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Category : 映画

だんだん怖くなる『優しい歌』

若い夫婦、ミリアムとポール。2人目の子供が生まれてから産休を取っていたミリアムは社会復帰したくなる。
育児と家事に疲れた主婦になりたくない。
「まだ子供が小さいのに」「ボクの稼ぎでやっていけるのに」と夫は渋々だったが、愛する妻の希望だ。
Nounou(乳母)を探すことにする。
何人目かに面接にやってきた中年のルイーズ(カリン・ヴィヤール)は、経験があり、子供の対応は自分たちより慣れている。信頼できそうだ。

果たして仕事の一日目、ミリアムがうちに帰ると、子供たちは大人しく遊び、うちの中はきれいに片付いていた。
申し分のない乳母をみつけた、と満足の2人。

ルイーズは次第に領域を広げていく:子供たちのしつけをし、ピクニックに連れて行き、長女のお誕生日会を企画し、夕食の支度もする。

『ヌ-完璧なベビーシッター』映画

ミリアムは母親の役割をひとつひとつ取り上げられ、「私は産んだだけ?」と当惑する。
それでも仕事は面白く、専業主婦に戻る気はさらさらないのだ。

産みの母(レイラ・バクティ右) VS 乳母(カリン・ヴィヤール)

『ヌ-完璧なベビーシッター』映画

一方ルイーズはボロいアパートに一人暮らし。
愛する配偶者、やりがいのある仕事、可愛い子供・・・ミリアム&ポールの持っているものをひとつも持っていない。
孤独を埋めるのは彼らの子供たちだけ。日増しに大きくなっていく執着と嫉妬。
ルイーズが決して“申し分のない乳母”ではないことにミリアム&ポールも気づきだした。でもそれは遅すぎた。

『Canson douce』。優しい歌。邦題『ヌヌ 完璧なベビーシッター』。
2016年にゴンクール賞を取ったレイラ・スリマニの本の映画化だ。

『ヌヌ-完璧なベビーシッター』映画

プレスと観客の批評はあまり良くないんだけど、私にはけっこうよくできた作品だった。期待しなかったせいもある。
「スバらしい」「傑作」と言われて観るとがっかりすることがあるものね。

原作は「遅すぎた。赤ん坊は既に死んでいた。姉ももう長くはなかった。2人を殺してから、乳母は自分の喉にナイフを突き立てた。でも死ねなかった。彼女は死を与えることしか知らなかったのだ。」(拙訳)から始まり、ネタバレも何もないけど、映画は嬰児殺しを最後に持ってきている。

殺人に至るルイーズの心理変遷が原作より描かれている気がした。カリン・ヴィヤールがやっぱり上手い。
「女優生活30年で初めて、この役がどうしてもやりたいと思った。映画化の権利を買ってくれと頼んだ」というだけあって役に投資している。彼女はいつも上手いけど。
階級の差という壁、憎しみと表裏一体の過度な愛情・・・深いテーマの作品。お奨めです。

CHANSON DOUCE
リュシー・ボルルトー監督作品
主演:カリン・ヴィヤール、レイラ・バクティ、アントワーヌ・レナルツ
1時間40分
フランスで公開中


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パリ郊外の“ああ無情”

2018年7月。フランスはサッカーワールドカップの優勝に沸き返っている。
パリ郊外モンフェルメイユに住むアフリカ系の子供たちも、トリコロールの旗を持ってシャンゼリゼ通りのパレードに繰り出した。
肌の色は違ってもみんなフランス人なのだ。

ステファン(左)はシェルブールから、このモンフェルメイユの警察に配属される。
2人の警官、クリスとグワダとチームを組み、町をパトロールする一日目。

映画『レ・ミゼラブル』

住民の殆どが移民であるのに驚き、権限を振りかざして彼らを制圧しようとするクリスのやり方に疑問を持つ。
これじゃ警察官というよりヤクザだ。

間もなく、町で興行するジプシーのサーカス団から「ライオンの赤ちゃんが盗まれた」と通報がある。「24時間以内に返さないと、町の黒人集団は痛い目に遭うぞ」
なるほど痛い目に遭わせそうな強面のジプシーたち。

映画『レ・ミゼラブル』

ステファンら3人は、インスタグラムでライオン赤ちゃんの写真を見つけ「少年イサが怪しい」。

映画『レ・ミゼラブル』

遊んでいたイサを捕まえようとするが、凶悪犯を捕まえるようなヴァイオレントな追跡になる。
イサの仲間の子供たちに取り巻かれ、パニックになったグワダは、スタンガンを取り出す・・・(これ以上は書かないほうがよさそう)

マリ人、ラッジ・リの初長編映画『レ・ミゼラブル』。
今年のカンヌ映画祭で審査員賞を取った。

映画『レ・ミゼラブル』
photos:allociné

最初は警官の行き過ぎを描いた作品に見える。黄色いベストの暴動の制圧に、警官が必要以上に自衛&防犯武器を使うのが問題になっているし。
しかし作品は、移民の子供たちが束になったときの、制圧できない反抗パワーもたっぷり見せる。
それは大の大人の警察官たちが震えあがるアグレッシブさ。映画の冒頭で、フランス優勝を無邪気に喜ぶ同じ子供たちと、見事なコントラストだ。

移民を受け入れるのはいいけど、ちゃんと受け入れられるかが問題なのだ。すぐに学校制度から落ちこぼれ、一日中町を徘徊して、盗みや万引き、暴力を覚えていく子供たち。
俳優は警官だけ。住民、子供たち、ジプシーまでみんな本物。だからこのリアルさ。

最後にヴィクトール・ユーゴーの『ああ無情』から抜粋される。
『世には悪い草も悪い人間もいるものではない。
ただ育てるものが悪いばかりだ』

内容だけでなく撮り方も上手く、初の長編映画とは思えない完成度。是非、日本でもかかって欲しい。

Les Misérables
ラッジ・リ監督作品
主演:ダミアン・ボナール、アレクシ・マネンティ、ジェブリル=ディディエ・ゾンガ
1時間42分
フランスで公開中


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泣きっぱなし、でも観てよかった


若いシリア女性Waadがのアレッポの日常をヴィデオに撮った『For Sama/サマのために』

For Sama

2012年~2016年、シリア内戦で政府軍と反対勢力が街を東西に二分割して戦い、4年間戦場と化した。

For Sama

内戦が勃発した当初は学生だったWaad/ワードは、アレッポの日常をヴィデオに撮ろうときめる。
若い医師ハンザと出会い結婚。

For Sama

彼の勤務する病院には毎日砲弾で負傷した住民が運ばれてくる。
間もなくワードは妊娠し、女の子を産み、サマと名付ける。
シリア語で空の意味。空のように自由で明るく・・・

For Sama
photos:allociné

しかしアレッポの日常は次第に地獄絵になっていく。
病院は次々に爆破され、ハンザのいる病院だけが残る。血と死体は日常の光景になり、命が縮まるような砲弾の音が続く。
その中でサマは希望の具現のように見えるが、
「初めてサマを産んだことを後悔した。ハンザに出会わなければよかった・・・」

とにかく全編、観客がみんな泣きっぱなし。彼らは娘を護り、その日を生き延び、怪我人を助けることで泣く余裕すらないのだ。

彼らの勇気、人間愛、そして美しさ。そう、人間の美しさに打たれる。
カンヌ映画祭で「これまでで一番優れたドキュメンタリー」と称された作品。
どんなフィクションも、この説得力には敵わない。日本でかかるといい。

Pour Sama(For Sama)
Waad al-Khateab監督のドキュメンタリー
1時間40分 
フランスで上映中


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大工、配管工、建具屋・・・ありとあらゆる建築業を転々としてきたリッキー。老人の在宅介護をしている妻のアビーと子供2人の家族は団結していたが、借金は膨れる一方。
リッキーは配達ドライバーになることを決める。社員ではなく“個人事業主として”という条件は魅力的に響いた。

ケン・ローチ『家族を想うとき』

ケン・ローチ『家族を想うとき』

自分の会社だ。トラックも会社のリースではなく自分のを買うことにし、そのためにアビーに彼女の車を売ってくれ、という。在宅介護に車は必需品だが、
「この仕事で、自分たちの持ち家が現実になるんだ」

しかし蓋を開けてみると、配達ノルマは膨大で、昼ご飯どころかトイレに行く時間もない。うちに帰るのは夜の9時。彼の仕事ぶりは一日中見張られている。社会保障も自分の負担だ。
“個人事業主として”は、実は雇い主にだけ都合のいい罠だった(“ゼロ時間契約”と呼ばれるらしい)。
リッキーとアビーは必死に働くうち、思春期の息子を見失っていく。

ケン・ローチの『Sorry we missed you/家族を想うとき』

ケン・ローチ『家族を想うとき』

88歳の監督は、競争の激しい通販業界を舞台に、落ちていく中産階級を訴える。

ken loech
photos:allociné

フランスではレストランの料理宅配会社の配達人が抗議して、彼らの労働条件が明るみに出た。正方形の大きなリュックを背負い、自転車で配達する彼らはみんな個人事業主。事故(多い)に遭ってもカバーされないのだ。

2012年の『天使の分け前』(社会奉仕活動を強いられたロビーがウィスキー蒸留工場で、自分のテイスティングの才能を発見する)、2014年『ジミー、野を駆ける伝説』(10年ぶりに祖国アイルランドに帰ったジミーが。かって自分が開いたダンスホールの再開を試み、地元権力とぶつかる)まではケン・ローチの作品に希望があった。その後一作ごとに絶望的になっていく。

先日ご紹介した『Hors Normes/規格外れ』は苦境にも笑いを混ぜているが、『家族を想う時』は、これでもかこれでもか、と真っ向からリッキー一家の不幸を描く。前者はアソシエーションの人間にスポットを当て、後者は労働状況がテーマになっているせい?

ケン・ローチの説得力も甚大だ。映画が終わったとき拍手が起き、誰かが「アマゾンで買うのはやめよう!」と叫びまた拍手。

原題の『Sorry we missed you/ご不在につき失礼』は宅配会社が残すメッセージ。同時に、両親が仕事で遅くまで帰らないので、路頭に迷ってしまう子供たちへの「ごめんね」というダブルのメッセージだ。日本語タイトルも残せばよかったのにね。
お見逃しなく!

Sorry we missed you
ケン・ローチ監督作品
主演:クリス・ヒッチェンズ、デビー・ホネーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター
1時間40分
フランスで公開中
日本公開は12月


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涙よりユーモアで訴える社会派映画

自閉症の子供をの世話をするアソシエーションを運営するブリューノ。
マリックは貧困地区で路頭に迷う若者援助のアソシエーション代表。自閉症の子供の世話ができそうな若者を教育し、ブリューノの手伝いをさせている。
ブリューノは、国の施設や病院が「手に負えない」と音を上げた子供を引き受けている。
口をきかない子供は怒りや不満が他人や自分への暴力となって噴出する。
頭を壁にぶつけ続けるヴァランタンは一日中ヘルメットを被らされている。

トレダノ&ナカシュ『Hors Normes』

比較的軽症のジョゼフは工場で1週間の研修までこぎつけた。ただし、メトロに乗る度に非常ベルを押してしまう。

トレダノ&ナカシュ『Hors Normes』

ただでさえ忙しすぎるブリューノのアソシエーションに国の監査が入る。
「資格のない若者に自閉症の世話をさせているそうですが・・・」
成果よりも、規格に準じているかどうかが大事なお役人はどこの国でも同じだ。

実在の人物、ブリューノとマリックの日常をエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュが映画化『Hors Normes』。
“規範を脱した”という意味。

トレダノ&ナカシュ『Hors Normes』
photos:allociné

このコンビの大ヒット作『最強の2人』-車椅子の富豪と移民の看護人の可笑しく感動的な物語-も実話だった。

この『Hors Normes』も深刻な問題を扱いながら、泣かせようとせず逆にユーモラス。社会問題を扱うトレダノ&ナカシュの最強の武器はユーモアなのだ。それは一緒に観た娘に「あんな仕事がしたくなるね・・・」と言わせる説得力を持っている。そんなに簡単に言われても困るけど、人助けになることをしている人たちの苦労と生きがいが、伝わってくる作品だ。

マリック演じるレダ・カテブ(『ヒポクラテスの子供たち』)はいつもながら上手いけど、びっくりはブリューノ役のヴァンサン・カッセル。いつもセクシーな2枚目が、背中を丸め、ヨレヨレの服でなりふり構わず走り回る。最後に出てくる実在のブリューノに似ている。
子供たちは現実に自閉症の子供が演じているのもすごい。
絶対お奨めの作品です!

Hors Normes
エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ監督作品
主演:ヴァンサン・カッセル、レダ・カテブ、エレーヌ・ヴァンサン
1時間54分
フランスで公開中


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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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