不況の時は笑いたいか泣きたいか?

今年の初めにフランス映画界の融資家たちが集まって「不況の時はみんな笑いたいはず。コメディを作ろう!」と合意に達したんだとか。
ところが蓋を開けてみると、『人々と神々』が観客360万人突破の大ヒット。無償で人に奉仕する僧侶たち、その極めて質素な暮らしぶりに観客は涙を流した。さらに“お金持ちや贅沢が好きな”サルコジ嫌いの人たちまで動員して、制作者もびっくりのヒットに。
そしてやはり泣ける映画『Elle s’appelait Sarah/彼女の名はサラ』もロングラン。日本語タイトルは『サラの鍵』。
この作品は、第二次世界大戦中にフランスで行われた『冬季競輪場の一斉検挙』がテーマ。なんか、いかさま競輪の一斉手入れを想像してしまうけど、ユダヤ人の検挙だ。
1942年7月、ヴィシー政権下で、フランス警察が13000人のユダヤ人を逮捕し、パリ15区にあった冬季競輪場(略してVel d’Hiv/ヴェルディヴと呼ばれる)を仮収容所とした。5日間、水道がひとつあるだけで食べ物なし。脱走しようとする者はすぐ射殺された。その後、北フランス、ドランシーの収容所を経由して、ドイツの本格的収容所に送られたそうだ。

当事の写真。これだけの人が5日間閉じ込められていたと聞くと背筋がぞっとする。

veldhiv_petit.jpg

『彼女の名はサラ』
Sarah.jpg

1942年7月13日夕方、9歳のサラが弟とじゃれ合っていると、警察がやってくるところから映画は始まる。
「身の回りのものだけ持って一緒にきなさい」
事態の深刻さを感じ取ったサラは、とっさの機転で、弟を戸棚に隠す。
「ホラ、昨日やったみたいにかくれんぼよ!」
戸棚は壁の一部になっていて、ちょっと見には戸棚に見えないのだ。
「すぐ迎えに来るからね」と囁いて、両親と一緒に連れ去られるサラ。戸棚の鍵を命のように大事に握り締めていた。
時は移って2009年。
在仏アメリカ人ジャーナリスト、ジュリア(クリスティ-ヌ・スコット=トマス)は『冬季競輪場の一斉検挙』の記事を書こうとしていた。
たまたま自分が家族と引っ越そうとしているマレのアパルトマンに、以前ユダヤ人家族が住んでいたことを知る。調べるうちに、そこが“サラ”の一家が住んでいた場所だと判明する・・・

ナチによるユダヤ人検挙は有名だけど、この『冬季競輪場の一斉検挙』は、フランスが、いわばナチにおもねるため、自発的にやったもの。つまり“隠したい過去”で、あまり知られていなかったそうだ。
1995年にシラク大統領が初めて『この事件は私たちの歴史を永久に汚す。フランスの過去と伝統の屈辱である』と認めた。

私は『人々と神々』よりこの映画のほうに感動した。逮捕され殺された人々、その家族や子供たちが受けた傷、そして歴史の汚点は誰もが隠したがるものなのだ、と。
フランスにいると、ユダヤ人迫害の歴史や、今日の彼らの位置づけに無関心ではいられないので、歴史のお勉強にもなった。

一緒に行った友達が「戦争のない時代に生まれて良かった」とつぶやいた。
そうなんだ!不況だ、失業だ、お金がないと意気消沈しているとき、こういう映画を観ると、相対的になれるのだ。
つまり、不況のときは泣ける映画を作ろう、が正しい。

『Elle s'appelait Sarah』
Gilles Paquet-Brenner監督作品
Bienvenue Montparnasseなどでまだ公開中

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コメント
久しぶりの涙
サラの鍵を今日観ました。競輪場の事、フランスがナチスに協力した事、恥ずかしながら初めて知りました。心が重いままここにたどり着きました。
Re: 久しぶりの涙
冬季競技場の一斉検挙は、フランス人にも知らない人が多かったそうです。歴史の汚点を隠したがるのはどの国も同じなんですね・・・
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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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