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笑いたかったら迷わずこの一本!

2年前からうつ病で仕事をしていないベルトラン(マチュー・アマルリック)。
癇癪持ちで妻に去られたロラン(ギヨーム・カネ)。
つぶれかかっている小さな会社の社長マルキュス(ブノア・ポールヴールド)。
永遠に売れないロック歌手シモン(ジャン=ユーグ・アングラード)。
全くモテないのを悩むプール職員ティエリー(フィリップ・カトリーヌ)・・・

人生に疲れた中年男たちが、市営プールの“男子シンクロ・スイミング教室”で出会う。

le grand bain

お腹は出て、二の腕はたるみ、日ごろ運動していない彼ら。プールに飛び込む姿はアザラシに似ている。
でも、週一の練習は-その後でバーで一杯やりながら愚痴を言い合うのも-次第に欠かせないものになっていく。

タバコを離さないコーチ、デルフィーヌ(ヴィルジニー・エフィラ)は元アル中。

le grand bain3

間もなくデルフィーヌのアルコール依存がぶり返し、アマンダ(レイラ・ベクティ)が代役コーチで現れる。
デルフィーヌとアマンダはかってデュオを組んだシンクロチャンピオン。アマンダが事故に遭い、車椅子生活になり、デルフィーヌはアルコールに溺れた・・・

le grain bain4

“ゆるい”デルフィーヌと違いアマンダはサディックな鬼コーチ。中年男たちはヒィヒィ言いながら、大会出場というシュールな目標に向かって加速していく。

ジル・ルルーシュのLe Grand Bain。大浴場ではなく深いプールのこと。浅い(子供用)プールはPetit bain。足がつかないと不安な私はいつもプティ・バンだけど。

le grand bain affiche
photos:allociné

ジル・ルルーシュ 、フランスでは夥しい数の作品に出ているが、日本では『フランス、幸せのメソッド/ Ma part du gâteau』(DVDスルー)の横柄な富豪ビジネスマン。『プレイヤー/les Infidèles』の浮気男(共同監督・脚本も兼ねる)など。

とにかく可笑しい。マチュー・アマルリックやブノア・ポールヴールドは“地のまま”だし、意外といいのが、内気でお菓子ばっかり食べていてオタクっぽいフィリップ・カトリーヌ。
チームにフランス語が全くしゃべれない小太りのスリランカ人がいて、彼が何か(スリランカ語で)言うと全員が賛同する。他の男たちは長々グチャグチャと口論し収拾がつかなくなるのに、スリランカ人のひと言がチームをまとめる。沈黙は金?

若さ、愛、お金、夢・・・失ったものへのメランコリーが、水の中で前向きのエネルギーに変換していく。希望に似たものが生まれてくる。
涙が出るほど笑って(自称”ウォータープルーフ”のアイラインが流れ落ちた)元気になる作品。

Le Grand Bain
監督・脚本:ジル・ルルーシュ
主演:マチュー・アマルリック、ギヨーム・カネ、ブノア・ポールヴールド、フィリップ・カトリーヌ・・・
1時間59分
フランスで公開中


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アングレームのボザールに行っている娘から毎日のようにメッセージが来る。レシピを聞いてきたり、出会った野良猫の写真や、家賃の支払い催促などなど。
でも昨日のは、
「すごく病気みたい。昨日眠れなかった」
“すごく病気”とはどういう状態なのか?電話したほうが早い。
「喉が痛くて、顎まで痛くて眠らなかった」
「喉が痛いなら流感か風邪じゃない?熱は?」
「わからない」
「まだ体温計買ってないの ?!」
それには答えず、
「Mononucléoseって知ってるよね」
「モノ・・・何?」
「モノニュクレオーズ、知らないの?ちょっと待って、日本語探してあげる、あたしのほうが早いから・・・デンセンセイタンカクキュウショウ」
「タンカク?痰喀?漢字がわからないとわかんないよ」
「Maladie du baiserは知ってるでしょ?」
「それなら知ってる」

唾液から感染するので、「キスの病」と呼ばれる伝染病はモノニュクレオーズの俗称なのだ。
大人になると免疫ができるので、思春期の-キスにハマる時期の-子供が罹りやすい。
日本語では伝染性単核球症。
ウィキペディアによると“扁桃腺が腫れるので扁桃腺炎や流感と間違われることがある”。フランス語の説明のほうが2倍くらいあるから、フランスで多い病気かも。キスの病という名前からして・・・

「クラスに罹ってる子がいるのよ」
「それがうつったかもってこと ?!その子、学校に来てるの?」
「『伝染するのになぜ来るの?』って言ったら『うちにいても退屈だから』って」
「そんなこと知るか!無責任!」
「だよね、治るのに一か月かかるんだって」
「今、外?近くに薬局が見える?」
「見える」
「すぐ体温計買いなさい。必ず発熱するみたいだから」
「高くない?」
「何言ってんの!マスカラやアイライナーはすぐ買うクセに。一か月も病気になったらどうすんのよ!」
「ハイハイ」
しかし、彼女が買ったかどうか定かではない。キスの病なんて、まったく・・・大人に抗体がなかったら大変なことになっていた。


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ニュースの裏側

パリの西郊外のレ・リラで、不良グループの喧嘩があり死者1名、とニュース。
鉄パイプで殴打され、病院に運ばれたけど間もなく死亡した少年は13歳。14歳から17歳の男子が容疑者として警察に拘束されている・・・

les lilas

レ・リラは私の日本語生徒さん、ナタンが住んでいる。
「安全な町って言われてない?」と会ったとき聞いてみた。
ナタンは皮肉っぽく笑う。
「喧嘩があったのはあなたのうちから近いの?」
「はい、近い。10分くらい」
「あぶない場所なの?」
ナタンは「ウーン」といって髪をかきむしり、「日本語じゃいえない」

彼が早口のフランス語で語ったところによると、隣接する3自治体、レ・リラ、プレ・サンジェルヴェ、バニョレにはヤクの売買をするチンピラグループがいて、昔から縄張り争いの抗争がよくある。殺された少年はバニョレ・グループで、レ・リラのグループに殴打された、ということらしい。
「ウソ!13歳でヤクを売ってたの ?!」
「ウソじゃない」
「ニュースじゃそんなこと全然言ってなかった」
「ニュースはバカ」
「・・・・」
「ハシシだけじゃない。ラケット(ゆすり)もしてる」
ナタンは学校の帰りに不良グループに取り巻かれ、携帯をよこせと脅されたり、殴られたこともあるそうだ。
その都度警察に届けたけど、事態は変わらなかった、どころか、ある日フードをすっぽり被って歩いていたら警察に呼び止められ、壁に押し付けられて身体検査をされた。
「だからポリス大嫌い」
そりゃそうだろう。

ヤク売買の抗争があって警官がしょっちゅう見回っているから、レ・リラは“静か”“安全”と言われる、とナタン。皮肉な笑いの理由。

昔から地元のガキたちがそんなことをしているのに、警察が押さえられないというのも不可解だけど、ニュースで“切り取られる”ことは氷山の一角。しかもその一角は氷山全体を正しく伝えているとは限らない。
それはわかっていたつもりだけど・・・

私はハッと我に返り、日本語の教科書を開いた。
「少し勉強しようか」


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新しい別れ方?

一緒に暮らして10年、子供が2人いるロマーヌとフィリップ。一見、幸せな家族、でも蓋を開ければ、かって熱烈に愛し合った2人の間は冷め-キスすらせず-口を開けば喧嘩になり、子供のために一緒に暮らしている状態だった。
「もうやっていけない」
「このままでは子供も可哀そう」(とこの点では意見が一致)

l'Amour Flou/曖昧な愛

でも2つアパルトマンを借りるのは経済的に重すぎる・・・そこへ建築中のアパルトマンが見つかった。
それを仕切り2つの独立した住居にし、真ん中に子供部屋を作り、どちらからも行き来できるようにする。
画期的な別離同居!子供たちは2つのアパルトマンを行き来する必要がない。ひとつのドアを開ければママンがいて、もうひとつのドアにはパパがいる。

しかし。いざ引っ越して暮らし始めると、子供の取り合いになったり、お互いのプライバシーを守るのが難しい。

l'Amour Flou/曖昧な愛

もう一花咲かせたいロマーヌは、いい男を見ると目を輝かせるがなかなか上手く行かない。
「俺の恋愛生活は終わった」というフィリップは、いとも簡単に若くてきれいなジョガーとベッドインしている。

実際に一緒に暮らし、別離同居をしたロマーヌ・ボランジェとフィリップ・レボの自伝的フィクション『L'Amour Flou/曖昧な愛』。
監督・脚本・主演、彼らの子供も家族も全員“本物”が出演している。

l'Amour Flou/曖昧な愛

熱い恋の状態は長くは続かない。すっかり消えなくても、形は変わっていく。
「わたしたちは失敗した」と嘆くロマーヌに、
「僕たちは友達から恋人になりパートナーになり、家族を作ったじゃないか」とフィリップ。

ロマーヌは俳優リシャール・ボランジェの娘、フィリップ・ルボは脇役ばかりの俳優

l'Amour Flou/曖昧な愛
photos:allociné

そう、ふたりが10年間に積み上げたものは失われていない。2人の連帯感、子供への愛情は変わっていないのだ。

カップルを続ける難しさをユーモラスに描き、自伝なのに決して露出趣味になっていない。
新しい別れ方、というより”新たな出会い方”を教えてくれる作品。

L'Amour Flou
監督・脚本:ロマーヌ・ボランジェ、フィリップ・ルボ
主演:ロマーヌ・ボランジェ、フィリップ・ルボ、その家族
1時間37分
フランスで公開中


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怖い偶然

深夜、Youtubeで『Calls』を観ていた。観ていた、というより聞いていた。
『Calls』はカナル+のシリーズで、飛行機のブラックボックス、カセットの録音、警察ヘの通報電話・・・などの媒体で、映像はなく音声だけで惨事を描いている。



「はい、警察です」
「あの・・・ヘンな人がいるんで通報しようと思って」
「あなたの名前と住所をいってください」
「リザ・ラルシェ、〇×通り何番地、ナンシー」
「どんな風にヘンなんですか?」
「うちの前を行ったり来たりしてるんです」
「その人はピエロの恰好をしていますか?」
「わからない・・・よく見えない」
ガタガタいう物音。
「そんな!うちに入ろうとしている」
「マダム!何が起こっているか話してください」
「うちの中に入った!」
「マダム、7分でパトカーが着きます。その間、電話は切らないで。どこか隠れる場所、中から鍵がかかる場所はありますか?」
・・・というような会話が11分か12分続く。

映画『The Guilty』は警察の一室の中で電話だけで事件が描かれるが、これは映像が一切なく声と物音だけ。でもけっこう怖い。
深夜にひとりで観るもんじゃない、と思いながら、さて寝ようかと立ち上がったとき、ドンドンとうちのドアを叩く音がした。
全身から血が引いた(ような気がした)。私の隣で寝ていたタマがビクっとして顔を上げる。
午前零時すぎに誰?
夫がまた鍵をドアにさしっぱなしにしてた?鍵が外側にあるなら入ってこれるってことじゃない・・・その夫はイビキをかいて眠っている。
再び「ドンドン!」
私は、カーテンの隙間からこっちが見えない場所にソロソロと移動し、固まっていた。

5分くらいしたら中庭の電気が消えた。電気は人が通るとつくようになっているから、“その人”は立ち去ったらしい。
さらに5分待って、私は恐る恐るドアに近寄り、夫のキーホルダーがあるのを確かめ、2重鍵をかけた。

翌朝、夫が「なぜ2重鍵がかかってるんだ?」
この人はどんな物音でも絶対目を覚まさない。夜中に子供が病気になりS.O.S.médecinが駆け付けても起きなかった。
あなたが眠っている間にいろんなことが起こるのよ・・・


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お薦めしない”ラーメンの味”

友達が観たいというので一緒に行ったら、映画が始まってすぐ、
「居眠りしたら起こしてくれ」
間もなくイビキが聞こえてきた。私もちょっとウトウトしたので起こさなかった。

エリック・クー/Eric Khooの『la Saveur des ramen/ラーメンの味』。日&仏&シンガポール合作で、原題は『Ramen Teh』

Ramen Teh/la Saveur des ramen

ポスターが「どこかで見たことがある」と思ったら、『餡/les Délices de Tokyo』(河瀨直美監督)のに似てません?ああ、樹木希林さん・・・

餡、delice de Tokyo

マサトは父親のラーメン屋-行列ができる人気-で働いている。殆ど口をきかず仕事が終われば酔いつぶれるまで飲む父親は、10分も経たないうちに死んでしまう。
シンガポール人の母親は既に亡くなり、孤児になったマサトは、親子3人幸せな時を過ごした母の母国に赴く。小さい時に母親が食べさせてくれたバクテーの味と再会したかった。
そこで家族の秘密を、その背景にある日本軍のシンガポール攻略(1942)を知るのだ。

と書くと面白そうかもしれないけど、全編甘ったるく、フラッシュバックで登場する母親は美しく微笑むだけでキャラがなく、定期的に現れる料理シーンはドキュメンタリーのように人間味がない。

Ramen Teh/la Saveur des ramen

是枝監督の『歩いても歩いても』(ここでも樹木希林が圧倒的な存在感だった・・・)の冒頭料理シーンなどは、日本の台所を物語り、香りが漂ってきそうだった。

そしてシンガポール在住のブロガー女性、松田聖子!アップで見るのは何年(何十年)ぶり?全くシワのないピンピンの肌も不思議だけど、役どころも表面的というか、存在理由がイマイチわからない。フランスの批評では「Jポップの80年代アイドル」と紹介されていた。

シングルマザーで息子は中学生。

Ramen Teh/la Saveur des ramen 松田聖子

おばあちゃん(マサトの母の母)が出てくるとちょっとスパイシーになり目が覚めるが、それも長くは続かず「泣かせたい」が透けて見える。監督エリック・クーは泣かせるのが好き、という噂。

Ramen Teh/la Saveur des ramen 斎藤工
photos: allociné

一緒に行った友達は最近日本に興味を持っていて、雑誌の日本特集号など読んでいる。まあ、日仏友好160年記念のお陰でクローズアップされているから日本に興味を持ち出すフランス人は少なくない。
映画の後ビールを飲みながら、
「日本にお医者や看護婦さんが裸の病院があるんだって?」
「 あるわけないでしょ。どこで読んだの?」
「ネットで。他の病院よりよく治るんだって」
「裸のレストランは聞いたことある。確かロンドンから入ってきて予約殺到なんだって」
「いや、絶対病院もある。探してURLを送ってあげるよ」
結局、見つからなかったそうだけど、“他の病院より治る”というのはフランス人が書きそうで、しかもありえそうだ。

la Saveur des ramen
Eric Khoo監督作品
主演:斎藤工、Jeannette Aw Ee-Ping、松田聖子、伊原剛志他
1時間30分
フランスで公開中
日本での公開はなぜか未定


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メトロで“撒く”

夜10時すぎ、メトロ4番線に乗って本を読んでいたら、前に座っている男性が「S’il vous plaît」。顔を上げると、ツィードのジャケットを着た一見紳士的なオジサンがほほ笑んでいる。
「は?」
「日本人ですね」
「はぁ」
「あなたはとてもチャーミングだ」
「?!」
歳とともに声をかけられることは減ったが、タタミゼが残っていた(注:“タタミゼ”とは日本女性にファンタズムを持つ仏男の俗称)
私はプイと席を立って引っ越した。
ふつうはここであっさり諦めるんだけど、シャトレで降りて1番線に向かうと、男性がすぐ後ろにいて「シル・ヴ・プレ」「あなたは・・・」といいながらついてくる。
私は全く無視して歩き続けたけどタタミゼは概してしつこい。どっかで撒かなくちゃ。まっすぐウチには帰れない。
夫は田舎に行っていて「迎えに来て」と言えないし、駅の反対側の出口から出る?それともうちの隣のバーに逃げ込む?
疲れてお腹空いてて(その晩はサルサに行って晩ごはんを食べていなかった)かくれんぼする元気はないのに・・・幽霊の次はタタミゼか。

そういえば、こういうシーン、スパイ映画やスリラーによく出てくる。映画好きなら実用に生かさなくちゃ。でもどうやって?
1番線のホームに電車が入ってきた。わたしのすぐ後ろにいる男が窓に映っている。
ドアが開くなり、私は脱兎のごとく駆け出し、3両ほど離れた車両に、ドアが閉まる間一発で飛び込んだ。
男性は乗らなかったみたい。いや乗らなかった。ほっ。

映画はこんなとこでもお役に立っている、と後日息子に話したら、
「ふつうは逆をやるんじゃない」
「?」
「一度乗って、扉が閉まる直前に飛び出す」
はぁなるほど。そういえば映画でよく観たのもそっちだったような。
でも私の運動神経では、ドアに挟まれても身体半分は車内という可能性が高い。挟まれてもがいている姿を見たら、男も諦めたに違いないけど・・・


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”Girl”への道のり

天使のような美しい顔、もうすぐ16歳になるララは、エトワールダンサーを夢見て過酷な練習に励んでいる。
でも人一倍練習してもララの身体は柔軟さが足りず、思うように撓ってくれない。
彼女は男の子として生まれたトランスジェンダーなのだ。

映画『Girl』

ホルモン療法はしているけど「手術はまだ先のこと、あなたは若すぎる」と医師。
一日も早く中身と外見を一致させたいララは待ちきれない。レオタードを着るのに毎日ひと苦労だ。

父親(シングルファーザー)はララを全面的に応援し、健康を気遣う。ララが女の子であるを知っているからだ。

映画『Girl』


ブリュッセルのバレエ学校の教室、鏡と向き合う自分の部屋、キッチンでの家族との短い会話、父親と行く病院で医師とのやりとり、またバレエ学校で練習・・・カメラはひたすらララを追う。その優しい表情は仮面のように焦りや葛藤を隠している。父親が尋ねても「問題ない、うまく行っている」と答えるばかり。

一番辛いのは、バレエ学校の生徒たちの好奇の目や、先生の心無い質問「ララが女子更衣室を使うことにみなさん賛成ですか?」ではない。彼女を閉じ込めている“この身体”なのだ。

ベルギー人Lucas Dhont/リュカ・ドン(リュカス・ドント?)の『Girl』。27歳という若い監督の初めての長編作品。
今年のカンヌ映画祭でカメラ・ドールをとった。

映画『Girl』

LGBTのT、トランスジェンダー。最近、この言葉を目にする機会が増えたとは言え、まだ知られていないし理解されるのには程遠い。
ただでさえ難しい思春期に、身体で表現するバレエを選び、2つの性の間で葛藤するララ。まあ、これだけ理解のある父親は珍しいだろうけど。
セリフは多くなく、説明も少なく(母親はどこで何をしてる?)、彼女の”不幸”は、バレエ学校のトイレや自分の部屋の鏡の前で感じ取られる。

映画『Girl』
photos:allociné

それだけにララ役のダンサー、15歳のヴィクトール ・ポルスターの演技は素晴らしい。カンヌの『ある視点』部門で演技賞をとった。

映画『Girl』
photo:LCI

神様も間違うことがある。その間違いを生きるのは大変な苦労だ。「性的嗜好の話」でも「一過性のもの」でもないのだ。
こういう作品で性的マイノリティの理解が増すのを願うばかり。

Girl
リュカ・ドン監督作品
主演:Victor Polster、Arieh Worthalter
1時間45分
フランスで公開中   

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メトロで聞いた夢の話

日曜の夜。メトロを降りたところにスーツケースを両脇に置いた中年過ぎの女性、長い階段を前にして躊躇うように立っていた。
周りに頑強な男性はいない。
「持ちましょう」
とそのひとつに手をかけると、
「あ、それ重いです」
持ち上げるとなるほど重い。それは夫に任せ、小さいスーツケースを持って一緒に階段を降り始めた。
「叔母が亡くなって彼女の家の後片付けをしてたんです、一日中」
控えめな印象の女性がいきなりそんな話を始めたんでちょっとびっくり。
「だからすごく疲れて・・・」
「精神的にも」
「そう。叔母は日仏混血だったんです」
「 !?」
「日本とフランスを行ったり来たりで、2つの国の思い出がいっぱい詰まってました」
彼女はレトロな服装で、優しい表情をしていた。
「昨日、とても綺麗な不思議な夢を見たんです。叔母は元気で、日本に発つところで、飛行機のタラップの上から手を振ってるの。口をパクパクさせてるけど何を言っているかわからない」
「すごく象徴的な夢じゃないですか?」
「そう、ウソのように象徴的な夢」
もっと夢の話を聞きたかったけど、彼女は立ち止まり、
「私はこっちの出口から出ます。エスカレーターがあるからもう大丈夫です」
「ほんとに?」

彼女と別れたあと、私が日本人だとわかって話したんだろうか?でも顔にジャポネーズと書いてあるわけじゃなし、中国人でも韓国人でもありえたわけだ。
一日中ひとりで亡き人の持ち物を整理していて、誰かと話したくなった?きっとそうだ。
と思った後、ちょっと待って。パリ-東京便にタラップがあったのは大昔のことじゃない?そういえばあの女性にも浮世離れした雰囲気があった。影が薄いというか・・・もしかして彼女も・・・?

凡人の怪談』を読み、村上春樹の『騎士団長殺し』を読んでいるせいかも。
霊が見える人は最初から見えて、見えなかった人が突然見えるようにはならないだろう。あの女性だって幽霊扱いされたら迷惑だ。足もちゃんとあったし。

“タラップの上で手を振っていた叔母さん”の姿は、頭の中で映像を結んだ。


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行った人がみんな「スゴイ」「マニフィック」「初体験」と騒ぐけど、話を聞いても何がスゴイ初体験なのかよくわからない。百聞は一見。
8月はほぼ連日満員で予約できず、9月は慌ただしくて忘れていて、やっと先日、アトリエ・デ・リュミエール、光たちのアトリエへ。

ふつうの展覧会は絵画は不動で、観客が動きますよね。このアトリエでは逆。絵画のほうが動いてくれる。元倉庫のような大きな空間に私たちは座り、壁、天井、床までクリムトの絵が映し出される。床に座り込んで見ている人も多い。

クリムト、アトリエ・デ・リュミエール

クリムトに包まれるような感覚で、なるほど今までにない初体験。

クリムト、アトリエ・デ・リュミエール

クリムトはあまり好きではなかった。ポスターはもとよりマグカップやコンパクトまで使われ過ぎのせいもある。
しかし、壁いっぱいに浮かび上がる絵、その細部やモチーフの色使いに評価が変わった。

私たちは12時に入り、最初のフィルムは約30分で終わった。これだけ?
「だから30分おきの予約になってるのかな」と言うと、
「まだあるわよ、全部で55分」と隣の女性が教えてくれた。リピーターなの?

次のフィルムが始まり、私は2階に行ってみた。上から見ると床にも絵が映し出されている。それが動くので、光の波間を漂っているような気分。長くいると船酔いしそうだ。

クリムト、アトリエ・デ・リュミエール

言われた通り、1時間弱で最初観たフィルムに戻った。
一緒に行った娘とその友達も(2人ともボザールの学生)「クリムトは好きじゃなかった」
やっぱり評価がワンランク上がったってことらしい。

アトリエ・デ・リュミエールは新しいアートの見せ方(歩くのが嫌いな人にも最適)を提案していて画期的。でもこの見せ方はどの画家でもできるってもんじゃない。
ほかに誰がいるだろう・・・
「印象派?モネとか?」
娘たちの関心は既にお昼に何を食べるかに移っていた。

Atelier des Lumières
38 rue Saint Maur 75011
開:月-木10時から18時、金土10時~22時、日10時から19時
入場料:14.5ユーロ、5~25歳9.5ユーロ
『クリムト』は2019年1月6日まで

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ナタン君:40度の熱でなぜ来たの!?

「日曜日、何をしました?」
「おいしゃさんに行きました」
「日曜にお医者?救急医ってこと?」
「はいそうです。えと、40度ありました」
「40度 !!昨日40度あって、なぜ来たの?!」
ナタンは答える代わりに「フフフ・・・」と笑う。
うちの子供なら38度で寝込んでいただろう。
ひとつの漢字を500回書き、40度の熱で授業に来る人と差が着くはずだ。

「もしかしてグリップ(流感)?」
思わず後ずさりする。
「いいえ、グリップじゃない。でもアタマがよく・・・」
「はたらかない?」
「そーです」

お父さんから「ヤク切れになったヤク中みたいな顔してるから病院に行った方がいい」と言われてURGENCEに行ったら、ストレスと疲れが原因といわれた、とフランス語でスラスラ説明してくれた。
あなた、ヤク切れになったことあるの?と聞きたかったけどやめた。余談で授業が終わりそうだ。

ナタンは段ボール会社の倉庫でバイトしている。小柄で細い彼がなんで力仕事を?と思うけど、事務より面白いらしい。でも埃がひどくて息がゼイゼイになるくらいで「タバコの本数が減った」
従業員全員で一度大掃除をしようと主任に何度か頼んだけど、なかなかウンと言わない。
「その主任、残業にサインしないし問題ありじゃない?」
「ありです」

さて日本語。これまでは“です・ます”だったのが、ようやく「普通形」が出てきた:「このカレー、おいしい」「今、ひま?」・・・
ナタンは「これ、アニメの日本語です!」と嬉しそうなマンガの顔になった。


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恍惚のダンス、地獄のクライマックス

有名な振付家の呼びかけで選ばれたヒップホップのダンサーが、人里離れた建物に集まり最後のリハーサルをしている。
電話もないし、携帯も通じない。外には雪が降っている。
彼らは間もなく栄えあるアメリカ公演に発つことになっていた。

ギャスパー・ノエ『Climax』

激しいリハーサルの後、ストレス解消のパーティが始まった。洗面器ほどのボールに用意されたサングリアをダンサーたちはガブガブ飲む。ところがその中に誰かがLSDを入れていた。

ギャスパー・ノエ『Climax』

殴り合い、絡み合い、トランス状態で踊り狂い、ナイフが光り・・・パーティはゾンビの饗宴と化する。

ギャスパー・ノエ『Climax』

“挑発的な鬼才”、アルゼンチン出身フランス在住のギャスパー・ノエの『Climax』。

ギャスパー・ノエ『Climax』
photos:allociné

1996年に実際に起きた出来事を再現した作品で、今年のカンヌ映画祭の監督週間(Quinzaine des réalisateurs)で上映された。

前半のリハーサルシーンは、マルク・セローンの『Supernature』で踊るダンサーたちのパーフォーマンスにただ唖然。こいつら同じ人間か ?! まるで関節が外れているような動き、トランス状態のような、でも正確なコレオグラフィー。
ギャスパー・ノエはこのダンスシーンを、これまで観たことがない迫力で撮る。

ラリッた後半はビデオゲームのような光の中で、あらゆるヴァイオレンス。妊娠中のダンサーのお腹を蹴飛ばす者、ロウソクの上に倒れて燃え出す者、狂ったように踊る者・・・前半、エクスタシーの頂点に上り詰めた分、地獄への落下も激しい。
エクスタシーと死は隣りあわせだ。

一見の価値あり。夫は「ダンスの映画?ぼくはパス」。誰と行こうかと考えていたら、娘に誘われた。
ギャスパー・ノエの噂は知っていたけど観たのは初めて。「他のも観たい」と言ったら、『LOVE』はよかった、と娘。あなた、いつそんなエロチックな映画観たの?
鬼才と言われても、1998年から長編映画はこれで5作目。ギャスパーさん、一体なんで生活してるんだろう?

Climax
ギャスパー・ノエ監督作品
主演:ソフィア・ブーテラ、スーエイラ・ヤコブ、キディ・スマイル他
1時間35分
16歳以下禁止
フランスで上映中


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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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