「ひとりで親父を探しに行くなんて無茶だよ!ほっとけよ!」
という息子の反対にもレキアの決心は揺るがない。
48年来パリの工事現場で働いている夫が、最後にアルジェリアの故郷に帰ってきたのは4年前。毎月送られていたお金も数カ月前から途絶えている。
自分の町カビールから一歩も出たことがなかった70歳のレキアは夫を探しに行こうと決心する。見つけ出して故郷の町に連れ帰ろう、子供の成長も見なかった夫とやっと一緒に暮らすのだ。

カビールからバスでアルジェ、アルジェから船でマルセイユ、TGVでパリにたどり着く。

映画『Paris la blanche』

でも長年住んでいたアパルトマンに夫はいなかった。
小さいスーツケースを下げ、ピガールで途方に暮れるレキアを、カフェで働くタラは放っておけなかった。
「あなたの旦那さんは定年退職してるのね?心配しないで、年金生活者はみんな登録されているから絶対見つかるわ」
果たして翌日、一緒に訪れた社会福祉課で夫の居所がわかる:移民労働者専用の老人ホーム。
そこでレキアは夫ヌールと再会する。そして一緒に帰ろう、と説得する。

・・・というシンプルで地味なストーリーだけど、その行間には、貧しくてフランスに出稼ぎに来なければ家族を養えなかった背景、48年という驚くべき歳月、行ったことのない大都会にひとりで乗り込んでくると決意の重み・・・が垣間見える。そして作品全体を包む、この夫婦の抱擁のような穏やかさ。

Paris la blanche/パリ、白い街。

映画『Paris la blanche』

アルジェがville blanche/白い街と呼ばれることから、パリのアルジェ、のようなニュアンス。

カメラは始終レキアの表情を追う。優しい顔立ちに見える決意、夫への懐かしさ、愛情、そして諦め・・・
再会の日、夫行きつけのレストランで食事をし、肩を並べてパリを歩き、エッフェル塔に感激する。「生涯で最高の日だったわ」とレキア。「結婚した日の次にね」と付け加える。

「この孫、あなたは会ってないでしょ?」

映画『Paris la blanche』

レキアが再会したのは、知っているようで実はよく知らなかった男、48年の歳月が隔てた夫だった。

この作品、小津安二郎の作品と比較している批評家もいた:小津のテーマではないけど小津の世界。
レキア役は『アスファルト』で、テラスに不時着した宇宙飛行士を泊め、言葉は通じないのに意気投合するあのおばあちゃん!後をひく作品。お奨めです。

Paris la blanche
リディア・テルキ監督作品
主演:Tassadit Mandi/タッサディ・モンディ、Zahir Bouzerar/ザヒール・ブズラール
1時間26分
フランスで上映中

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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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