Category : 映画

声の出ない週末も悪くない

週末、私はテレビの前に寝そべってCanal+ à la demande(オンデマンド)で映画を観続けた。
Canal+ à la demandeはCanal+でかかった映画だけでなく、古い映画、Arteでかかった映画もリストに加わり、選択肢が多い。

ジャン=ピエール・メルヴィルの『Un Flic/リスボン特急』(1972)はこれで3回目?メルヴィル(『Le Cercle Rouge/仁義』(1970)『Le Samourai/サムライ』(1967)・・・)は何回観てもいい。
シモン(リチャード・クレンナ、写真の真ん中)はナイトクラブのオーナー兼ギャング。ある組織が大量の麻薬をリスボン行き特急で運び出そうとしているという情報を得て、横取りしようとする。

一方腕利きの刑事コールマン(アラン・ドロン)も同じ情報を得て、リスボン特急を追いかける。
コールマンとシモンはかっての戦友で、シモンの愛人カティ(カトリーヌ・ドヌーヴ)はコールマンともできていた。
つまりみなさん、2つの顔を持っていた。

メルヴィルの映画は男たちが美しく、恐ろしくお洒落だ。
銀行強盗をする男たちのトレンチの着方、寝台特急の中のシモンのガウン姿なんて「モードのビデオクリップか?」と言いたくなる。

真ん中がシモン

メルヴィル『リスボン特急』

ドロンもカッコいいけど、この人は「俺は美しい」が顔に出ていて、 メルヴィルの撮り方がナルシズムをさらに助長する、という気がする。
彼が部下の刑事と乗り回している車に本署から電話がかかると、
「わかった。すぐに向かう。その後電話する」と無表情な顔で判を押したような答え。カッコつけすぎ。部下の刑事は電話を渡すだけの役で気の毒になる。

メルヴィル『リスボン特急』

そしてカトリーヌ・ドヌーヴが絶頂の美しさ。今、彼女がこの作品を観たら落ち込むだろう。

メルヴィル『リスボン特急』
photos:allociné

私がテレビを観ていると、必ず猫たちが寄ってくる。タマは私の上に寝て(6㎏が乗るとかなり重い)、リュリュは・・・

リュリュ

これ、字幕のときやられると困る。
他の映画で、ブノア・マジメルにも関心を示していた。リュリュは男の子なんだけどね・・・

リュリュ

週末アングレームから帰ってきた娘がお風呂場から叫んでいる。
「ファンデーションがなくて、授業に行くのやめようかと思った。目のクマが目立つのよ」
どう見たって、誰が見たって、クマなんかないのだ。”大クマ”のある私は「よく生きている」と思われているだろう。
「あ、コーダリーのFrench KIss、なかなかいい色じゃん」
「・・・・」
「持って行っていい?」
「・・・・」
私は返事をしない。声が出ないのもいいもんだ。


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風邪薬は映画!

朝起きると声が出なくなっていた。出そうと思えば出るんだけど、娘が、
「ギャーッ!すごいヘビースモーカーのオバアサンみたいな声」とケラケラ笑う。笑ってる場合だろうが。

前の晩、寒気がして気分が悪かったけど、いきなり声が出なくなるとは。週末に病気になるなんてまことにツイていない。
夫は出張でマラケシュに行っていて、「週末来たら?」と言われていたけど、帰りの飛行機が目から火が出るほど高くて諦めた。

友達と会う約束を断り、でも熱もないし寝込むほどじゃないし、こういう時は映画!
厚着をして、歩いて5分の映画館に赴き、ギリシャ人監督ヨルゴス・ランティモスの『Mise à Mort du Cerf Sacré/神聖な鹿の殺人』(原題『The Killing of a Sacred Deer 』

ヨルゴス・ランティモス『The Killing of a Sacred Deer』

スティーヴン(コリン・ファレル)は腕利きの外科医、眼科医の妻(ニコール・キッドマン)、2人の子供と大きな家に暮らしている。
裕福で幸せそうなブルジョア家族、なんだけど家庭には人間味がなくて会話もマニュアルっぽい。会話だけでなく、夜ベッドに入る時、妻は夫に「全身麻酔?」と尋ね、セックスの間“昏睡状態”を演じるのだ。

彼らのマニュアル生活に15歳のマーティンが登場する。彼の父親はスティーヴン執刀中に死亡した。

ヨルゴス・ランティモス『The Killing of a Sacred Deer』

同情を感じたスティーヴンは、プレゼントをあげたり、家に招待する。マーティンは家や病院に出没しだし、ますます“愛情”を要求し、それは脅しに変わっていく。
目には目を・・・

アメリカの家族にギリシャ悲劇を持ってきた。なぜかカンヌ映画祭でシナリオ賞を取ったけど、ギリシャ悲劇と現実に起こることがかみ合わなく、ストーリーに入り込めない。それを救おうとするのが主役の2人:有能な医師、良き夫、良き父という“殻”から、背徳的な地肌を垣間見せるコリン・ファレル。自分も不安だけど、人も不安にするのが上手く、何考えているのかわからないニコール・キッドマン。

ヨルゴス・ランティモス『The Killing of a Sacred Deer』
photos: allociné

帰って娘に「なんか後味の悪い映画だった」というと、
「ビョーキの時観たからよ。『ロブスター』はよかったのに」
子孫を残すことが義務付けられた近未来。45日以内に配偶者を見つけなければ動物に姿を変えられてしまう・・・という『ロブスター』は発想がオリジナルで、ユーモアもあった。
ヨルゴスさん、模索中?

Mise à mort du Cerf Sacré
ヨルゴス・ランティモス監督作品
主演:コリン・ファレル、ニコール・キッドマン、バリー・コーガン
2時間01分
フランスで上映中

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ぜったい!『天国でまた会おう』

伝達を咥えた犬が塹壕の中を走っていく。第一次大戦は休戦を迎えようとしていた。
最後の攻勢命令を犬から受け取ったプラデル中尉は、経験のない兵士を先行させ、死者を増やす。

映画『天国でまた会おう/Au revoir là-haut』

生き埋めになりかけたアルベールは危機一髪でエデユアールに掘り出され、しかしその瞬間、エデュアールは爆弾でぶっ飛んだ。アルベールは重度の火傷を負った“命の恩人”を助けようとする。

顔の下半分が無残に損傷し、軍用病院で痛みに呻くエデュアールにモルヒネを調達し、家には絶対帰りたくないという彼のために、名簿をすり替えてエデュアールが死んだことにする。彼は良家の息子。絵の才能を認めようとしなかった(「画家なんか職業ではない!」)父親にこんな姿は見せたくない。

病院で初めて自分の顔を見て・・・

映画『天国でまた会おう/Au revoir là-haut』

パリにたどり着いた2人は仕事もお金もなく・・・あるのはエデュアールの絵の才能と会計士だったアルベールの計算能力。2人は“復讐”を計画する:自分の保身しか考えず兵士の死を何とも思わなかったプラデル中尉(右)と、エデュアールの父親に代表される「権力」への復讐を。

映画『天国でまた会おう/Au revoir là-haut』

ゴンクール賞をとったピエール・ルメートルの『Au revoir là-haut/天国でまた会おう』

映画『天国でまた会おう/Au revoir là-haut』

本が傑作だったし、監督がアルベール・デュポンテル?これまで低予算・現代が舞台のナンセンスコメディを作った彼が、この歴史ドラマを?・・・と観るか観ないか迷った挙句、結局観たら、すごくよかった。

第一次大戦の戦闘シーン、顔を隠すためにエデュアールが次々と作るマスク、ホテル・リュテシアで繰り広げられる狂乱の時代のパーティ、そして世紀の詐欺計画・・・600ページ近くある原作を映画は2時間弱で駆け抜ける。テンポがよく、デュポンテル&ルメートル共同執筆のシナリオがよく、1920年代はじめのパリが美しく撮られる。

映画『天国でまた会おう/Au revoir là-haut』
photos:allociné

そして俳優がみんなはまり役:エデュアールは『120 battements par minute』(邦題『BPM』2018年3月公開予定)の主役ナウエル・ペレーズ・ビスカヤール。セリフは殆どなく(口を負傷してしゃべれない)すべての感情を目の動きだけで。
夢見がちで不器用なアルベールは、アルベール・デュポンテル(監督して主演だと自己満足っぽくなるのをうまく回避)、
高慢ちきな美男プラデル中尉をロラン・ラフィット。そしてエデュアールの父親はニエル・アレストリュプ(この役は彼しかいない!)。

ピエール・ルメートルはミステリーを1冊読んだら、文体とカミーユ・ヴェルーヴェン警部のキャラにほれ込み、全冊読んで「もう読むもんがない!」という時、この「天国で・・・」が出て、この作家の構成力と文才にぶっ飛んだ。
本も映画もお奨め!

Au revoir là-haut

脚本・監督:アルベール・デュポンテル
主演:ナウエル・ペレーズ・ビスカヤール、アルベール・デュポンテル、ローラン・ラフィット、ニエル・アレストリュプ
1時間57分
フランスで公開中

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大人の恋の難しさ

雪の降る森は無彩色の美しい光景。そこを牡鹿と女鹿が近づいたり離れたりしながら歩いていく・・・
屠殺場の支配人エンドルが毎晩のように見る夢だ。

ハンガリー映画『Corps&ame』

屠殺場に新しく入ってきた品質監督者マリアは、潔癖で融通がきかない性格。社員たちと馴染めず孤立していて、エンドルの目に留まった。
そしてある日、労働カウンセラーとの面接で、マリアが全く同じ夢を見ていることがわかった。
驚いて戸惑う2人。

ハンガリー映画『Corps&ame』

50代半ば(少なくとも)のエンドルは離婚して、殺伐とした一人暮らし。女はもういい、と思っていた。
30そこそこのマリアは、展示会場の見学用みたいな塵ひとつないアパートに住み、判で押したような毎日を送っている。男と暮らしたことがなさそうだ。
不器用な2人が、夢を現実にしようと手探りを始める。
エンドルは社員食堂ではなく、外で一緒にお昼を食べようと誘う。
お互いの夢を書いて交換しようと提案する。
マリアは会ったときに言うセリフを練習する。
音楽を聴いて心を開こうとする。

人間関係の難しさ、自分の殻を破ることの難しさを、御伽噺のような設定で見せるハンガリー映画。『Corps et âme/身体と心』(もうちょっとマシなタイトルつけられなかったの !?)

ハンガリー映画『Corps&ame』
photos:allociné

いい年の大人が、初恋の少年少女のように躊躇いながら惹かれていく様が、インド映画『ランチボックス』を思い出させた。

森の鹿たちの静謐な姿と、屠殺場の血生ぐさいシーン(ブリジット・バルドーが見たら失神しそう。牛肉を食べる私が「牛さん、可愛そう!」なんて言えないけど思わず目をつぶった)が対照的。
鹿さんたちは、ベルリン映画祭で金の熊賞を取っている。

Corps et âme
IIdiko Enyedi監督作品
主演:Alexandara Borbély, Marcsanyi Géza
1時間56分
フランスで上映中


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セクハラ、訴える勇気

チュニジアのある町。学生パーティに出かけるマリアムは興奮している。念入りにメイクし、友達から借りたちょっと大胆なドレスを着ていざパーティへ。
オリエンタルな音楽で踊り、見染めたユーセフと外に出たマリアムは、車に乗った2人組に強姦される。悪夢の始まり。
マリアムは回教徒。結婚するまで処女であることが肝心だ。強姦された証明をもらおうと病院に行くと、身分証明書がないと診てあげられない、警察に行けと言われる。身分証明書を入れたバッグは強姦された車の中に置いてきてしまったのだ。ユーセフに付き添われて警察へ。

不幸中の不幸は暴行犯人が警官だったこと。身内の恥をさらしたくない警官たちは「強姦されたなんて、君の、いや君の家族の恥じゃないか。訴えを取り下げろ」。威圧的な説得は次第に脅しになっていく。

「何しに来たんだ?」 この人たち、ヤクザじゃなくて警察官。

映画『la belle et la meute』(美女と猟犬の群れ)

パーティで出会ったユーセフは、自分の尊厳を護るために訴えろと励ます。

映画『la belle et la meute』(美女と猟犬の群れ)
腐敗した警察の中でたらい回しにされる一夜を描いた『La belle et la meute/美女と猟犬の群れ』。

映画『la belle et la meute』(美女と猟犬の群れ)

実話をもとにしているというのが更に怖い。アラブの国の中でもチュニジアは最も近代化して女性の権利も比較的尊重されているはずなのに。
監督は女性、『Challat de Tunis』(チュニスの切り裂き人)のKaouther Ben Hania。セクシーな格好(ミニスカートやぴっちりパンツ)をしている女性が、男性にお尻をナイフで切り裂かれる事件をユーモラスに描いている。今度の作品は警察の腐敗と、それを知りつつ沈黙する人たちを正面から描くサスペンス。

アメリカでハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ・スキャンダルの後、カナダ女性作家が始めた#MyHarveyWeinsteinに次いで、フランス版が登場した#Balacetonporc(あなたの好色漢を告発せよ)。職場で、メトロでセクハラ被害を受けた女性たちが一斉に口を開いて炎上した。
多くの場合、加害者は上司や権力のある人で、周囲も保身のため見て見ぬふり、被害者の話を聞き流す。あえて告発した勇気ある被害者の過半数が辞めさせられたり、格下げされていることがわかった。
世界でも女性の権利、地位が護られていると思われているフランスでこの実態!

この映画のマリアムの場合は宗教、家族。欧米では職場での報復を恐れて・・・理由は違うけど黙ることを選んでいた女性たち。ハーヴェイ・ワインスタイン事件は閉じ込められていた怒りの口火を切ったというわけ。

La belle et la meute

Kaouther Ben Hania(クテール・ベン・ハニア?)監督作品
チュニジア・フランス・スウェーデン・ノルウェー・リビア・カタール合作(!)
主演:マリアム・アル・ファージャニ、ガネム・ズレリ
1時間40分
フランスで上映中

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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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