安楽死に賛成?反対?

ムショを出たアラン(ヴァンサン・ランドン)は、他に行くところがないので一人暮らしの母親の家に帰っていく。
母親(エレーヌ・ヴァンサン)は再会を喜ぶ様子もなく、インスタントコーヒーをいれ、息子が「まずい」というと「それしかないのよ」
母息子の関係が伺える最初のやりとりだ。
厳格そうな母親とムショ帰りの息子は、悉くぶつかり合い、傷つけあう。
ある晩、眠れなくて睡眠薬を探していたアランは、スイスの“介助自殺”への申込書を見つけてしまう。
脳腫瘍が進んでいる母親は、自分で死ぬ時を決めようとしていたのだ。

最近公開された『Quelques heures de printemps/春の数時間』。

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“安楽死”を選んだ母、がこの作品のテーマだけど、そこに至る母と息子の関係がリアルに描かれ、2人の俳優が見事に上手く、印象に残る。
きちんと身づくろいして、家の床をきれいに掃除し、買い物をして一人の食事を作る母親の生活に、文字通り泥足で踏み込んでくる息子。
ヴァンサン・ランドンは、ぶっきらぼうで愛想のない外見に、実は優しい心、みたいな役柄が多いけど、ここでは結構イジワル、お母さんが震え上がるくらい怒鳴ったりする。
この人くらい、何の職業をやらせても真実味がある俳優はいない。出所後、最初に見つけた仕事がゴミの仕分け。おそろいの制服を着せられ、頭にビニールのキャップをかぶり、ベルトコンベアで流れてくるゴミを機械的に選り分けていく。もう何年もやってるみたいにハマっている。
他の作品の、左官や水泳コーチ役もすごく“らしい”。
現実には、名門出版社Edition de minuit社長を叔父に持つ、ブルジョア&エリート出身なのにね。

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photos:allociné

母親役のエレーヌ・ヴァンサン、『人生は長く静かな河』でブルジョア家族のお母さん役で笑わせた女優だ。この作品では、感情を見せず、弱音も吐かず、誰の世話にもなりたくない(一人息子は当てになりそうもないし)という母親。一緒に暮らしたら大変そう。息子への愛情はあるのに、それを上手く伝えられず、気がつけば言い合いばかり。キレて出て行った息子を、それでも待っていて、ちょっと物音がすると「アラン、あなたなの?」と呼んだりする。親と子の関係はなんと難しい・・・
そして最後のシーンは、極めて簡潔に控えめに、全くメロドラマにせずに撮っている。
監督のステファン・ブリゼは、自分の死ぬ日を決めた末期がんの男性のドキュメンタリーを観て、この映画を撮ろうと思ったそうだ。でもそれに賛同、反対の視点はなく、提起している。

死刑には絶対反対だけど、家族の重荷になりたくない、病気の末期の苦しみを和らげたい、という願いは聞き入れられていいのでは、と思う一方、家族だったら同意するだろうか?自分の死期を決めるほうも大変な決心がいるだろう・・・うーん、奥深く難しい問題だ。

フランス人の86%が“安楽死の合法化に賛成”というアンケート結果が発表されたところ。12月までに法案改正が協議されるとか。
映画に出てくる“介助自殺”のクリニックは、スイスのVaud郡で2011年にが合法化された。

Quelques heures de printemps
Stéphane Brizé監督作品
1時間48分
フランスで公開中

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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


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