無名の監督と俳優、低予算の名作

ジャン・デュジャルダン&セシル・ドゥ・フランスの『Möbius/モビウス』(エリック・ロシャン監督)、アニエス・ジャウイ&ジャン=ピエール・バクリの『Au bout du conte/御伽噺の終わりに』(アニエス・ジャウイ監督)。人気俳優の待たれたフランス映画2本にガッカリしていたところ・・・見たことがない俳優の出る、聞いたことのない監督の仏伊合作映画『les Equilibristes』がすごく良かった。“曲芸師”という意味だけど、サーカスのお話ではない。

仏伊映画『les Equilibristes』

ジュリオは市役所で働く40男。愛する妻と2人の子供と平凡で幸せな生活を送っている。
ある日、一度だけの浮気がバレてしまう。奥さんはどうしても飲み下すことができず、顔を合わせれば口論になる毎日。子供も心配しだすので、「一時的にぼくはウチを出よう」
ジュリオは年老いた母親と2人で暮らす友達のアパートに転がり込む。でも「お袋に気づかれないように」物置部屋で暮らすのは長く続かない。
娘がアパート探しを手伝ってくれるが、1200ユーロ(!)の公務員の給料で借りられるのは貸し部屋くらいだ。とても子供たちが遊びに来れる広さではない。

一見パンク、しっかり者の娘。ジュリオ役はヴァレリオ・マスタンドレア
仏伊映画『les Equilibristes』3

仕方なく一泊20ユーロの宿泊施設に移る。そこは火を使ってはいけないので料理ができず、安い店を選んでも食費にお金がかかる。奥さんにはお金を渡さなければいけない。
同僚にお金を借り、仕事に行く前に市場で野菜の積み下ろしのバイトまで始める。でも身体がもたない。どんどん堕ちていく生活の中で、自尊心を保とうとするジュリオ。こんな姿を子供に見せてはいけない・・・

監督はIvano de Matteo/イヴァノ・デ・マッテオ。なるほど、ちょっと押されればバランスを失い落ちてしまう人間の危うさは曲芸師の綱渡りに似ている。
主人公が少しずつ“壊れて”生きる意味をなくしていく様がリアルで、シナリオがいい。

浮気がバレた後、家族は夕食にピザを注文する。配達人が間違えて頼んでいないピザが届くが、ジュリオは「それでいい」と受け取る。
「私がアンチョビーが嫌いって知ってるでしょ!」と妻。
「50過ぎの疲れたピザ配達人で、突っ返すのが可愛そうだった」
「ピザ配達には思いやりがあるのね!」と椅子を蹴立てて出て行く妻。
こういう口論、すごくありそうだし、私もやりそうだ。

不況で世の中が欝なときに、こんな映画を観たら落ち込みそう、と思いがちだけど、逆に勇気づけられるような作品。堕ちるとこまで堕ちた人間を引っ張りあげるのはお金じゃなくて人間、それも自尊心や意地で身動きが取れなくなっている大人ではなく、まっすぐにぶつかってくる子供なのだ。

les Equilibristes
Ivano de Matteo/イヴァノ・デ・マッテオ監督
1時間53分
パリで公開中


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コメント
長谷川様
ご紹介の文章を読ませていただいただけでジンワリ泣けてきました…人を切り捨てないで生きていきたいと思いました。
いつもステキな情報、文章をお送りくださってありがと〜ございます。今日はホワイトデーです。感謝をこめて←これ、表示されますかね〜!?
Re: 長谷川様
読んでいただいてありがとうございます。
堕ちていく人間を引き止めるのは何か、というジーンと後に残る作品でした。
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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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