イスラム版『ヴァージン・スーサイズ』

黒海のほとりのトルコの村、夏の始まり。中学と高校生の5人姉妹は学校の帰りに、男の子と海辺で肩車して遊ぶ。
うちに帰ると噂はもう届いていて、おばあちゃんにこっぴどく叱られる(両親は亡くなって、5人姉妹はおばあちゃんに育てられている)
「男子のうなじに“跨る”なんてハシタナイ !!」(こういう発想は欲求不満の証拠)。
姉達はうつむいて唇を噛むが、末娘は椅子を庭に投げ出し、火をつけようとする。
「この椅子だって私たちのおシリに触ったじゃない 、ハシタナイ!」

そこへ伯父さんが乗り込んでくる。「母さんが甘いからこういうことになるんだ」
その結果、学校は禁止になり、料理、裁縫・・・の花嫁修業に取って代わる。家のドアには鍵がかかり、若いエネルギーを持て余す5人の牢獄となる。誰かが脱出を試みる度に、塀が高くなる。

映画『ムスタング』

そして長女から“見合い結婚”。本人の意見は全く無視で「お互い気に入ったようだから」と、赤い紐で結ばれた指輪が嵌められる。そして初夜には、血のついたシーツを見せろと両方の家族がドアの外で待ち構えている(ここは中世か?こんな国に生まれなくて本当によかった!)。

ソフィア・コッポラの『ヴァージン・スーサイズ』より怖いのは“宗教”の存在。ファナティックなイスラム教にがんじがらめになった人(ここでは伯父さん)は、人の意見など聞けない。“宗教の教えに従っているから自分は正しい”という確信は、専制的圧力にしかならない。
トルコ・フランス混血の女性監督Deniz Gamze Ergüven(発音不可能)の初めての作品『Mustang/ムスタング』(車の名前かと思ったら、もとは“野生馬”の意味!)。

映画『ムスタング』

抑圧された女性の立場を告発した映画は最近多いけど(例えばこのイスラエル映画)、違うアングルが新鮮だ。自由を求める5人姉妹は、団結し反逆する(そこでこのタイトル)。伯父さんに、おばあちゃんに、非人間的な宗教に・・・

カメラが思う存分見せてくれる少女たちの美しさ、夢や好奇心が詰まったしなやかな身体。そして彼女たちのまぶしいエネルギー。
それはトルコの夏の光のようであり、希望の光にも見える。

『MUSTANG』
トルコ・フランス・ドイツ作品
1時間37分
フランスで上映中

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コメント
差し出がましいようですが
この映画、もう少し深いです。
まず、この地域のこの人たちは「ファナティック」な「非人間的な宗教」に凝り固まった人たちではないです。婚礼の方法や純潔云々は、宗教の問題ではなく地域の風習の問題です。
そして、このおばあさんが孫の結婚を急いだのは、おじ(彼女の息子)が姪たちを夜な夜な犯していたから、彼女らを逃がすためにしていたのです。
おじの卑劣な行動は、2回直接に描かれています。Selmaと医者の会話や、Eceのおかしな行動と自殺もそれを背景にしています。
ぜひもう一度、注意して観てください。
Re: 中高年男さま
ありがとうございます。
フランスでは批評も、”地域の風習の問題”とはとっていませんでした。
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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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