旅立つ人たち

息子が友達と日本に出発する。私が一緒だとなかなか日本語をしゃべらないし、キャンプとか山歩きとか私とではゼッタイにできないことを計画しているし、1ヶ月の一人旅で少しは大人になるだろうし、とにかくスバラシイ。
と内心喜んでいたけど、昼間はバイトに出かけ、夜は夜遊びに忙しく、なかなか準備をしない。どころか、
「東京から遠くなくて、あんまり疲れないハイキングコースがあって、疲れたらあまり高くないキャンプ場があるとこ、知らない?」(知るか!)とか
「東京で誰か泊めてくれる友達、探してくれる?」とか、ちょっと虫が良すぎるじゃない?
それでも突き放せないのが母親というソンな生き物。
私は息子が遊び歩いている深夜、1m85の大男2人を受け入れてくれないかと東京中の友達にメールを送り、キャンプ場やハイキングコースを探し、おかげで日本地図のお勉強になった。

前日になって案の定、「テニスシューズに穴があいてる」とか「パンタクール(短ズボン)がシミだらけ」と言いだすので、夕方2人で買い物に走り、旅行中に読む本も選んだ:カフカの『審判』は村上春樹の『海辺のカフカ』がエラく気に入って読みたくなったから? モーパッサンの短編集にイギリスの推理小説。それに私が村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を加える。仏語タイトルは『La fin des temps』(時代の終わり)だ。もともとよくわからないタイトルなのに直訳したらもっとわからないものね。

夜は一緒に行く友達も泊まりに来て、2時近くまでパッキング。寝袋まで持っていくのでスーツケースは、蓋に2人乗らないと閉まらないくらい満杯だ。
少し眠って5時にたたき起こす。朦朧とした男子たちはテントを担ぎ、スーツケースを転がしながら5時半に発っていった。Bon voyage !

送り出した後、私は2時間電車に乗って、田舎の義父に会いに行く。
94歳になる義父は歩けなくなってから急速に弱り、数日前から何も食べられなくなった。お医者さんは「いつ亡くなってもおかしくない」というので、せめて意識のあるうちに会っておきたいと。
枕元に行くと、私のことがわかったみたいで、何か言おうとするけど声が出てこない。
口の形から、「ボン・ヴォワヤージュ」だろうか?・・・そういえば私がパリから着く度、「ボン・ヴォワヤージュ(いい旅)をしたかね?」が最初のセリフだった。
「ええ、いい旅をしたわ」。
また口が動く。夫の名前を呼んでいるようだ。
「今日は一人で来たの。アランはあさって来るわ」
義父はしゃべる努力で疲れたというようにグッタリ目を閉じた。

2つの旅立ちに立ち会ったような日だった。

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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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