Category : パリ雑記

寂しくなった朝市

エルザおばさんの八百屋は6月末に。チーズ屋のクリストフ、肉屋のブリューノは7月半ば・・・次々にバカンスで6週間の店じまい。朝市のあちこちにぽっかり穴が開いている。
長すぎ!と最初は思ったけど、彼らの労働時間を聞くと、それぐらい取らないと割りが合わなそうだ。

11区(バスティーユ)と13区(オーギュスト・ブランキ)の朝市に出しているエルザおばさんは「10時に起きる」
なーんだ、私と一緒、と言いそうになったら、夜の10時なのだ。トラックに野菜・果物を積み込んで、パリ近郊の町からまず13区に着き、店の準備。旦那さんを残し、エルザがバスティーユに着くのが午前4時頃。「たいてい私が一番乗りだね」
店員さん5名が到着し、野菜・果物を綺麗に並べ、値段をつける。最初のお客は7時すぎにやってくる。

これだけ準備するのに2時間はかかるそうだ。

パリの朝市

浮気せず、20年近く通っているこの八百屋で、私はVIP待遇(!)。コリアンダーやミントの香草はタダだし、いつも何かプレゼントしてくれる。最近ではイチゴを買ったことがなかった。

チーズ屋のクリストフは、午前2時起きで5時に到着。バスティーユの朝市は14時近くまでやっているから店をたたんで帰り、チーズたちを冷蔵庫にしまうと18時近く。なんと長い一日。

さて“行きつけ”を失った私は、デフォルトで残っている店に並ぶ。「どうせ数週間のお客」とぞんざいに扱われるか、「夏の間に新規客をゲット!」と愛想がいいか、態度は真っ二つに別れる。

生牡蠣&白ワインの立ち食いは中国人観光客に人気。

パリの朝市

かって牡蠣はRのついた月だけと言われていたけど、これはルイ15世が決めた(つまり冷蔵庫がなかった時代)ことで、衛生上は夏でも食べられる。でも夏場は不妊の牡蠣で味が違うとか。牡蠣が雌になったり雄になったりできる器用な生き物とは知らなかった。

休暇の商店の場所は服やアクセサリーの店になる。

パリの朝市

寂しくなった朝市でパッと華やか花屋さん。オランダからくる花は新鮮で安い。

パリの朝市

最近のお気に入りは大輪のアジサイ

パリの朝市

こっちは10日以上持っている。

パリの朝市

茎を斜めに切って、中の白い部分を取り除くと長持ちすると教わった。
そう、朝市で面白いのは専門家の知恵やコツを教えてもらうことだ。おまけも嬉しいけどね。


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進化した?フランス人の衛生観念

パリに住み始めたころ、メトロに乗ってきたオジサンが、持っていたバゲット(裸の!)を無造作に座席に置くのを見て仰天したもんだ。最近はさすがに“不潔は病気感染の原因になりうる”のがわかってきたようで何より。
日曜日に朝市で買うジュルナル・デュ・ディマンシュに「もう、しません!」という記事。ふだん、何気なくやっていることで、これはやめたほうがいいのは:

地面に落ちたおしゃぶりを舐めて洗う
赤ちゃんが落としちゃったおしゃぶりを拾って、舐めて“消毒”して、再び赤ちゃんに与えるお母さんやお父さん(うちの中で落としたときはやったかも。地面に落ちたのを舐めたら、私が病気になるじゃない!)
2013年のスウェーデンの調査によると、「親の唾液と接触することで、赤ちゃんの免疫力が強化される。その結果、アレルギー、喘息などになりにくい。」
一方、フランス小児科団体は「親の呼吸器系ウィルスやヘルペスに感染する危険あり」。どっちが正しい?
結論は、やむ負えないときはやっていいけど(Tシャツなんかで拭くより消毒になる)習慣にしてはダメ。
おしゃぶりを数個持って出かけるとか、チェーンつきのがあるでしょう?

病気になったあと、同じ歯ブラシを使う
歯を磨くたびに、口の中のバイキンが歯ブラシに残るので、流感、風邪、胃腸炎などに罹ったあとは歯ブラシを変えるべき。変えたくない(つまりケチな)人は食器洗い機(一番高温)で洗う。

一日一回以上身体を洗う
水+石鹸は皮膚の水分や皮脂を奪うので、洗いすぎは、乾燥(その結果)痒みや炎症の原因に。逆に洗わなすぎ(3日に一度とか)は、真菌症や毛穴が詰まって吹き出物の原因に(さらに他人の迷惑・・・)
中性石鹸(シャワージェル)で一日一回洗うのが一番。汗をかいたら夜洗うこと(この暑さで、汗びっしょりで、そのまま寝る人が少なくない。まだ進歩が足りない)

トイレの蓋をせずに水を流す
水洗は“流すもの”をスプレーのように空気中にまき散らし( !!)、それがタイルやタオル、歯ブラシ(バスルームにトイレがある場合)の上に落ちる( !!!)
2012年のイギリスの調査によると、蓋をしないで流すとトイレ(バスルーム)のバクテリア数が12倍。

これを読んだ夫が「トイレに張り紙をしよう!」
“うちに帰ったら手を洗う”習慣をつけるまでひと苦労したこの人が、なんという進歩!私は感慨をもって夫を見た。


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結局、映画館を出ちゃった・・・

黒沢清監督の『Creepy/クリーピー偽りの隣人』がフランスで公開に。最近、コレという映画がないのですぐ観に行ったら、なかなか面白かった。

フランスのポスターには主役(西島秀俊)がいない!

クリーピー偽りの隣人

フランスの批評で『日本社会を風刺している』というのがあった。
「どこが風刺なんだ?」と夫。
「だって奥さんほっぽらかしにして」
「あ、そう・・・」
「心に空洞があるからあんな男について行っちゃうんじゃない」
「なるほど」
あなた、居眠りしてなかった?

翌日、日曜日。夫は田舎にトンボ帰りするという(「この暑さ、庭の花やトマトが心配だ」)。何をするにも暑すぎるので、私はひとりで『Nothingwood」というアフガニスタン&フランス合作作品を観に行く。110本の映画を撮った監督&俳優&プロデューサーが111本目を撮るために、ぶっとんだ俳優たちを連れてカブールにやってきた、というナンセンスコメディ。

「ハリウッドじゃない、ボリウッドでもない、ナッシングウッド」

Nothingwood

ところが座るなり、コンタクトレンズを入れ忘れたことに気づいた。私は片目はけっこう視力があるので、例えばパソコンの前ではコンタクトが必要ない。でも出かけるときに入れ忘れるってどうかしてない?これじゃ字幕が読めない。暑さのせい?それとも・・・

CM&予告編は約15分なんで、走って帰れば戻ってこれる、と席を立とうとしたとき、隣に座っていた男子が、
「あのぉ 僕、すぐ戻ってきますから・・・」
反射神経が欠落している私はとっさに「私も出るんですが」と言えず、その男子を見返すと、
「ほんとにすぐ戻ってきますから」とリュックを置いて出て行った。ヤダ、今出ないと間に合わないのに、荷物番するはめに・・・まったくドジ。
予告編は進み、残り時間は減ってくるのに、男性は戻って来ない。隣のリュックが気になりだした。
ふつう「荷物見ててください」というのに、彼は「すぐ戻ってくる」を繰り返した。リュックが怪しいものではない、と言いたかったから?そんなこと強調するのは、逆に・・・
そこまで考えて、私は立ち上がって映画館を出た。通路でもリュックの男性とはすれ違わなかった。
外を歩きながら、考えすぎ、パラノイア・・・でも前はこんなこと考えなかった。

ベルリンのクリスマス市のテロの直後、日本から来た友達が、
「ご老人の運転する車が歩道走ったり、病院の玄関に突っ込んだりして死者や怪我人が出るんだよ。テロより頻繁。前は歩いてて怖いなんて思わなかったのに」
そして、人間、どこにいても死ぬときは死ぬんだね、今を楽しまなくちゃ、という結論に。
映画館を出るべきじゃなかった。それ以前にコンタクトを忘れるべきではなかったのだ。


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バカロレア哲学の試験の選択問題のひとつ、『幸福は探さなくては見つからないか?』の答えで、フランスのラップグループPNLの『Recherche du bonheur/幸福の追求』を例に出した生徒が何人か(何十人?)いて、「えっそんなのあり?」というツィートが飛び交ったそうだ。

PNLのふたり。「えっ!俺たちが哲学の解答に??」と言ったかどうか。

ヒップホップ/ラップグループPNL

パリの某高校の哲学教師がそれに答え、
「歌、映画、バンドデシネなど大衆文化を例に出すことは禁じられていないし、減点対象にはならない。問題は、それが適切に使われているか。つまりPNLを例に出したら、そこから建設的な意見に発展させる必要がある」
なるほど。
「でも、バカロレアの哲学試験は、論証する能力を試すと同時に知識を測るもの。だからデカルトとかソクラテスの例を出せば、PNLに差をつける」
Recherche du bonheurを聞いてみたけど、
「・・・・・汚い場所で幸福を探す
ヨー、嵐の中を航海して、
地面に額をくっつけても、俺は借金だらけ
飛び立つための羽根をくれ・・・・」
のような歌詞から“建設的な意見”を4時間に渡って書くのは至難の業に思える。

ディズニーの『ジャングルブック』でクマのバルーが歌う「ちょっとしたことで幸せになれる」は、「幸福」がテーマになる度に登場するそうだ(このアニメ、息子のお気に入りで何十回観たことか!息子だけじゃなかったのね)

ジャングル・ブック

「例と論証を混同している生徒が多い」と先生。
「『ジャングルブック』でモーグリの親友バルーが言っているように“ちょっとしたことで幸せになれる” 、では答えにならない。独断でしかない」(私だって書ける)
目下採点の真っ最中でこの手の解答に苛立っているらしい。
「この謙虚さ(日常にちょっとしたことに幸福を見つける)が幸福への鍵なのか?という展開が必要」
ふむふむ・・・

大学の頃、哲学科の学生が“現実離れしたことを勉強している雲の上の人”に見えたもんだ。若気の至り・・・
日常の色々なシーンで、哲学の知識の切れっ端や考え方が役に立つ、と最近思う。だから高校で、幸福、人間のルーツ、芸術の存在理由・・・などについて自分の意見を述べる訓練をするのは、羨ましいなぁ、と。
PNLや『ジャングル・ブック』の例を、「フランスのバカロレアも地に落ちたもんだ」と嘆く意見があるけど、身近な例で論証できたら、それこそ”身に着けた”ことになりません?



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バカロレア哲学、何を書けばいい?

この時期になると子供たちのバカロレアを思い出す:
あまり勉強しているようには見えなかった息子が発表を見に行き「受かってた!」 電話の声がまだ耳に残っている。
けっこう勉強していたのに「落ちたらどうしよう・・・」と繰り返していた娘。こっちも「落ちる方が難しいって(合格率は90%近い)」と繰り返すしかなかった。

木曜日、恒例の哲学の試験でスタートした2017バック。

2017バカロレア
photo:Europe1

問題:
バカロレアL(人文系)
1. 観察するだけで知ることができるか?
2. してもいい権利があることはすべて正しいか?
3. ルソー『人間不平等起源論』の抜粋を解説

バカロレアS(科学系)
1. 自分の権利を護ることはすなわち自分の利益を護ることか?
2. 自分の文化から自由になることは可能か?
3. 『ミッシェル・フーコー思考集成』の抜粋を解説
・・・から選んで、4時間で展開する。

この中で少しでも書けそうなのは「自分の文化から自由になることはできるか?」(ノンだ)
ちょうどラジオで、哲学の先生がこの問題にどう答えるかの一例を解説していた。
1. 前提として、私たちは自分の文化に“幽閉”されているか?“自分の文化”とは何を指すか?
2. いや、幽閉されてはいない。私たちは旅をし異国に滞在することで、他の文化に触れ、その中で生活することができる。
3. しかし。文化(民族、宗教、階級・・・)は今日の自分を形成しているもの、自分のルーツである。従ってそれを切り捨てることはできない。
4. 文献の参照、例えばモンテスキュー『ペルシャ人の手紙』
*宮廷の政争にうんざりしたペルシア人ユスベクが友人リカとともにパリに住み、そこから故国の友人や愛人と手紙を交換する。ユスベクとリカの手紙には、当時のフランスの風俗、政治、思想への批判や風刺が綴られる。

なるほどねぇ・・・私が書いたら20行で終わってしまいそうだ。
今年の哲学は「“幸福”が出る」という前予想で、果たしてバカロレア・テクノロジーに
「幸福を見つけるためには探さなければいけないか?」
試験会場から出てきたところインタビューされた女子は、
「簡単だったわ( !?)幸福は恋と同じで、探しても見つからないのよ」
それで何枚書けたんだろう ??


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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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