Category : 映画

自由 VS 旧弊、モラルの対立

大気汚染でビルが霞んで見えるテヘランの街。そこで年老いた母と暮らすニルーファー、35歳、独身。
服の仕立アトリエを仕切り、再会した男友達とデートする幸せな女性だ。しかも美人。
ある日、母親が病院に担ぎ込まれ、お医者は、
「前にも言ったはずだ。公害のひどいテヘランにいたら死んでしまう。今度こそ田舎に転地させなさい」

イラン映画『un Vent de liberte/自由の風』

すぐに家族会議。兄2人と兄嫁2人は、ニルーファーが母親と一緒に転地することに決めてしまう。
「お前は独身だし子供もいない」
「でも仕事があるし、ここは私の街なのに・・・」
「エゴイストなことを言うな。お母さんがどうなってもいいのか?」
「それとこれは違うでしょ!15日交替にしない?」
「娘の高校があるのにそんなことできるか」
借金のある兄はアトリエを売って、その返済に充てようとする。
自由に、“近代的な女性”として生きていたニルーファーは、突然中世に引き戻される。

「なぜ私の人生を家族が決めるの ?!」

イラン映画『un Vent de liberte/自由の風』

いい感じの関係になっている彼も「テヘランから離れると、公害が恋しくなる」というほどのテヘラン好きだ。
家族の言いなりになって、仕事も恋も捨てなければならないのか?
イラン映画『un Vent de liberté/自由の風』

高校生の姪がニルーファーに味方するとこが、世代の交代を象徴。

イラン映画『un Vent de liberte/自由の風』
photos:allociné

検閲が厳しくて、イラン映画が長いこと寓話的なものが多かったそうだ。若い世代の監督が、欧米的な自由なモラルと、旧弊的な考え方の対立を描く作品を作り始めている。

その対立は、程度の差はあれどこの国にもあるだろうけど。
「(日本で)子供を迎えに行く父親は出世コースを外れる?」という記事を読んだ。
子育て世代の大部分が「父親も育児に参加すべき」と答えているのに、「男は稼ぎ、女は育児・家事」という一時代前の“決まり”や、「残業しなければ出世しない」というような企業の体質が足を引っ張る。
保育施設の足りなさも問題だけど、一番時間がかかるのは、考え方や世間の目を変えることだ。

Un Vent de liberté
Benham Bezadi/ベナム・ベザディ監督作品
主演:サハール・ドラチャヒ、アリ・モサファ
1時間24分
パリで上映中

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ワインは“私たちを繋ぐもの”

父危篤の知らせを受けて、ジャンはオーストラリアからブルゴーニュの実家に帰ってきた。
ワンマンな父親に反抗して、ワイン造りの実家を飛び出してから10年。妹のジュリエットは再会を喜ぶけど、弟のジェレミーは怒りを隠せない。
「僕たちがあくせくワインを造っている間、どこで何してたんだ?お母さんが亡くなったときも帰ってこないで!」

ジャンの帰りを待っていたかのように父親は亡くなり、若い3人の子供は重大な決断を迫られる:相続税を払うためにはブドウ畑の一部か、家を売らなければならない。

真ん中の俳優は副業(本業?)がブドウ栽培

セドリック・クラピッシュ『Back to Burgundy』

奥から、ジェレミー(フランソワ・シヴィル)、ジャン(ピオ・マルメイ)、ジュリエット(アナ・ジラルドー)の3兄妹

セドリック・クラピッシュ『Back to Burgundy』

大体、3人は家業を継いでいけるのか? ブドウ畑は600万ユーロの価値がある。全部売って新しいことを始める?ジャンはオーストラリアに妻と息子とブドウ畑が待っている。いずれ帰らなくてはならない・・・妹と弟は、ジャンも決して能天気な放浪生活をしていたのではないのを知る。

3人は話し合い、喧嘩になり、気を取り直してまた話し合い、決断は二転三転。
その間にブドウ収穫が始まり、広大なブドウ畑の上で季節が変わっていく。

セドリック・クラピッシュ『Back to Burgundy』

セドリック・クラピッシュの新作『Ce qui nous lie/私たちを繋ぐもの』(lieはワインの滓の意味もあって、かけている)。この作品は日本でかかりそうだ。タイトルは『Back to Burgundy』?

セドリック・クラピッシュ『Back to Burgundy』
photos: allociné

ストーリーが“読めてしまう”嫌いはあるけど、ワイン製造者の価値観がよく描かれている:彼らにとって土地(ワイン畑)は何よりの財産、一等級の畑は何にも代えられない。
シャンパン造りをしていた従弟は、ブドウ畑オーナーの娘と結婚させられそうになり、それを蹴って村のミス・コンテスト(!)で優勝した美人と結婚した。2人の娘が家業を継がなかったのを最後まで悔やんでいた。
クラピッシュは、大勢でワイワイというシーンが上手い。ブドウ収穫が終わった日の打ち上げは、何度か収穫に駆り出された息子が話していた通りだ。
これまでバルセロナやパリの大都会を舞台にした作品が多かったけど、今度は見渡す限りの田舎。クラピッシュの撮るワイン畑の表情は美しく、家族を繋いでいるようだ。
シャンパーニュの田舎の風景を思い出し、3か月前に亡くなった従弟が、映画のお父さんに重なった。

Ce qui bous lie
セドリック・クラピッシュ監督作品
主演:ピオ・マルメイ、アナ・ジラルドー、フランソワ・シヴィル
1時間54分
フランスで公開中


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韓国版 “真昼の悪魔”

明け方、ひとりで朝ごはんをかきこんでいるBongwan。そこに寝間着姿の奥さんが現れる。
「どうしてこんなに早くに行くの?」
「眠れないから」
「あなた、なんか変よ」
「変?・・・」

ホン・サンス『The day after』

「愛人がいるんじゃない?」
男は笑ってご飯をかきこむ-汁かけご飯に漬物(キムチ?)をのせてズズッと食べるんだけど、食べ方がなかなかうまい。
「答えなさいよ」
「ズズズ・・・」

彼は小さな出版社を経営し、唯一の女子社員とできていた。彼女が去って1か月になる。オフィスに向かいながら、Bongwanはまだ彼女のことを考えている。
オフィスが彼らの愛の巣だった・・・

ホン・サンス『The day after』

その日は、新しく雇った社員の第一日目。若く綺麗でやる気満々の女性がやってくる。

ホン・サンス『The day after』

差し向いでお昼を食べ、本が山積みになった小さいオフィスに2人。そこへ奥方が躍り込んでくる・・・

ホン・サンスの『Le jour d’après/The day after』。
この表情がまさに中年のメランコリー!

ホン・サンス『The day after』

今年のカンヌ、コンペティション参加作品、賞は取らなかったけど評判はよかった。

人生の後半に差しかかり妻とは倦怠期、もう一花咲かせたいと焦る50男が、モト愛人、一日目の女子社員、嫉妬に狂う妻の板挟みになるお話。
フランス語ではDémon de midi/真昼の悪魔と呼ばれる、中年過ぎ現象-若さへの執着、性的誘惑-をユーモラスに細やかに描いている。
エリック・ロメールが引き合いに出されるけど、ロメールより自然でリアル。
しょっちゅう差し向いでお酒(韓国のお酒は強いの?)を飲んでいるとこは小津の映画のようだ。
でも何より、フィリップ・ガレルの『L'Amant d'un jour/一日の愛人』を思わせる。ともにモノクロで、50男+すごく若い2人の構図・・・
恋愛において、優位に立つのは女なのだ

Le jour d’après
ホン・サンス監督作品
主演:Kim Min-Hee(キム・ミニ) Hae hyo Kwon、Kim Saeybuk
1時間37分
フランスで上映中

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モノクロのパリ、奇妙な三角関係

大学の廊下で出会う教授と女子学生。2人は事務的な感じで一緒に歩き、教授用トイレに入り、激しく愛し合う。彼50歳、彼女23歳。
「最初の哲学の講義で、あなたは『哲学は生活と対立するものではない』と言って、私を見たの。覚えてる?」
「いや」
「その時、あなたを好きになったの」

彼(エリック・カラヴァカ)と彼女(ルイーズ・シュヴィロット)

フィリップ・ガレル『一日の愛人』

ある晩、婚約者に追い出された彼の娘が目を泣きはらしてやってくる。

彼と娘(エステル・ガレル)

フィリップ・ガレル『一日の愛人』

父は慰め、泊まっていくように言う。テーブルの上に花柄のペンケースがあるのを見た娘、
「誰かいるの?」
「うん・・・」

翌朝、顔を合わせる彼女と娘。
「私たち同い年なの、イヤじゃない?」
「別に・・・いつから一緒にいるの?」
「3か月前から。あなたのお父さん口説くのに時間かかったんだから」
「あなたが口説いたの?」
「そうよ」
突然、2人の若い女と暮らすようになったオジサン教授。彼は、若い彼女との生活が続けばいいと願う。
彼女は、落ち込んでる娘に服を貸し、一緒に料理を作り、外に連れ出そうとする。連帯感もあれば嫉妬もある。彼が帰ってきて、まず娘にキスすると癇癪を起すのだ。

彼女と娘

フィリップ・ガレル『一日の愛人』

フィリップ・ガレルの『L'Amant d'un jour/一日の愛人』。
この監督は、いつも同じテーマ“愛”を、ごくシンプルに描いて-モノクロ、一人称、飾り気のないパリの日常、アパルトマン-どっぷり感情移入できて、後を引く。
ストーリーはすべて彼の経験から生まれているそうだけど(そんなに若い愛人がいた?)そぎ落とされ、「愛に苦しみは不可欠?」という普遍的な問いかけが浮かび上がる。

お父さんが名優のモーリス・ガレルで、13歳のとき最初の短編を撮った。息子のルイ・ガレル、娘のエステル・ガレル(この作品の娘役)も俳優で、映画と人生に境界がないみたいな人。ゴダールやロメールと比較される。
私はガレルのほうが好きかな。『ジェラシー』(2013)、『女の影』(2015)も、もう一度観たい。

ところで、この映画で男50歳-女23歳=27歳差で、誰も驚かないのに、逆(ブリジット-マクロン=24歳差)だと世界中が騒ぐのね。

L’Amant d’un jour

フィリップ・ガレル監督作品
主演:エリック・カラヴァカ、エステル・ガレル、ルイーズ・シュヴィロット
1時間17分
フランスで公開中

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フランソワ・オゾン 『ダブルの愛人』

クロエはずっとお腹が痛くて(お腹と言っても下腹。食べ過ぎてお腹が痛くてもフランス語はmal au ventreで同じ)婦人科に行くけど、何も異常はない。精神的なものでは?と言われて、精神分析家に会いに行く。
回を重ねるうち、分析家ポールはクロエに「職業倫理に反する感情を覚え(早い話、彼女が好きになった)これ以上続けていけない」と告白する。同じ感情を抱いていたクロエは喜ぶ。
数か月後、一緒に住み始めた2人。引っ越しの段ボールを開けていたクロエは、ポールのパスポートに別の姓が記されているのに気づく。 数日後には、いるはずのない場所でポールを見かけ、一緒に暮らしている男性に、秘密の部分があるのを疑い出す。

「何か隠してるでしょ」「そんなことないって・・・」
クロエ(マリーヌ・ヴァクト)とポール(ジェレミー・レニエ)

フランソワ・オゾン『L'Amant double/ダブルの愛人』

フランソワ・オゾンの最新作『L’Amant double/ダブルの愛人』。

フランソワ・オゾン『L'Amant double/ダブルの愛人』

この監督、毎年のようにカンヌのコンペティション作品に選ばれるのに、賞が取れない。でも彼ほど、毎回ガラリと違った作品を作る監督は珍しい。彼ひとりかも。
『Frantz/フランツ』(2016)の舞台は第一次大戦直後のドイツの村。婚約者フランツを戦争で亡くしたドイツ女性と、フランツと戦地で知り合ったというフランス男性の物語。
『彼は秘密の女ともだち』(2015)ではロマン・デュリスを女装させ、『17歳』(2014)は高校生売春のお話。
遡って『8人の女たち』(2002)は、殺人をきっかけに家族の秘密が次々に暴かれる心理劇をミュージカルコメディ(!)で。

この『L’Amant double』はジャンルで言えばエロティックサスペンス。クローネンバーグの『戦慄の絆』やポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』、ヒッチコックの作品の雰囲気もある。
とにかくクロエ役のマリーヌ・ヴァクトが綺麗、中性的な裸を惜しげもなく見せる。ジェレミー・レニエもカッコいい。背景も美しく、特に精神分析家の家の豪華さ(分析家が概してリッチだけど、ちょっとやりすぎで現実味がない)。
しかし。ジャクリーン・ビセットとの最後が、夫も私も「????」。帰って批評を見たけど、ネタがばれるのでどの批評も言及していない。
若いころのジャクリーヌ・ビセット。ミステリアスな雰囲気がマリン・バクトに似てない?

ジャクリーヌ・ビセット

信憑性には欠けるけど、俳優が魅力的&官能的でサスペンスがあるので、一見の価値あり。

チケットを買う時「“愛人”2人」と言ったら、横にいたマダムが「まあ!」と目を輝かせ、
「しかも『ダブルの愛人』だから計4人!」とうっとりした顔になった。

L’Amant Double
フランソワ・オゾン監督作品
主演:マリーヌ・ヴァクト、ジェレミー・レニエ、ジャクリーン・ビセット
1時間47分
フランスで上映中


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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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