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Category : 映画

目に見えない女性たち

レディ・D、ブリジット・マクロン、ビヨンセ・・・とんでもない“源氏名”の女たちが鉄格子の前で扉が開くのを待っている。
彼女たちはSDF/住居不定者。ここはパリの北にある女性SDF受け入れセンターだ。
熱いシャワー、コーヒーの後、民生委員&ボランティアたちは彼女たちの職歴、得意分野を聞き、社会復帰ができるよう手伝う。
「あなたはスクーターの修理ができるんだって?」
「スクーターでもラジオでも修理できる」
「どこで研修したの?」
「刑務所」
「!? 職安でそれを言ったらだめよ!」

職員たちもみんな女性で、決して事務的でなく親身になって世話をする。
ここは宿泊施設がないので、夜になれば戸外に“帰って”いかなければならないが、彼女たちは束の間の人間らしい時間を過ごす。、

ところがある日、センターを閉めるよう市から宣告される。
「このセンターでは4%しか社会復帰していない。君たちが面倒見すぎるから飛び立てないんだ。これでは採算が取れない」

職員&ボランティアはおなじみになったSDFたちを見捨てることができず、ひそかに受け入れ続けることに決める。

暴力、強姦、盗み・・・男性より危険にさらされている女性SDFの日常を撮ったドキュメンタリーを、ルイ=ジュリアン・プティがフィクションにした『目に見えない女性たち』

映画『Les Invisibles/目に見えない女性たち』

と言うと、ためになるけど楽しくない作品、みたいだけど、どっこいそうじゃない。職員たちのヘンなキャラ、SDFとのちょっとズレたユーモラスな会話で、笑いながら教えられる社会派コメディになっている。
ユーモアは難しい状況に突破口を作る魔法の杖だ。

見かけは冷たいけど広い心のセンター所長マニュ、

映画『Les Invisibles/目に見えない女性たち』

孤独な私生活を送るオードレー(オードレー・ラミー)

映画『Les Invisibles/目に見えない女性たち』

離婚しかけている、ぶっとんだブルジョアマダム、エレーヌ(ノエミ・ルヴォヴスキー)・・・

les invisibles3
photos:allociné

みんな、センターの仕事と人間関係に存在理由を見出している。脇役が多い女優たちが上手い。

SDFを演じるのはかつての本物SDF。彼女たちはセンターで笑いを取り戻し、身だしなみに気を付けだし、少しずつ自信を取り戻していく。
フランスのSDFのうち女性は40%を占めると言うのに、彼女たちは人目につかない。
今まで見えなかった人たちの姿を教えられ、ユーモアと人間の温かさを思い出させてくれる。
お奨めです。

Les Invisibles
監督:ルイ=ジュリアン・プティ
主演:オードレー・ラミー、コリンヌ・マシエロ、ノエミ・ルヴォヴスキー他
1時間42分
フランスで公開中

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映画初めは三角関係のお話

ある朝。彼が出かけようとしていると、寝室から彼女が現れ、
「ちょっと話があるんだけど・・・タイミング悪いかしら?」
「なに?言ってよ」
「あたし、妊娠してるの」
彼の表情は驚きから感激に変わる。が、
「でも、あなたの子供じゃないの」
「・・・・」
「ポールの子供なの」
「ポールって・・・付き合ってたの?」
彼女は頷く。ポールは彼の幼友達だ。
「いつから?」
「2年くらい前から」
一緒に暮らしていたアベル(ルイ・ガレル)とマリアンヌ(レティシア・カスタ)。2人の関係はある朝突然に終わった。

9年後。急死したポールの埋葬式で、アベルはマリアンヌと再会する。
そして2人の関係が再開するが、さらに2人の登場人物が加わっていた:
マリアンヌのひとり息子、ジョゼフ。
ずっとアベルに憧れていたポールの妹エヴ(リリ=ローズ・デップ)。当時は中学生でアベルから相手にされなかった彼女も今は魅力的な女。
マリアンヌにを待ち構えていて、
「あなた、ほんとはアベルを愛してはいないでしょ?あたしに譲って」
「いやだと言ったら?」
「・・・戦争よ」

成熟したセクシーさ漂うマリアンヌと、

ルイ・ガレル『L'Homme fidele/浮気しない男』

一途な恋をぶつけてくる若いエヴ。顔で母親がわかり、名前で父親がわかるリリ=ローズ・デップ。

ルイ・ガレル『L'Homme fidele/浮気しない男』

違った魅力の二人の女性に挟まれるアベル・・・
ルイ・ガレルの『L’Homme fidèle』忠実な男、つまり浮気しない男、という逆説的タイトル。

ルイ・ガレル『L'Homme fidele/浮気しない男』

一見、男性なら誰でも羨むような、両手に花の物語、に聞こえるけど、実は全然。アベルは2人の女に翻弄され、2人の間を彷徨うのだ。

「映画の中のお話」という感じはあるけど、そこに男と女の本質が浮かび上がる。
年齢に拘わらず、女たちは自分の欲しいものを知っていて、したたかにそれを手に入れようとする。
関係の主導権を握っているのは彼女たちだ。

ルイ・ガレルは俳優モーリス・ガレルの孫、監督フィリップ・ガレルの息子。男女関係の機微(特に三角関係)を私小説風に撮るのはお父さんの作風に似ている。すごくフランス的。

どこかのインタビューで「主人公は僕に重なる」と言っていたけど、憂いある美男でユーモアもあるし、相手には事欠かないだろうね。20歳近く年上のヴァレリア・ブルーニ・テデスキ(カーラ・ブルーニのお姉さん)と5年暮らし(年上に好かれそうなタイプだ)、その後、共演したイラン女優、ゴルシフテ・ファラハニと“短い関係”を持ち、2015年からレティシア・カスタと一緒になり2017年に結婚している。つまりこの作品は夫婦で共演。

L'Homme fidèle
監督:ルイ・ガレル
主演:レティシア・カスタ、ルイ・ガレル、リリ=ローズ・デップ
1時間15分
フランスで公開中

さて、文末になりましたが新年おめでとうございます。
平穏とは言えなかった2018年より良い年になりますように。
ご健康で、いいことがたくさんある年になりますように。
今年もよろしくおつき合いくださいませ。

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家族と“愛する”ことの関係

クリスマス。街中がイリュミネーションで輝き「Joyeuses fêtes!/楽しいお祝いを」の挨拶が交わされる。
家族が集って祝う日が近づくと、いつもにまして孤独を感じる人、逆に家族に会うのが憂鬱で「家族ってなんだ?」と問う人が増える・・・というタイミングで封切りになった是枝さんの『万引き家族』。
待たれたカンヌ映画祭パルムドール受賞作の公開。仏語タイトルは『Une affaire de famille/家族の問題』

万引き家族/Une affaire de famille

スーパーで息の合った共同作戦で万引きする父と息子。

万引き家族/Une affaire de famille

コロッケを買って寒い寒い!と帰りを急いでいると、小さい女の子がベランダにひとり。
コロッケ食べる?と話しかけ、結局連れてきてしまう。
帰り着いた長屋には、ほぼ17歳から70歳の女性3人が折り重なっていた。

工事現場で働き万引きを副業とするお父さん、工場勤めのお母さん、風俗で働く娘、12歳の息子は押し入れで暮らしている。そしてわずかな年金をもらっているおばあちゃん。

最後の映画になってしまった樹木希林さん。彼女は現れただけでスクリーンを占領した。

万引き家族/Une affaire de famille

一見、貧しくても仲のいい家族。

万引き家族/Une affaire de famille
photos:allociné

次第に彼らの繋がりはもっと複雑であることがわかってくる。

気が付くのが遅いけど、是枝さんはずっと「家族とは?血の繋がりとは?」をテーマにしてきた:
母親が突然出て行き、残された子供5人が生き延びようとする『誰も知らない』。
『海岸dialy』は父親が再再婚で作った娘を引き取る3人姉妹の話。

この作品ではそのテーマが更に掘り下げられた感じだ。
血が繋がっていても愛せず、捨てたり暴力をふるう親たち。一方、愛する対象が欲しくて“盗んで”しまう人たち。
同時に、社会から忘れられ、社会保障からはみ出し、法に触れながらなんとか生きている人たちの存在を明るみに出している。
是枝氏はよく「小津安二郎を思わせる」と言われるけど、インタビューで「小津よりケン・ローチに同類を感じる」と語っていた。

日本政府が「国の恥・・・」とこの作品の成功に眉をひそめたことも、ル・モンドはじめメディアが触れていたけど、これは現実でしょ。国は“建前”だけじゃない。

とにかく。ジレ・ジョーヌが購買力のなさを訴え、一方で人々がヒステリックにプレゼントを買いまくる季節、孤独や家族の問題が浮き彫りになる季節に、この作品はいくつもの波紋を投げかける。その波紋はけっして暗くない。
パルムドールに値する素晴らしい作品。

Une Affaire de famille
是枝裕和監督作品
主演:安藤サクラ、リリー・フランキー、樹木希林、松岡茉優、城桧吏・・・
2時間
フランスで公開中


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養子縁組が決まるまで

陣痛にあえぎながら病院にたどり着いた女性は男の子を出産した。何か月も妊娠にすら気づかなかったという母親は学生で、赤ん坊を抱くこともせず退院していく。
赤ちゃんは一時的にテオと名付けられ、養子縁組担当の民生委員の手に託される。
彼らのうち2人は、赤ちゃんの世話をし(ひとりは自分のうちで育てる)残りは適切な養母を探し始める。

養母候補者の中にアリス(エロディ・ブシェーズ)がいた。彼女は10年前、夫と養子を探し始めるが、数年後、結婚が破綻。離婚後は精神的に不安定、シングルマザーというハンディで待たされていた。

映画『Pupille/瞳』

担当の民生委員はアリスと面接を繰り返し、彼女が“準備ができている”と判断し、テオの養母候補者として推薦する。養母の年齢制限は43歳、アリスは41歳になっていた。

テオが新しいお母さんと出会うまでを描いた『Pupille/瞳』

映画『Pupille/瞳』

ひとりの赤ちゃんに関わる人数、養父母の審査の厳しさ-本人たちの性格、仕事、収入、彼らの育ち方、両親の性格、養子を取ったときどのくらい休暇が取れるか-に驚く。
そして民生委員たちの人間味溢れる対応に:ジャン(ジル・ルルーシュ)は養父母が決まるまでテオを自宅に引き取り、母親のようにつきっきりで話しかけ、抱き、オムツを代え、夜中に起きてミルクをあげる。

映画『Pupille/瞳』

離婚したばかりのカリーヌ(サンドリーヌ・キベルラン、右)はストレス安定のためドロップを食べ続ける。

映画『Pupille/瞳』
photos:allociné

リディは養母候補を傷つけないため、自分が妊娠していることを隠して面接する。
赤ちゃんの眼を見ること(タイトルの所以?)、話しかけること、抱くことの大切さもよくわかる(遅すぎる!)。

「あれだけ厳しい審査があるのに、なぜマダム〇▽はロベールを養子にできたんだろう?」
と私。〇▽はヒステリックで専横で、他の養母に出会っていたらロベールの人生は違っていただろう、と。
「まったく。しかもシングルマザー」と夫。

PUPILLE
監督:ジャンヌ・エリー
主演:サンドリーヌ・キベルラン、ジル・ルルーシュ、エロディ・ブシェーズ
1時間47分
フランスで公開中


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再び映画館で泣いた

2つのバイトを掛け持ち、ときどき姉の娘(つまり姪っ子)アマンダを学校に迎えに行くダヴィッド。社会人になるのを先延ばしにして気楽に暮らしている。
シングルマザーで英語教師の姉貴サンドリーヌ(右)とアマンダ母子はダヴィッド(左)にとって一番近い家族だ。

映画『AMANDA/アマンダ』

夏の始まり。パリの街には美しい季節の陽気さが漂っていた。
サンドリーヌは友達とヴァンセンヌの森にピクニックに出かける。自転車を飛ばして遅れて着いたダヴィッドが目にしたのは信じられない光景:芝生に血だらけの人たちが倒れている。イスラム過激派の殺戮の直後だった。

サンドリーヌは帰らぬ人になり、ダヴィッドは7歳のアマンダの法定後見人になってしまう。
姉弟の父親は他界し、家庭を捨てた母親とは10年も会っていない。アマンダが母親の次になついているのはダヴィッドなのだ。
能天気に暮らしていたダヴィッドに突然“父親”の役割がのしかかる。でも現実には、ダヴィッドが言うように「アマンダが僕を必要とする以上に、僕が彼女を必要としている」
一番大切な家族を失った2人は支え合って生きていくことになる。

映画『AMANDA/アマンダ』

『AMANDA』

映画『AMANDA/アマンダ』

2009年、『Les Beaux Gosses/イケメンたち』で注目されたタラコ唇のヴァンサン・ラコスト。『ヒポクラテスの子供たち』もよかった。

映画『AMANDA/アマンダ』

これまで頼りない3枚目の役が多かったけど、初めてのシリアスも信憑性がある。
でも目が離せないのは7歳のアマンダ。母の死を知らされたときワーッと泣いたりしない。
私が父を亡くしたのは6歳、この歳では“死んだ”ということがピンとこないのだ(少なくとも私はそうだった)。ほかの誰にも埋められないその空洞を感じたのはずいぶん時間が経ってからだ。
シナリオがいいのか、アマンダ役のが上手いのか。両方だと思うけど、アマンダの反応や泣くタイミングに共感し、彼女の逞しさに感動した。

ヴァンセンヌの森で夕暮れのピクニックを楽しむ人たちがテロの被害者になったシーンは、バタクランのテロに重なる。
バタクランの後、家族や恋人、友人を失った人たちのルポルタージュやインタビューがいくつか放映された。最近では、シャルリー・エブドのテロで生き残った人の体験小説がフェミナ賞を取った。
悲劇の後遺症は続いていて、この映画の内容が、決して非日常ではなくなっているのに気づく。哀しいことに・・・

AMANDA
監督:ミカエル・ハース
主演:ヴァンサン・ラコスト、イゾール・ミュルトゥリエ、ステイシー・マルタン他
1時間47分
フランスで上映中


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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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