「去年の9月から、ひとりの男を待つ以外、私は何もしなかった」で始まるアニー・エルノーの小説。
自分の生きたことをもとにフィクションを書く作家だから、主人公は彼女自身。中年女性の“私”は、あるヴェルニサージュで、在仏外交官の男性と出会い、関係を持つ。それ以来、“彼が電話してきてうちに来るのを待つ”以外のことは意味を失った。

彼女は以前のように、スーパで買い物し、食事を作り、本を読み、レポートの添削をする(彼女は大学の先生)。でも心はここにあらず。出かけても、彼の電話を逃したら大変、と大急ぎで帰ってくる(まだ携帯電話がなかった!)
結婚している彼は、夕食や出張をでっちあげて時間を作り彼女に会いにくる。次の逢瀬はいつかわからない。彼が来たあとは、その余韻や抱擁や言葉を糧に生きる。彼の国のニュースを新聞で読み(彼は外国人)、次に会ったとき言うことをメモし、服やメイクを選び、彼の好きなウィスキーや食べ物を買い、次は、最初にどこでセックスするか想像する・・・

心も身体もその男のためだけに生きていた時期、激しい情熱とそれに伴う苦痛が、全然メロにならず、淡々とした文体で綴られる。最初読んだときは、Passionとは、喜びと苦痛が表裏一体になっていたんだ、と実感し、この夏読んだときは、
『子供の頃、贅沢とは毛皮のコート、ロングドレス、海辺の別荘だった。後に、知的生活を送ることが贅沢と信じた。今では、誰かへの情熱を生きるのも贅沢ではないかと思える』
という最後にはっとした。

『Passion simple(シンプルな情熱)』(1991年)当時

アニー・エルノー『シンプルな情熱』

今は75歳。先日亡くなったソニア・リキエルのニットをよく着ている。

アニー・エルノー『シンプルな情熱』

地方都市で食料品店を営む夫婦のもとに生まれたアニー・エルノー。両親は学歴がなく本も読まないのに突然変異で、文学少女から近代文学の教師になる。その傍ら小説を書きだした。父親、母親のこと、娘時代、恋愛遍歴・・・フランスでは、新作が出れば必ず話題になり、本屋で平積みになる人気だけど、日本ではあまり知られていない。この『シンプルな情熱』は角川から出たけど、絶版になっている。残念。70ページ足らずで、それこそシンプルなフランス語なので、お試しください。


ランキングに参加しています。クリックしていただけたら嬉しいです。
にほんブログ村 海外生活ブログ フランス情報へ

にほんブログ村 海外生活ブログへ
にほんブログ村



スポンサーサイト
コメント
読んでみます
こんにちは。いつも楽しみにブログを拝見しております。フランス語勉強中で、本が大好きなので、ご紹介されている本が図書館にありましたので早速借りました。でも、原文も読んだみたいので、私にも読めるかしら?なんて不安もありますが、チャレンジしてみようと思います。これからも、本の紹介を宜しくお願いします!映画の紹介もいつも参考にさせていただいてます!
これからも、更新楽しみにしてますね。
Re:Rie様
最初のころ、日本語で斜めに読んでから原文で読む、というのをやりました。大体筋がわかっていると「難しい!わからん!」と途中で投げ出すのを防げます。ご感想をお聞かせください!
いつも楽しみに拝読しています。ワカメちゃんも読ませていただきました。
アニー エルノー、大好きです。大人の女の情念に、最初は全く理解できず、もう少し歳をとって二度目に読んだときは完全に魅了され、その後何度も読み返しました。知性とパッションが同居する大人の女性って日本人ではパッと思いつかないので。与謝野晶子とか?
3部作として日本語版の出た当時は翻訳本ブームもあって結構売れたと思います。本人も来日して講演してたような。今はブックオフで100円とかで売られてるのを見かけますが、最近の作品も読んでみたいです。
Re: nicola様
本も読んでいただいてありがとうございます。
アニー・エルノー、いいですよね。最新刊『Mémoire de fille』(少女の記憶)も評判になりました。私は買って、途中でやめて(!)『シンプルな情熱』を読み返しました。
アマゾンでも100円で売ってますよね。
コメントの投稿
プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

カレンダー
03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
最近の記事
カテゴリー
おすすめ書籍
RSSフィード
おすすめコスメ
フランスに行くなら
プロヴァンスの田舎町をまわる1日
アーカイブ