Category : 映画

重くて激しい『沈黙』

日本より3週間遅れで封切りになったマーティン・スコセッシの『Silence/沈黙-サイレンス-』

スコセッシ『沈黙-サイレンス-』

1633年.ポルトガルの宣教師、ロドリゲスとガルペは、彼らの師であるフェレイラ神父を探しに日本に旅立つ。キリスト教を布教するために日本に滞在したフェレイラ神父が、棄教したという噂を2人は信じられない。
密かに九州の村に辿りついた2人は、隠れキリシタンに匿われ、彼らがヒステリックなほどに告解と罪の許しを請うのに驚く。

スコセッシ『沈黙-サイレンス-』

そして踏み絵を拒んだ信者たちが拷問のあげく死んでいくのを目のあたりにする。
これらの死は無駄ではないのか?神は彼らの叫びを聞かれたのか?これほど苦しんだ人々を前に神はなぜ沈黙しているのか?
揺らぐ信仰に必死でしがみつくロドリゲス。彼も捕らえられ、檻に放り込まれる。

スコセッシ『沈黙-サイレンス-』
photos:allociné

日本政府にとって2人のしていることは、布教というより“植民地開拓”なのだ。既に確立している仏教を、他の宗教に取り替えようとしている狂信者なのだ。
『日本には偉大な自然以外存在しない。人間を超越するものはないのだ。キリスト教の神の概念は、日本人には理解できない』とロドリゲスはやがて気づく・・・

この映画、キリシタンの拷問や処刑のシーンがかなりショッキング。踏み絵は歴史の教科書にあったと思うけど、こんな残虐なことをしていたんだ、と。
でも考えるとユグノー戦争などヨーロッパの宗教戦争でも多くの人が虐殺されている。終わりなきパレスチナ問題、今日では、イスラム教の名のもとに殺戮を続けるジハードたち。宗教をめぐる戦いは過激だ。

スコセッシはこの作品で善悪の判断を示さず、日本人をカリカチュアもしない。
私は日本で僅か1%と言われるクリスチャンの家庭で育った。特に熱心だったおばあちゃんがこの映画を観たら何と言うだろう?
結局、信仰は自分の中にあるもの、踏み絵を踏んでも、信仰を変えることはできない、という気がした。

登場人物の中で、井上筑後守(イッセー尾形)が特に光っていた。狡猾で、ユーモアがあり、憎めない。夫もさかんに『あの俳優はすごい!』。イッセー尾形さんは『意地悪ばあさん』などテレビドラマに出演していて『長谷川町子物語』では、私が生まれる前に亡くなった祖父の勇吉役。私は見てないけど、なんか親近感。

Silence
マーティン・スコセッシ監督作品
主演:アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライヴァー、リーアム・ニーソン、イッセー尾形、浅野忠信、窪塚洋介
2時間40分
フランスで上映中

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まずララランド。
久々のライアン・ゴスリング、ゴールデン・グローブ賞を独り占め(7部門)で、前評判がすごかった。
封切りの週は、映画館の前に長蛇の列で諦め、翌週の夜、めでたく観れた。
舞台はロサンジェルス。女優志願のミアはオーデションの合間、カフェで働く。
冴えないクラブでピアノを弾くセバスティアン、彼の夢は本物のジャズクラブを開くこと。
それぞれ情熱を持つ2人が出会い、愛し合う。でも彼らの現実は夢とは遠いものだった。

ラ・ラ・ランド

ライアン・ゴスリングは相変わらずカッコよく、エマ・ストーンの目は相変わらず普通サイズの2倍だった。
セリフも全部歌っちゃうミュージカルは苦手だけど、これは普通に話して、時々歌い踊り出すパターン。

ラ・ラ・ランド

音楽はというと、オリジナルより、セバスティアンの弾くジャズがよかった。音楽&ダンス&キャストの魅力のエンターテイメントで、批評が悪くても観ただろうけど、賞を総舐めにするほどかな、と。ゴールデン・グローブの最優秀シナリオ賞もとっているけど、作品の3/4はもう何回も観たようなストーリーだ。
でも批評、前評判が良すぎたので、普段こういう映画を観ない人も来ていて、私の近くに座っていたおばあさんは後半で「なんて長いんでしょう!」 全然好みじゃなかったみたい。

監督のデイミアン・チャゼル監督は『セッション/Whiplash』(ドラム教師と生徒の殆どサドマゾの練習)で有名になった。この監督、フランスではダミアン・シャゼルと発音され、ゴールデン・グローブではまるでフランス人が受賞したみたいに騒ぐんで、フランス人なのかと思ったら、父親が仏米ハーフというだけだった。まったく・・・

日本では去年公開になった『ブルーに生まれて』。50年代のジャズ・トランペット奏者、チェット・ベーカーの人生の一コマを描いた作品は、上映館も少なく、長蛇の列もなかったけど、すごくよかった。

ブルーに生まれついて
photos:allociné

自伝映画の撮影中、チェット・ベーカーは駐車場で滅多打ちに殴られる。借金があったディーラーの仕業。チェットはヘロイン所持でムショの出入りを繰り返していた。
顎や歯を打ち砕かれ、撮影は中止。どころか、再びトランペットを吹けるだろうか?絶望するチェットを、撮影で知り合い愛し合うようになったジェーンは励まし、立ち上がらせようとする。でも、ヤクと手を切ることも、プロデューサーの信頼を取り戻すのも難しかった。

ジャズは特に好きなジャンルではないけど、チェットのトランペットは熱く切なく、演じるイーサン・ホークは限りなくセクシー。そして彼の才能と人生を滅茶苦茶にしたドラッグの怖さ。この作品は絶対2度目観るだろうな。

La La Land/ラ・ラ・ランド
デイミアン・チャゼル監督作品
主演:エマ・ストーン、ライアン・ゴスリング
2時間8分
あちこちで上映中。日本では2月24日公開
ロバート・バッドロー監督作品

Born to be bleu/ブルーに生まれついて

主演:イーサン・ホーク、カルメン・イジョゴ
1時間37分

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異様に太った全裸の女たちが、4段腹をブルブル揺らせて踊るシーンで始まる。スーザン(エイミー・アダムス)が企画したエクスポジションだ。
ギャラリーを経営するスーザンは、実は仕事に情熱をなくし、私生活に疲れていた:美男で金持ちの夫は彼女をほっぽらかし、仕事や女で忙しい。眠れない夜が続いていた。

『メッセージ』(仏タイトル『Premier contact』がよかったエイミー・アダムス。この作品ではちょっとワンパターン。

トム・フォード『Nocturnal Animals』

ある日、スーザンは小包を受け取る。19年会っていない前夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)が送ってきた著書だった。
『夜行性動物』と題された小説は、彼女に献辞されている。
眠れないひとりの夜、スーザンは本を開く:妻と娘と車でどこかへ向かっていたトニーが、いかがわしい2人組に絡まれ、悪夢のような出来事に発展していくというヴァイオレントなスリラー。

トム・フォード『Nocturnal Animals』

臆病だ、現実を直視しないとスーザンが批判していたエドワードと、作中のトニーが重なり、彼女の脳裏に結婚当時の場面が蘇る。

『Noctuenal Animals』夜行性動物。日本語タイトルは『美しきスリラー』とか。

トム・フォード『Nocturnal Animals』

トム・フォードの1作目『シングルマン』(2009)はひたすら耽美的で(コリン・ファースの完璧ファッション、エル・メゾンに出てきそうな家・・・)お話は現実味がなく(スタイリッシュ過ぎ。あんなに生活感なくて生活できるわけがないでしょ)退廃的。鬱になるプロモーションヴィデオを観たような印象だった。

2作目はシナリオがしっかりしているし(オースティン・ライトの『ミステリ原稿』が原作)、全然ファッショナブルじゃない人も出てくるし、俳優がいい(ジェイク・ギレンホールと刑事役マイケル・シャノン!)。小説と現実のダブり方も、ちょっと機械的だけど、よくできている。

トム・フォードはご存知のように、プレタ、コスメ、メガネまでやっていて、売れているのか知らないけど、とにかく高い。息子がメガネを選ぶとき、値段を見ずに「これ、いいね」と言ったらトム・フォードで、後悔したときは既に遅しだった。
とにかく多才な方のようで、1作目よりは随分いい。今週1本観るならこれかな。

Nocturnal Animals

トム・フォード監督作品
主演:エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール、マイケル・シャノン
1時間56分
フランスで公開中

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女優が迫力、この2作

リリアンヌはパテ工場で働いている。焼きあがったパテに、ローリエの葉とピンクペッパーを飾るのが彼女の分担。昼休みも同僚とのおしゃべりに加わらず、一日中ローリエ&ピンクペッパー。17時のベルが鳴るとまっすぐアパルトマンに帰り、ひとりウィスキーを飲む。
ある日、若い男子ジャンが流れ作業に加わった。彼はリリアンヌが、80年代ヒットを出した歌手であるのを見破る。
「父はあなたの大ファンでした。全然変わっていない!」
リリアンヌがなぜ“ここまで堕ちた”か知りたがり、カムバックを薦める。
最初は「ノン」「ありえない」を繰り返していたリリアンヌも、ジャンの情熱にほだされていく。

『Souvenir』

30年も消えていた歌手のカムバックなんて可能だろうか?
母と息子ほど年の離れた2人の愛が可能だろうか?

ベルギー人バヴォ・ドゥフュルヌの『Souvenir/思い出』

『Souvenir』

御伽噺のようなストーリーを、イザベル・ユペールの細腕が“一見の価値ある”作品に持ち上げている。
視線、表情だけで感情を伝えるミニマルな演技。ファンじゃなくても「お見事!」としかいいようがない。

もうひとつ、女優から目が離せなかったのが、成瀬巳喜男の『女が階段を上る時』の高峰秀子。
パリでは、日本の古い映画、小津や溝口、黒沢がよくかかっていて、私はこっちに来てから発見した。

『女が階段を上る時』

バーの雇われマダム、圭子はこの世界では珍しくお客と一線を越えないのをモットーにしている。30歳になり、結婚するか、自分の店を持つかで迷っていた。期待した男には裏切られ、前から自分に惚れているマネジャーとは絶対うまくいかないと知っていた・・・
高峰秀子は、テレビドラマで時々見たけど、堅実なお母さんやおばさん役だったような・・・こんなに色っぽかったの!
可愛くて媚びなくて毅然としてて、彼女もミニマルな演技で、見とれてしまった。

1960年のこの作品には、仲代達也、加東大介、淡路恵子、沢村貞子・・・など名優がぞろぞろ出ている。社用族のオジサンをホステスが取り囲む(今もそう?)昭和のバーの雰囲気も面白い(夫が「今度行きたい!」)。それでいて時代遅れに感じない名作。

Souvenir
Bavo Defurne監督作品
主演:イザベル・ユペール、ケヴィン・アザイス
1時間半
フランスで上映中

女が階段を上る時

成瀬巳喜男監督作品
高峰秀子、森雅也、仲代達也
1時間50分
パリ5区のReflet Médicisで上映中

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アメリカ人モーリーンはパリで、時間のないセレブ女性のためにドレスやジュエリーを借り歩くパーソナル・ショッパーのバイトをしている。好きな仕事ではないけど、ルイスからの“合図”を待っている間の生活費稼ぎだ。

『パーソナル・ショッパー』クリステン・スチュアート

パリで急死した双子の兄、ルイスとモーリーンには霊媒能力があった。兄は、死んだ後、何らかの形で“合図を送る”と彼女に約束したのだ。
兄が恋人と暮らしていた大きな館にひとりで残り、彼女は物音や影に神経を研ぎ澄ます。「ルイス、あなたなの?これが合図?」

出るならさっさと出ろ・・・館のシーンはホラー映画だ。

『パーソナル・ショッパー』クリステン・スチュアート

そのうちモーリーンは「私はあなたを知っている」に始まる不可解なSMSを受け取るようになる。送り主は彼女がどこにいるか知っていて、陰のようにつきまとう。放っておけばいいのに、「これもルイスと関係あるの?」彼女は返事せずにいられない。

オリヴィエ・アサイヤスの最新作『Personal Shopper 』

『パーソナル・ショッパー』クリステン・スチュアート

カメラはひたすらモーリーン(クリステン・スチュワート)を追い続ける。
ガランとして寒々しい(つまり幽霊が出るには理想的な)一軒家と、有名ブランドの華やかなショールーム。2つ世界を行ったり来たりしながら、喪失感、霊の存在への懸念、そして自分のアイデンティティも見失いそうになるモーリーン。

カンヌ映画祭で監督賞をとったものの、試写では拍手とブーイングに分かれたとか。
果たして、夫は「よくわからん」。私は好きだった。この作品の掴みどころのなさが、観る人に判断を委ねているような。それが、「信じているもの、世界は、すべて自分の頭の中?」という作品の問いかけに重なるような気がした。上手く言えないけど。
黒沢清の作品を思わせる、という批評もあった。

とにかく。『アクトレス~女たちの舞台~』でも絶賛されたクリステン・スチュワートがすごく上手い。強さと脆さがリアルに同居し、フォトジェニック。(私は)お奨めです。

Personal Shopper
オリヴィエ・アサイヤス監督作品
主演:クリステン・スチュアート
1時間50分
フランスで上映中


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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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