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Category : 映画

森の中に住む父と娘

朝露を水代わりに飲み、穴を掘ってかまどを作り煮炊きをし、小さなテントの寝袋で眠る。父が「演習!」と叫ぶと、2人は駆け出し、灌木や草むらに身を隠す。誰かが来た時の予行演習なのだ。

デブラ・グラニク『Leave no trace』

イラク戦争に行った父親はそのトラウマで人間や文明社会が耐えられなくなり、娘を連れて森に逃げ込んだ。娘のトム(トマシンの略称)は15歳。背は高いけど、体つきはまだ少女。

デブラ・グラニク『Leave no trace』

育ち盛りの彼女には草やキノコのソテーでは全然足りない。ときどきリュックをしょって町のスーパーに買い出しに行く。
ある日、警察が森に入り込んできて、“演習”の甲斐もなく2人は捕まってしまう。そして家と食糧、父には仕事が与えられ、トムは学校に登録できることになる。
新しい生活にトムはすぐ馴染み、友達もできそうだ。でも父親は落ち着かず、人々の善意も息苦しく感じ、逃げ出そうとする・・・

眼が座っててふつうじゃないので、「お父さんは乱暴しない?」とソーシャルワーカーは聞くけど、ふつう以上に優しいパパだ。

デブラ・グラニク『Leave no trace』


『ウィンターズ・ボーン』のデブラ・グラニクの最新作『Leave no trace』。跡を残さず。

デブラ・グラニク『Leave no trace』
photos:allociné

この映画、一緒に観た夫は「美しい物語」といい、私は「辛い話じゃない!」
父と娘の愛情、連帯、自然の描き方が美しい、と夫。
戦争のトラウマがあるからと言って、学校にも行かず友達もいなくて、いつもお腹を空かせ夜は寒さに震える生活を娘に強いるのは可哀そすぎる、と私。
早い話、夫は男性(父親)に、私は女性(娘)に感情移入したってこと。自分がすごい寒がりなもんで余計可哀そうと思ったのだ。
でも夫の言うことも一理あり。お父さんがトムの勉強を見てきたお陰で、彼女は同学年以上のレベルがあるし、何より助け合い、支え合う2人の間に強い愛情が感じられる。
お父さんのトラウマの原因は説明されない。ありきたりの戦争シーンのフラッシュバックとかがない。その結果-殆ど口をきかず、娘以外には全く“閉じている”-だけが描かれる。
傑作とはいわないけど、後に残る作品。

Leave no trace
デブラ・グラニク監督作品
主演:トマシン・マッケンジー、ベン・フォスター
1時間49分
フランスで公開中

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医師、歯科医、助産婦(夫)、薬剤師の医療関係に進みたい学生たちは、最初の1年、共通のカリキュラムで勉強し、2年生になるときの試験でふるいにかけられる。

アントワーヌは3回目の“一年生”、バンジャマンはバカロレア取得からストレートに一年生になった。
いかにして2年目に残るか、という熾烈な一年間、同級生との、自分との闘いの一年間だ。
オリエンテーションのとき、隣同士に座ったことで2人は仲良くなる。バンジャマンは医者の息子で、大学の近くにスチュディオを借りてもらっている。郊外に住むアントワーヌは時間の節約のため、バンジャマンのスチュディオに居候することに。

1時間前に行かないと席が取れない大階段教室での授業、その後はBU(大学図書館)で勉強、

映画 『Premiere annee』

休みの日は「頭のフレッシュな午前中は○○、昼休み40分、午後は××、17時休憩、その後は▽▽・・・」(○○や××が何だったか忘れました)

開けても暮れても復習し、暗記し、いつ掃除したかわからない部屋はポストイットが貼り巡らされ、友達づきあいも娯楽も切り捨てた1年。

映画 『Premiere annee』

その果てには、無味乾燥なヴィルパントの倉庫で行われる試験。そして発表の日・・・たった一日の試験で一生が決まる不条理を可笑しく哀しく描くいた『Première Année』(一年生)

映画 『Premiere annee』

監督は自らお医者さんのトマ・リルティ。
『ヒポクラテスの子供たち』(2014)、『Médecin de compagne(田舎のお医者さん)』(2016) に続いて3作目も自分の経験をもとにした作品。
非人間的な受験生活、そのストレスを演じる2人、ヴァンサン・ラコスト(アントワーヌ、右)とウィリアム・レブギル(バンジャマン)が上手く、

映画 『Premiere annee』

御伽噺のような結末もそんなに気にならない。予想以上によかった。

うちの子供たちの友達で、医学部を選んだ子が“まったく姿を見せなくなった”理由が、この映画を観てわかった。
でもこんなに医師不足が問題なのに、ヌメルス・クラウズス(定員制限)でふるい落とすんだろう?
2017-18年の定員制度は医学部8205席、歯科学1203席。志願者は5万7700人という狭き門。
まあ、医者に向かない人やデキの悪い人がなっても困るけど。

ところが偶然のように、この映画が封切りになって(9月12日)数日後、この定員制度を間もなく廃止する、と政府が発表。
この一年間は、医学を目指す学生たちにとって地獄である、と。いいことです。でも、もっと早く気がつけばよかったね。

Première Année
トマ・リルティ監督作品
主演:ヴァンサン・ラコスト、ウィリアム・レブギル
1時間32分
フランス全国で公開中


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古いのに古びない小津の作品

フランスの映画批評で「オズの世界」「オズを彷彿とさせる」というセリフに時々出会う。
最初、なぜオズの魔法使いが出てくるの?と思ったけど、小津安二郎のことだった。

小津作品を知ったのはフランスに来てから。「え?オズ観たことないの ?!」と驚いた友人が連れて行ってくれた。
小津がフランスで(日本より?)人気があるのは、エリック・ロメールの日本版だからではないかと思う。2人ともふつうの人たちの人生の一コマを切り取り、人間関係や感情を細やかに描く。背景には時代を感じても、登場人物たちは少しも古びていない。

今年もいくつかの映画館で小津回顧特集をやっていて『彼岸花/Fleurs d’équinoxe』を観た。

左から有馬稲子、山本富士子、久我美子

小津安二郎 『彼岸花/Fleurs d'equinoxe』

大企業の常務、平山(佐分利信)は、適齢期の長女・節子(有馬稲子)の相手に頭を悩ませていた。
次女が「お姉ちゃん、自分でいい人見つけるわよ」と言うと「そうだといいけどねぇ」と鷹揚に返事をしていたくせに、谷口(佐田啓二)が会社に現れ、節子とつき合っていると言うと、途端に拒絶反応を示す。
一方、馴染の京都の旅館の女将(浪花千恵子)も、娘・幸子(山本富士子)の縁談にヤキモキしている。「お母ちゃん、あの人はどうか、この人が良さそうだ、と勝手に選ぶけど、自分の相手は自分で決めたい」と幸子に相談されると、「そりゃそうだ、幸子ちゃんの結婚だもの」(セリフはすべてアバウトです)と理解を示す。なんという矛盾!

この作品は1958年公開だから60年前。東京の風景やちゃぶ台の食卓に時代は感じても、人間の気持ちは変わっていない。

小津安二郎 『彼岸花/Fleurs d'equinoxe』

マッチョ夫(佐分利信)を巧みに懐柔する妻(田中絹代)

小津安二郎 『彼岸花/Fleurs d'equinoxe』

男たちは、形だけでも自分で決めないと気が済まない。「大事な娘をやるのに親の意見も聞かずに決めて!私は反対だ!」
女たちは真っ向からは反論せず、父親の顔を立てながら、小気味よくしたたかだ。

当時の名優が顔を並べ、女性たちがとても素敵。平山の妻(田中絹代)や浪花千恵子、山本富士子の着物が決まっていて、裾を少しも乱れさせず走る姿に見とれた。有馬稲子の“洋装”はそのまま真似したいくらいエレガント。

この映画、夫に見せたい。娘のボーイフレンドに懐疑的で「いい子じゃない」と言っても、ブスっとしている。“大事な娘”には、どんな男子も相応しくないと思っているらしい。ヤレヤレ・・・

彼岸花/Fleurs d'Equinoxe(修復バーション)
監督:小津安二郎
主演:佐分利信、田中絹代、有馬稲子、山本富士子、久我美子
1時間57分
パリのMK2Parnasse、MK2Bastille、その他インディペンダント映画館で9月4日まで


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イヤと言えない不幸

セクハラの話ではない。
イタリアのどこか、汚れたコンクリートの建物が続く貧しい一画で、マルチェロは犬のペットショップをやっている。
妻とは別れたけど一人娘をお姫様のように大切にし、近所の人たちとも仲良く、好きな犬の手入れを仕事にし・・・つまり、貧しいながら文句なく暮らしていた。

映画『Dogman』マッテオ・ガローネ

そこへ友達のシモーネがムショから出てきた。元ボクサー、コカイン中毒、暴力的なシモーネ は界隈の悩みの種になるが、報復が怖くて誰も警察に訴えようとしない。“殺し屋”を雇ったらどうか、と言い出す人も。
か細い体躯、イヤと言えない性格のマルチェロはシモーネのいいカモだ。コカインの調達に始まり、もっとヤバい犯罪に巻き込まれていく。
イタリア映画『Dogman』

映画『Dogman』マッテオ・ガローネ

シンプルなシナリオを背負う主役は2人:今年のカンヌで最優秀男優賞をとったマルチェロ役のマルチェロ・フォンテ。
シモーネの脅しに負け、悪の深みにはまっていく“善人“の心理状態。上手い!

映画『Dogman』マッテオ・ガローネ

そして、ここがイタリア ?と思う、裏ぶれて寒々しい海辺の風景が、マルチェロの運命に重なる。

映画『Dogman』マッテオ・ガローネ
photos:allociné

監督は『ゴモラ』のマッテオ・ガローネ。ナポリの実在マフィア・グループ、カモッラを描いたロベルト・サヴィアーノの『死都ゴモラ』の映画化だ。サヴィアーノはこの作品を書いたことでカモッラから殺すと脅され、警察の保護下で暮らしている。

『ゴモラ』の日本版と言えるのがジェイク・エーデルスタインの『Tokyo Vice』。読売新聞の初の外国人記者エーデルスタインは、ヤクザ後藤組とFBIの取引をスクープしようとして、後藤組にばれ、記事を公開したら命の保証はない、と脅された。
そのいきさつを書いたのが『Tokyo Vice』で、超面白い。仏語版は出たのに日本語版が出ていないことにヤクザの怖さを感じる。
あ、これ以上書くと、私も狙われるかもしれないので、話を戻して『Dogman』。
マルチェロの表情と灰色の風景が残る名作、お奨めです。

DOGMAN
監督:マッテオ・ガローネ
主演:マルチェロ・フォンテ、エドアルド・ペスケ
1時間42分
フランスで公開中


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電話の会話だけで描かれる“犯罪”

「112です、どうしました?」デンマークの“110番”は112番らしい。
業務上過失で電話番に左遷されたAsgerは一日中112番の応対をさせられている。
娼婦にお金を盗まれた男性や、転んだオバサンの通報にウンザリしていると、マジに切羽詰まった女性の声:彼女は誘拐され、車でどこかに連れ去られるところ。誘拐したのはモト夫。家には小さい子供が2人残されている。
家に警官を送って子供の安否を確認しなければいけない。
車の位置を突き止めなければいけない。
電話は一方的に切れる。女性がまたかけてくるのをAsgerは待つしかない。

彼の勤務時間は間もなく終わる。同僚が「帰っていいよ、引継ぎが来るから」と言う。左遷のいきさつを知っている同僚たちは彼をうさん臭い目で見る。
でも今帰れない。
あの女性は自分が助けなければ・・・

デンマーク映画、『The Guilty』

デンマーク映画『The Guilty』

警察署の電話交換室という密室

デンマーク映画『The Guilty』

女性と“誘拐犯”と長女との会話だけで事件が描かれる。

デンマーク映画『The Guilty』
photos:allociné

「ママは帰って来るの?」と繰り返す6歳の長女、
「アンタ誰だ?関わるな」というモト夫、
Asgerだけを頼りにする女性・・・声が映像を結び、彼らが見えるような臨場感。

ここ10年くらい北欧の推理小説(個人的に好きなのはジョー・ネスボ、ユッシ・エーズラ・オールソン、スティーグ・ラーソンの『ミレニアム』・・・)が注目されるけど、この映画のシナリオ、独創性には脱帽!
監督&シナリオはGustav Möller、なんと彼の1作目。

ヒッチコックは電話ボックスの中だけを舞台にしたスリラーを撮るのを夢見ていたそうだ。
このデンマーク人、グスタフさんが実現した。

The Guilty
監督/シナリオ:Gustav Möller
主演:Jacob Cedergren、Jacob Ulrik 、Lohmann Laura Bro
1時間25分
フランスで上映中


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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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