Category : 映画

8月はリバイバル

東京から戻ると、パリは天気が悪く、寒く、閉まっているお店が多く、夜歩くと、明かりのついていないアパルトマンばかり。
風通しがいいのは確かだけど、この街の短い夏は終わっちゃったのね ・・・

映画も8月はろくなのをやっていない。その代わり、昔の名作のリバイバルがお奨め。
ポンピドーセンター近くのMK2 Beaubourgではルイス・ブニュエル特集をやっている。
『ブルジョワジーの密かな愉しみ』
“密かな愉しみ”なんて言われると、ほんとに密かなことを想像してしまうけど、全然そうではない。

『ブルジョワジーの密かな愉しみ』ルイス・ブニュエル

友人宅に夕食に招待された男女4人が運転手つきの車で到着する。屋敷に入ると暖炉に火はなく、テーブルセッティングもできていない。間もなく現れた女主人は、
「あらご招待は明日の晩よ」「そんなはずはない、明日の晩、私は約束がある」「今夜は夫がいないから間違えるはずがないわ」
というやりとりの後、「この近く(屋敷があるのは人里離れた田舎)にホテル兼レストランがあるからそこへ行こう」
ところがその店でも食事ができない。
着飾って連れだって食事にでかけては、ことごとく邪魔が入って延期になるブルジョワ6人。
自分たちの小さい世界とその価値観しか見えないブルジョワジーをユーモラスに揶揄していて、その間に挟まれる彼らの悪夢や、兵士の物語る逸話はシュールだ。1972年の作品は少しも古びていない。
『去年マリエンバードで』のデルフィーヌ・セイリグ、『バベットの晩餐会』のステファーヌ・オードラン(クロード・シャブロルの前妻)がとっかえひっかえ着るドレスも見もの。
『Le charme discret de la bourgeoisie』
1時間42分

他に『昼顔』『欲望のあいまいな対象』などなど上映中。

同じMK2 Beaubourgで北野武特集。娘と『HANA-BI』を観に行く。

「物悲しく可笑しく、暴力的で瞑想的」というキャッチ、まさにその通り。

『Hana bi』北野武

腕のいい刑事、西(ビートたけし)。コンビを組んでいた同僚の堀部が撃たれ、車椅子の生活になってしまう。西はその犯人を追い詰めるが、部下が殺される。西は犯人を撃ち殺し、死体に何発も打ち続けた。
西には、余命いくばくもない妻(岸本加代子)がいて、入院費や何やらでヤクザに借金をしていた。妻に最後の旅行をさせようと計画する・・・

殆どしゃべらず、無表情な西。死にかけている妻、半身不随になり妻子に去られた同僚、借金返済につきまとうヤクザ・・・とお先真っ暗の中、ちょっとズレたギャグがポンポンと挟まれる。もう何年も見ていなかった北野の映画の強い個性。
『菊次郎の夏』『キッズ・リターン』もかかっている。

帰り道、娘が、
「たけしって魅力的」
「すごい存在感」
「セクシーだわ」
「 ?!」
たけしは美男とは程遠いし、黙って座っていればちょっとヤバそうなふつうのオジサン。
彼にセクシーという形容詞をつけるとは、なかなか男を見る目があるじゃない・・・


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また魚でご飯を食べにこよう!

今井浜には何もないんで、この日も河津まで晩御飯を食べに行く。
駅のすぐ近く、『さかなでご飯』(魚で?逆撫で?)という、よくわからないダジャレのようなお店が開いていた。
お客は私たちだけ。

中には生け簀があって、魚や大きなエビが食べられるのを待っている。

河津 さかなでご飯

私たちは、エビ、牡蠣、鯵のフライ盛り合わせ定食という、またファミリーレストランみたいなメニューを選んだ。
写真は撮るまでもなく(実は撮り忘れなんだけど)。

「女性が日に焼きたくないっていうんで海水浴客が減っちゃって」とご主人。
「女が来ないと男も来ない」
はぁ、なるほど。
「それで民宿が何軒もつぶれちゃった」
「でも河津の桜は有名ですよね」と私。昨日、仕入れたばかりの知識。
「そりゃすごいですよ。人口8000人の町に80万人来ちゃうんだから。でも昼だけ。午後3時になるとみんな帰っちゃう」
宿泊設備がないからだそうだ。

でもこのご主人といい、ホテルのオーナーといい、お客がいないのを嘆くでもなく、イラつくでもなく、サービスはとても温かい。
ホテルのマダムは、
「もう年だし、ボチボチやってればいいの」と笑っていた。
都会と違うリズムがあり、価値観があるという感じ。

食べ終わって(ふつうの3倍くらいある海老フライがプリプリと美味しかった)お勘定を頼むと、
「どこまで帰るの?今井浜?じゃ、話しながら送っていきますよ。ちょっと待ってて」
「え?ほんと?そんな・・・」
とびっくりしていると、車とともにすぐに戻ってきた。
昨日、街灯のない夜道がちょっと怖かった私たちは大感謝。
「お店に鍵かけないでいいんですか?」
「今から来るのは地元の人だから、中に入って待ってるよ。鍵かけたら入れないから」

エール・フランスのパーサーが、時々ひとりで来て“魚で”ご飯を食べていくそうだ。
「もう3~4年来るかな」
通な人なのね。
電車で2分の距離は、車でもすぐ。もっとドライブしていたかったけど。
「また来てくださいね」
と白いバンは暗い坂を降りていった。
「ほんとに、また行こうね!約束よ」と娘。


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自由 VS 旧弊、モラルの対立

大気汚染でビルが霞んで見えるテヘランの街。そこで年老いた母と暮らすニルーファー、35歳、独身。
服の仕立アトリエを仕切り、再会した男友達とデートする幸せな女性だ。しかも美人。
ある日、母親が病院に担ぎ込まれ、お医者は、
「前にも言ったはずだ。公害のひどいテヘランにいたら死んでしまう。今度こそ田舎に転地させなさい」

イラン映画『un Vent de liberte/自由の風』

すぐに家族会議。兄2人と兄嫁2人は、ニルーファーが母親と一緒に転地することに決めてしまう。
「お前は独身だし子供もいない」
「でも仕事があるし、ここは私の街なのに・・・」
「エゴイストなことを言うな。お母さんがどうなってもいいのか?」
「それとこれは違うでしょ!15日交替にしない?」
「娘の高校があるのにそんなことできるか」
借金のある兄はアトリエを売って、その返済に充てようとする。
自由に、“近代的な女性”として生きていたニルーファーは、突然中世に引き戻される。

「なぜ私の人生を家族が決めるの ?!」

イラン映画『un Vent de liberte/自由の風』

いい感じの関係になっている彼も「テヘランから離れると、公害が恋しくなる」というほどのテヘラン好きだ。
家族の言いなりになって、仕事も恋も捨てなければならないのか?
イラン映画『un Vent de liberté/自由の風』

高校生の姪がニルーファーに味方するとこが、世代の交代を象徴。

イラン映画『un Vent de liberte/自由の風』
photos:allociné

検閲が厳しくて、イラン映画が長いこと寓話的なものが多かったそうだ。若い世代の監督が、欧米的な自由なモラルと、旧弊的な考え方の対立を描く作品を作り始めている。

その対立は、程度の差はあれどこの国にもあるだろうけど。
「(日本で)子供を迎えに行く父親は出世コースを外れる?」という記事を読んだ。
子育て世代の大部分が「父親も育児に参加すべき」と答えているのに、「男は稼ぎ、女は育児・家事」という一時代前の“決まり”や、「残業しなければ出世しない」というような企業の体質が足を引っ張る。
保育施設の足りなさも問題だけど、一番時間がかかるのは、考え方や世間の目を変えることだ。

Un Vent de liberté
Benham Bezadi/ベナム・ベザディ監督作品
主演:サハール・ドラチャヒ、アリ・モサファ
1時間24分
パリで上映中

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ワインは“私たちを繋ぐもの”

父危篤の知らせを受けて、ジャンはオーストラリアからブルゴーニュの実家に帰ってきた。
ワンマンな父親に反抗して、ワイン造りの実家を飛び出してから10年。妹のジュリエットは再会を喜ぶけど、弟のジェレミーは怒りを隠せない。
「僕たちがあくせくワインを造っている間、どこで何してたんだ?お母さんが亡くなったときも帰ってこないで!」

ジャンの帰りを待っていたかのように父親は亡くなり、若い3人の子供は重大な決断を迫られる:相続税を払うためにはブドウ畑の一部か、家を売らなければならない。

真ん中の俳優は副業(本業?)がブドウ栽培

セドリック・クラピッシュ『Back to Burgundy』

奥から、ジェレミー(フランソワ・シヴィル)、ジャン(ピオ・マルメイ)、ジュリエット(アナ・ジラルドー)の3兄妹

セドリック・クラピッシュ『Back to Burgundy』

大体、3人は家業を継いでいけるのか? ブドウ畑は600万ユーロの価値がある。全部売って新しいことを始める?ジャンはオーストラリアに妻と息子とブドウ畑が待っている。いずれ帰らなくてはならない・・・妹と弟は、ジャンも決して能天気な放浪生活をしていたのではないのを知る。

3人は話し合い、喧嘩になり、気を取り直してまた話し合い、決断は二転三転。
その間にブドウ収穫が始まり、広大なブドウ畑の上で季節が変わっていく。

セドリック・クラピッシュ『Back to Burgundy』

セドリック・クラピッシュの新作『Ce qui nous lie/私たちを繋ぐもの』(lieはワインの滓の意味もあって、かけている)。この作品は日本でかかりそうだ。タイトルは『Back to Burgundy』?

セドリック・クラピッシュ『Back to Burgundy』
photos: allociné

ストーリーが“読めてしまう”嫌いはあるけど、ワイン製造者の価値観がよく描かれている:彼らにとって土地(ワイン畑)は何よりの財産、一等級の畑は何にも代えられない。
シャンパン造りをしていた従弟は、ブドウ畑オーナーの娘と結婚させられそうになり、それを蹴って村のミス・コンテスト(!)で優勝した美人と結婚した。2人の娘が家業を継がなかったのを最後まで悔やんでいた。
クラピッシュは、大勢でワイワイというシーンが上手い。ブドウ収穫が終わった日の打ち上げは、何度か収穫に駆り出された息子が話していた通りだ。
これまでバルセロナやパリの大都会を舞台にした作品が多かったけど、今度は見渡す限りの田舎。クラピッシュの撮るワイン畑の表情は美しく、家族を繋いでいるようだ。
シャンパーニュの田舎の風景を思い出し、3か月前に亡くなった従弟が、映画のお父さんに重なった。

Ce qui bous lie
セドリック・クラピッシュ監督作品
主演:ピオ・マルメイ、アナ・ジラルドー、フランソワ・シヴィル
1時間54分
フランスで公開中


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韓国版 “真昼の悪魔”

明け方、ひとりで朝ごはんをかきこんでいるBongwan。そこに寝間着姿の奥さんが現れる。
「どうしてこんなに早くに行くの?」
「眠れないから」
「あなた、なんか変よ」
「変?・・・」

ホン・サンス『The day after』

「愛人がいるんじゃない?」
男は笑ってご飯をかきこむ-汁かけご飯に漬物(キムチ?)をのせてズズッと食べるんだけど、食べ方がなかなかうまい。
「答えなさいよ」
「ズズズ・・・」

彼は小さな出版社を経営し、唯一の女子社員とできていた。彼女が去って1か月になる。オフィスに向かいながら、Bongwanはまだ彼女のことを考えている。
オフィスが彼らの愛の巣だった・・・

ホン・サンス『The day after』

その日は、新しく雇った社員の第一日目。若く綺麗でやる気満々の女性がやってくる。

ホン・サンス『The day after』

差し向いでお昼を食べ、本が山積みになった小さいオフィスに2人。そこへ奥方が躍り込んでくる・・・

ホン・サンスの『Le jour d’après/The day after』。
この表情がまさに中年のメランコリー!

ホン・サンス『The day after』

今年のカンヌ、コンペティション参加作品、賞は取らなかったけど評判はよかった。

人生の後半に差しかかり妻とは倦怠期、もう一花咲かせたいと焦る50男が、モト愛人、一日目の女子社員、嫉妬に狂う妻の板挟みになるお話。
フランス語ではDémon de midi/真昼の悪魔と呼ばれる、中年過ぎ現象-若さへの執着、性的誘惑-をユーモラスに細やかに描いている。
エリック・ロメールが引き合いに出されるけど、ロメールより自然でリアル。
しょっちゅう差し向いでお酒(韓国のお酒は強いの?)を飲んでいるとこは小津の映画のようだ。
でも何より、フィリップ・ガレルの『L'Amant d'un jour/一日の愛人』を思わせる。ともにモノクロで、50男+すごく若い2人の構図・・・
恋愛において、優位に立つのは女なのだ

Le jour d’après
ホン・サンス監督作品
主演:Kim Min-Hee(キム・ミニ) Hae hyo Kwon、Kim Saeybuk
1時間37分
フランスで上映中

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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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