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キュートな傘修理おじいさん

パリは、特に秋の終わりに雨が多い。それなのに傘が進歩しない。高いくせに壊れやすく、風が吹くとひっくり返る。
雨の日が続くのに私の傘は2本とも壊れている:ブルーのは持ち手をどこかで落とし、赤い傘は開いたときカチッと止まってくれず、ひっきりなしに開き直さないといけない。

また買うのも腹立たしいので修理屋さんを探したら、エティエンヌ・マルセルの近くにあった。
細いパッサージュにある小さな店に、初老のおじいさんがひとり。

パリの傘修理屋さん

フランス唯一の傘修理屋さんPEP'S、ご主人はテレビにも出た有名人らしい。

パリの傘修理屋さん
photo:bfmtv

赤い傘を見るなり、
「これは中国製、すごく質が悪い」
「でもメジャーなメーカー(Isotoner)ですよね。どのメーカーを買えばいいんですか」
「どのメーカーも90%は質が悪いの。これなんか10ユーロでも高いくらいだ」
たしか30か35ユーロした。
おじいさんが傘を開くと、なんとカチッと止まるではないか。
「ウソ!なんであなたがやるとちゃんと開くの!」
「わたしにはバカなことはできんと傘がわかってるから。主人はこっちなんだ、とわからせなければいけない」

パソコンの調子が悪くてアフターサービスの人に来てもらったとき、その人が触ると問題なく動いたのと同じだ。
傘にもパソコンにも嘗められている。
ブルーの傘は触っただけで「これは日本のホネだね。しっかりしてる」
お見事!
「これに合う持ち手ね、見つかるかね・・・1週間後に取りに来て。はい、22ユーロ」
見つける前に値段がわかるの?持ち手だけで22ユーロ?と言いそうになって呑み込んだ。一律料金なんでしょうね。
「赤いほうは?」
「壊れていない。誰が主人かってことをはっきりさせればよろしい」
「・・・」

現金かチェックというので、チェックで払うと、
「このチェックが引き落とされるの来年の2月になるけど心配しないで。引継ぎがあってゴタゴタしてるから」
「リタイアされるんですか?」
「もう64歳なんでね。みんなはそう見えないって言うけど」
私は言ってないけど。
じゃ、1週間後に、と外に出ると、通りかかったアメリカ人のカップルが「So cute !」とお店の写真を撮っていた。
私も撮ったけど、頑固で自分の仕事を知り尽くした職人おじいさんこそキュートに思えた。

PEP'S
223 rue Saint Martin
Paris 75003
TEL:01 42 78 11 67


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コメント
初めまして。何時も小気味の良いお話をありがとうございます。今日のお話は大変私好みでして、こうした店が、こうした店主が今もパリに存在することを嬉しく思いました。そして店主とたかこさんの会話。こういう話を聞くのが好きなんですよ。
こちらのブログをリンクさせて頂けませんでしょうか。よろしくお願いいたします。
Re: タイトルなし
コメントありがとうございます。
私もこのおじいさんともっとおしゃべりしたいと思いました。
ボローニャにお住まいですか?ブックフェアで何度か行って、好きになった街です。
写真の綺麗な素敵なブログですね。
リンクに関してはcontact@french-code.comにご連絡いただけますか?
よろしくお願いします。
傘修理!
フランスで唯一なのにリタイアしてしまうなんて・・・残念。もうこういう仕事をひきつぐ人は出てこないのかなぁ。

壊れた傘を修理してくれませんか、と靴修理のおじさんにきいてみたけど、やっぱりだめ。壊れたら捨てて新しいものを買う、フランスもどんどん日本のような消費社会になっていきますね。

私もたかこさんと同様、よいものを長く使うほうが好きです。

姿を見せなくなった傘の修理人を思い出しました
長谷川さま
 この記事を読み進む裡に、ふと思い出したことが有ります。
 私が居住する集合住宅に、嘗ては移動修理人が、月に1ー2回のペースで出張しては、傘や靴の修理サービスを提供していたのです。私も時々は利用していたのですが、まぁ何せ、傘の修理と云えば、何時も何時も恒常的に発生する類の需要では有りません。
 「あれ、暫く見掛けないなぁ」と思っている裡に、もう十数年。

 その人も、ちょっと変わった佇まいの人で、その風体の変わり具合までもが、この記事を読み返しながら、懐かしく思い出した次第。手間隙の掛かる修理職人なんて、フランスでも、そして日本でも、今時流行らないんですね。
 お元気で。
 
Re: Yozakura様
移動修理人が出張してきたのはどこの街ですか?東京ですか?
私が見つけた傘修理屋さんはネットによるとフランスでただ一人だそうです。
どんな持ち手をつけてくれたか早く見たいし、もっと話がしたいと思いつつ、年末で慌ただしくなりまだ取りに行っていません。

どうぞよいお年を。


Re: カサイカオリ様
お返事遅くなってすみません。
傘修理おじいさんは「引継ぎ」と言っていたので、誰かが継承するみたいです。
でも彼のようなオーラはないでしょうね・・・

よいお年を!
傘の移動修理人は、浮世離れした人
長谷川さま:謹賀新年
 今頃になって、昨年大晦日付けの御返信を発見。遅蒔きながら松の内も過ぎた今、折り返し投稿致します。

 その移動修理人は、身なり服装や表情、修理サービスの遣り方からして、一目でそれと判る「マイペースな人」でした。
 集合住宅に来訪する交通手段からして、使用年数が相当に経過した中古のバイクに乗車。その後ろに、修理道具や器材を満載した、これも年代物のリヤカーを牽引し、ガタゴトガタゴトと、特徴の有る物音を立てながら、集合住宅の敷地に入ってくるのが常でした。
 猶、その時代背景は一応、バブル経済崩壊後の1990年代から2000年代前半頃の出来事です。

 年齢は30歳代の半ばだったでしょうか、何時もラフな服装----と云うよりも、1960年代風の----地味で質素なヒッピー・スタイル。無駄口は叩かず黙々と仕事をこなしていましたが、決して、昔ながらの職人気質ではなく、興味の持てる事象に専心没頭する「気侭な芸術家肌の人」でした。
 謂うなれば、「浮世離れした稀有な人」でしたね。

 お尋ねの点は、別便にて返信差し上げます。お待ち下さい。
 
Re: Yozakura様
遅ればせながら新年おめでとうございます。
よい年になりますように!

いいですね、浮世離れした人。自分の価値観に忠実に生きてるんでしょうね。
傘修理で食べていけるのかは疑問ですが。

移動修理人の来訪は、何時も土曜日でした
長谷川さま
 返信を拝見しました。「傘修理で食べて行けるのか----」とは、当然の疑問でしょう。で、貴女の投稿を読み終えた先ほど、思い出した事象があります。

 そのヒッピー風の移動修理人が集合住宅にやって来たのは、確か何時も、土曜日の昼過ぎでした。彼が選択した集合住宅の敷地内へ外部から進入する経路が、私の部屋の窓からちょうどよい塩梅に観察できる範囲に在りましたから、古いリヤカーを中古のバイクでバタバタと牽引する個性的な騒音と相俟って、その長閑な昼下がりの情景は良く記憶して居ります。
 ひょっとして、毎週月曜日から金曜日までは、傘の修理とは別の仕事に従事していたのかも----。いえ、私は修理人個人の私生活に対して特段の探究心はありませんから、そう云うことは一切、尋ねませんでしたが。
 今年も健筆を奮って下さい。お元気で。
 
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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(単純計算しても歳は出ません!)
訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とヴィンテージの服、デビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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