースの完璧ファッション、エル・メゾンに出てきそうな家・・・)お話は現実味がなく(スタイリッシュ過ぎ。あんなに生活感なくて生活できるわけがないでしょ)退廃的。鬱になるプロモーションヴィデオを観たような印象だった。

2作目はシナリオがしっかりしているし(オースティン・ライトの『ミステリ原稿』が原作)、全然ファッショナブルじゃない人も出てくるし、俳優がいい(ジェイク・ギレンホールと刑事役マイケル・シャノン!)。小説と現実のダブり方も、ちょっと機械的だけど、よくできている。

トム・フォードはご存知のように、プレタ、コスメ、メガネまでやっていて、売れているのか知らないけど、とにかく高い。息子がメガネを選ぶとき、値段を見ずに「これ、いいね」と言ったらトム・フォードで、後悔したときは既に遅しだった。
とにかく多才な方のようで、1作目よりは随分いい。今週1本観るならこれかな。

Nocturnal Animals

トム・フォード監督作品
主演:エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール、マイケル・シャノン
1時間56分
フランスで公開中

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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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