私はあなたの癌です

男は作家で、アル中。プールつきのシャトーのような館に、お手伝いさんと若い愛人と住んでいる優雅なアル中だ。一日中白ワインのボトルをつけた氷入りピッチャーを抱え、トイレにまで抱えていくほど。

ある日、館のテラスで一人飲んでいると表門のブザーが鳴る。お手伝いさんが防犯カメラで見ると、誰もいない。
しばらくしてまたブザーが鳴る。男がインターフォンで尋ねると、
「私はあなたの癌です。少しお互いのことを知っておいたほうがいいと思って伺いました」
男は拒絶するが、癌の執拗さに負けて扉を開ける。癌はちょっとくたびれた背広を着た40代の男。でもお手伝いさんにはその姿は見えない。主人が一人で怒ったり、取っ組み合いをしているように見える。密かに主人に思いを寄せる彼女は、とうとう脳をやられたか、と心配するのだ。

主人公の男はジャン・デュジャルダン。3枚目の役が多いけどシリアスも上手い。背後に佇む癌はアルベール・デュポンテル。

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男は癌を殺そうとするも上手くいかず、結局同居することになる。
癌は、男と白ワインを酌み交わしたり、プールで一人泳ぐ愛人に見とれたりの城の生活が快適でご機嫌だ。
一方男にとっては、酒を飲むときも、食事をするときも、愛人とセックスするときも、癌が隣にいるのが鬱陶しくてたまらない。

寝るのも一緒・・・
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美しいロシア人の愛人を演じるのは『LOL』のクリスタ・テレ。
あの映画ではまだ子供っぽさが残っていたけど、すっかりナイスバディの女。

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男は“作家”といえども、妻が一人息子を連れて出て行ってから1行も書けず、酒量が増えている(朝起きるとまず白ワインを1本、10時にもう1本開け(そして空け)、お昼になるとアペリティフに白、食事をしながら赤、食後は昼寝をして、5時に目覚めると“少々早いがアペリティフの時間!”・・・書いているだけで二日酔いになりそうな量)。
絶望を酒で紛らせ、生に執着がなさそうなので、癌にとっては“楽な仕事”だ。

ベルトラン・ブリエの最新作『Le bruit des glaçons』(氷の音)のお話。
これまでもブリエは死をテーマに映画を作ったが、こんな風に死が人間の形をして現れるのは初めて。そのせいか、または癌のキャラクターのせいか、あまり悲壮感がない。恐怖というのはその形が見えないときのほうが余計怖いのかもしれない。

最後の展開が上手いので、途中ちょっと冗漫に感じても居眠りしたり(してしまって後悔)席を立ったりしないで、終わりまで見て欲しい。
私が癌の訪問を受けたら、どんな付き合いをするだろうか、と考えてしまう。

『Le bruit des glaçons』
1時間27分
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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


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