59歳、建具屋、妻に先立たれて一人暮らしのダニエル・ブレイク。心臓発作で危うく一命を取りとめ、お医者さんから仕事をしてはいけないと言われる。
傷病年金を申請しようと、社会福祉の下請けオフィスに行くと、まるで心臓と関係ない質問をされ(目は見えるか?手は挙げられるか?・・・)挙句、「健康である」と判断される。つまり傷病年金はダメ。

それでは失業手当をと、国民保険のセンターに赴くと、手当を受けるためには就職活動をしなくてはダメと言われる。
失業手当願いの書類はパソコン上で、自分で記入しなくてはならない。パソコンを触ったこともないダニエルは四苦八苦。

手書きの履歴書を手に、工事現場から工事現場に職探しが始まる。
「仕事?ないねえ」という返事が続いたあと、ダニエルの履歴書に関心を持つ工事主任に出会う。「若い子はすぐ辞めちまう。あんたのようなベテランを探していた」
ところが“採用”の電話をもらっても断らなくてはならない。失業手当をもらうため、職探しのふりをしているだけだから。
とにかく職探しはしたから、と再び福祉サービスに赴くと、「え?履歴書を渡しただけ?それじゃ職探しをしている証拠がないじゃないですか !?」
ダニエルはカフカ的な迷宮に怒りと疲れを覚えだす。
窓口の人間の言うことはすべてマニュアル化され、手続きはすべてコンピュータ処理。私は番号でしかないのか?・・・

社会福祉センターで、2人の子供を抱えるシングルマザーのカティと知り合う。家族は大家から追い出され、仮のアパートに住んでいる。ダニエルは水漏れや故障を直したり、子供と遊んだり。それは唯一、人間の温かみを感じられる時間だ。

ある日、一緒に食料の支給所に行く。何日も食べていなかったカティはそこでキレてしまう。
貧しいことは決して恥ずかしいことではない、君はひとりで勇敢に頑張っているじゃないか・・・カティを励ましながら、それは自分自身への言葉でもあると気づく。どん底の生活に落ちていきながら、必死で、尊厳を、自己愛を保ち続けようとしている自分への・・・

ケン・ローチ『I, Daniel Blake』

労働者階級や移民の日常を、ドキュメンタリーに近いほどリアルに描くケン・ローチ。
カンヌでパルム・ドールを取った『I, Daniel Blake/Moi, Daniel Blake』(日本語タイトルは『私、ダニエル・ブレイク』にはならない予感)

ケン・ローチ『I, Daniel Blake』

ケン・ローチ、80歳

ケン・ローチ『I, Daniel Blake』
photos:allociné

福祉国家だった古き良き英国(マーガレット・サッチャー以前)の生き残り、ケン・ローチが描く、「何とかして払わないように」の原則と、マニュアル化した応対の今日の“福祉機関”(イギリスの国民保険は、福祉を受けられるかどうかの判断を民間会社に下請けに出している)。そこでたらい回しにされながら、自尊心やユーモアを失わないで立ち続けようとするダニエル・ブレイク・・・ ダニエル役は、Stand-upのお笑いコメディアン、デイヴ・ジョーンス。

映画の終わり、珍しく拍手が起こった。
そして「あれに比べればフランスの福祉はマシだ」という囁きが・・・例えば、フランスでは冬の間、大家は、家賃を滞納しても追い出してはいけないという法律がある。小さい子供がいる場合は尚更だ。


Moi, Daniel Blake
ケン・ローチ監督作品
主演:デイヴ・ジョーンス、ヘイリー・スクワイアス
1時間39分
フランスで上映中


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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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