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パンを買い損ねたわけ

マダム・ウードゥローは息子の小学校の担任の先生(こっちでは“先生”ではなく、マダム、ムッシューと呼ばせる)。
当時既に60歳くらい、小柄な女性で子供のようなきらきらした眼をしていた。
厳しくて宿題も多かったにも拘わらず子供たちには絶対の人気があり、“厳しすぎ”と文句を言う親も黙らざるをえなかった(しばしば子供の方が慧眼なのだ)。子供に教えるのが大好きで、定年を2度延長し、ついに小学校を去った後は、家庭教師をしている。

この界隈には教え子の親(例えばアタシ)がけっこういるので、道やスーパーで先生に呼び止められることがよくある。おしゃべりなんで、急いでいるときはパッと物陰に隠れたり、方向転換する親(例えばアタシ)も少なくない。
昨日パン屋の前でばったり会ったときは、久しぶりなんで隠れず(その暇もなく)
「アラ、お元気ですか?」
「それがアナタ、化学療法が終わって一安心よ」
「化学療法 ?!」
「それじゃ最初から話すと・・・」15分の立ち話になると見積もった。パンがなくなっちゃうかもしれないけど聞くに値しそうだ。
先生が乳房に赤い痣を見つけたのが夏前。痛みも痒みもないけど嫌な予感がして、皮膚科に行ったら、
「ブラジャーにかぶれたんでしょう」
まさか、と婦人科に行くが、ここでも「何でもない」と言われ、納得できずマンモグラフィーとエコグラフィーをしたけど異常は見つからない。
「でも疲れがひどいし絶対何かの病気と思ったの。自分の身体は自分が一番よく知ってるでしょ」
身体の声に従った彼女が正しかった。
3件目のクリニックで乳がんとわかり、乳房切除、化学療法。

「あなたに言いたいのは、納得いかなかったら複数のお医者に診てもらわなくちゃダメってこと」
ふむふむ、おっしゃる通り。
「それから年寄りのガンは進行しないっていうけどあれはウソ。私80歳になるのよ」
ピンク色の肌に茶目っ気のある眼が輝いている。彼女は小学校の担任当時から変わらない。
それにしても化学療法の直後でこの元気・・・シンジラレナイ。

彼女はその後、いつものように子供と猫の近況を尋ね、自分の娘と孫のこと、自分の猫(モト野良)が冷蔵庫を開けられること、海老300gを平らげてケロッとしていたことを話し、つまり話したいだけ話すと「じゃーね!」と軽い足取りで去っていった。
果たしてパンは全部売り切れてたけど、役に立つお話でした。

うちのモト野良猫は幸い冷蔵庫を開けない。ハトは捕まえたけど。

猫



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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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