Category : 映画
深刻なギャンブル好きで借金で首が回らなかった父親が亡くなった。息子の良多(阿部寛)は同じ“病”を受け継いでいる:15年前に1冊小説を出したが後が続かず、探偵事務所に勤め、部下にお金を借りては競輪場に走り、妻には離婚され、ひとり息子の養育費も払えない。その息子に、かって賭け事に溺れる父親に失望した子供の自分が重なるのだ。

息子の真吾役、吉澤太陽君が自然で上手い。

海よりもまだ深く

良多の拠り所は母親の淑子(樹木希林)、あの父にしてこの子あり、と思いながらダメ息子をすっぽり受け入れる。
海よりもまだ深く・・・

海よりもまだ深く

良太と元妻・響子と息子が母親のアパートに来たとき嵐になる。母親は「こんな嵐の中、帰っちゃダメよ」と繰り返し、3人は渋々泊まっていくことに。でもそこに母親の画策を感じないではいられない・・・

『海よりもまだ深く』、フランスのタイトルは『Après la tempête/嵐のあと』
是枝さんの名前はハイフンが入る。入れないとKoreeda(コリーダ)になっちゃうから。

海よりもまだ深く
photos:allociné

『誰も知らない』『歩いても歩いても』『海岸diary』も家族の問題を扱った作品だけど、この作品はより私小説っぽい。「自分の父親のことを描きたかった」と是枝さんがどこかで話していた。観て後悔はしなかったけど、前の作品のほうが好き。ちょっと私小説すぎる気がした。
「一部のフランス映画に似てきた」と息子。
そうかも。クリスマスに家族が集まる、親が死んで子供たちが実家にやってくる、という時にそれまで水面下にあった秘密や感情が噴出する・・・よくあるテーマだ。フランス人は登場人物の誰かに感情移入できるんで飽きないで観ているけど。
「フランスでこの作品(『海よりもまだ深く』)に感情移入できるのは日本オタクだけじゃない?それに良多のダメ男ぶりがちょっとカリカチュアすぎる」
でも批評はかなり良かった。前作より“弱い”という批評はあったけど。

私の周囲で観たフランス人は口を揃えて「おばあちゃんがスゴイ」と言っていた。能天気に息子や孫が来たのを喜んでカレーを解凍したりしているけど、実はすべてお見通し。『歩いても歩いても』でも河瀬直美監督の『あん』でも彼女の存在感が後々まで印象に残った。
最近、日本映画批評家大賞でダイアモンド大賞を取られたことを読んだ。「あと1年」なんて言わないで!彼女が出る映画、もっともっと観たい人がフランスにもたくさんいますから。

『Après la tempête』
是枝裕和監督作品
主演:阿部寛、樹木希林、真木よう子、小林聡美
1時間58分
フランスで上映中

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お子様メニューが好きな新大統領

大統領に当選の翌日、TF1で放映された『Les coulisses d'une victoire/勝利の楽屋裏』(教えてくださった読者の方に感謝!)。
この裏に本当の楽屋裏がありそうだけど、面白くて熱心に見てしまった。
印象に残った場面は:
オランド大統領が再立候補を断念発表。それを聞いて「裏切者がいるとすればヴァルス(首相)だ」(そうなんだよね、ゆくゆくこの人の性格が暴かれる)

フランソワ・バイルー(中道Modem党首)がマクロン支持を表明。

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「共和国大統領というのは奇妙なものでね・・・君はその年齢にはなっていないけど、まあそれはいい。私がやろうとしてできなかったことを君がしようと言うなら、力になりたい」
感動的なシーン。

農業市で、生産者や報道陣に取り囲まれたマクロンに誰か(ルペン派!)が生卵を投げつけた。そのヴィデオを何回も見て笑い転げる。

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「スーツはどうなったの?」とブリジット(女の心配することは同じ)。

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第一回の候補者討論を終えて、「ふーっ!チョコレートかなんかない?」というマクロンに「だめよ、そんなもの食べちゃ」とブリジット。彼はフィヨンの足腰の強さにびっくり「3時間以上立ちっぱなしで脚がガクガクしてきた。フィヨンは微動だにしないんだ」

第一次投票の日。故郷のトゥーケで投票し、パリの選挙本部に戻る途中、ドライブインで昼食。Franch(学生時代に行ったセルフサービスのレストラン)が好きというマクロンは目を輝かせ、「あ、コルドンブルー(鶏むね肉の間にハム&チーズを挟んだカツレツ)がある!僕、好きなんだ」

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「それはお子様メニューです」
「・・・・」

90分のドキュメンタリーは、アグレッシブではないけど権威のあるマクロン、選挙本部のスタッフたちの結束、献身、そしてエマニュエル&ブリジットの強い繋がりが窺える。
マクロンは1時間もブリジットの姿が見えないと落ち着かなくなるそうで、ミーティングや討論の後、必ず彼女の意見を聞く。
選挙本部のスタッフが声を揃えて「よかった」と言っても、ブリジットに、
「ほんと?」
「2人だけの時に言うわよ、シェリ」
「ウィかノンだけ言って!」
「2人だけの時しか言わないって知ってるでしょ」

考えてみれば16歳の高校生と40歳の高校教師(既婚、子供3人)が結婚するまでの14年間-いくらフランスでも-家族と世間を敵に回しての戦いだったに違いない。
1年前に「大統領?不可能だ」と言われた彼が可能にしたのも、百戦錬磨のカップルだったからこそ、かもしれない。
次なる戦いは始まったばかり・・・


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決選投票を待ちつつお奨めの2本

レイラは弁護士、サルマはレストランで生活費を稼ぐDJ。イスラエル人の2人はテルアヴィヴで一緒にアパートを借りている。
バー、アルコール、タバコ・・・彼女たちにとってそれらは“自由”の象徴だ。
サルマの両親は、娘を結婚させようと次々と男性を紹介する。実は女性が好きなのをサルマは明かせないでいる。

そこに3人目の同居人、ヌール。2人よりずっと堅く、ヴェールを被り、大学で情報処理を勉強する。婚約者が来ると、慌てて酒瓶や灰皿を隠す。その婚約者は、この同居が“ヌールに悪い影響を与える”と非難し、学業をやめて早く“奥さん”になってほしいと言う。
3人3様に自分の将来を、自由の形を思い描いていた女たちは、違った形でつまずく。因襲的な親に、自分に都合よく宗教を利用する男たち、その偽善に・・・NYで仕事をしたというレイラの彼でさえ、彼女が人前でタバコを吸うのを嫌がるのだ。

パレスチナ女性、Maysaloun Hamoud/マイサルーン・ハムードの処女作品 『Je danserai si je veux/踊りたいなら踊るわ』。

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時代を変えよう、もっと自由にと戦う女たちは美しく、でも“踊りたいなら踊れる”まで道のりはまだ長いと感じさせる。

Ja danserai si je veux
マイサルーン・ハムード監督作品(仏・イスラエル・パレスチナ合作)
主演:ムーナ・ハワ、サナ・ジャムリー、シャデン・カンブーラ
1時間42分

こちらはスペイン映画:『la colère d’un homme patient/忍耐強い男の怒り』

colere dun homme patient affiche

誰も覚えていない8年前の宝石店強盗事件。捕まったのは運転手クーロだけだ。彼が刑を終えて出所してきた。妻のアナと息子と新しい人生をやり直そう・・・
彼の出所を待ち受けていた男がひとり、“復讐”を誓って、辛抱強く待っていたホセだ。

8年間の刑務所が“丸く”した元凶暴な男(右)と、復讐心に培われ凶暴になった男。

colere dun homme patient

どっちも憎むべきキャラだけど、どっちかの肩を持ちたくなる。スペインっぽいノワールさのスリラー。

La colère d'un homme patient
監督は俳優のラウール・アレヴァロ。
主演:アントニオ・デ・ラ・トーレ、ルイ・カレジョ、ルース・ディアス
1時間32分

どちらもパリで上映中。どちらもお奨め!

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80歳、まだ現役!

ピエールは、2年前に妻に先立たれてから引きこもりがち。ゴタゴタと散らかったアパルトマンで、いつも同じセーターを着て、在りし日の妻のヴィデオを観て過ごしている。
心配した娘シルヴィは、「これで少し外と繋がってよ」とパソコンを与え、若いアレックスを“教師”として送り込む。このアレックス、実はシルヴィの娘(つまりピエールの孫娘)の彼なのだ。

1 profil pour2

アレックスはピエールに、ネットのナビゲーションを教え、スカイプで家族と話ができるようにする。
はたしてピエールがハマったのは出会いサイト。若い女の写真を次々に見て、フローラという女性が特に気に入って、メールのやりとりが始まる。久々の胸騒ぎ。忘れていた感情を思い出すピエール。顔は輝き、セーターも着替える。

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一方フローラも、同世代の男は書かない文学的でロマンチックなメールに魅了され、会おうと提案してくる。
ピエール窮地!なぜなら彼は「プロフィル」の年齢を大幅にサバ読み、アレックスの写真を貼っていたのだ・・・

Un profil pour deux/二人でひとつのプロフィル

映画 『un profil pour deux』

軽いコメディ、ではあるけど、死ぬまで男(女も!)のフランス人の実態が窺え、何より82歳になるピエール・リシャールの圧倒的存在感。顔は年齢相応にシワシワでも、声や歩き方、いたずらっぽい青い眼は前と変わらず、ユーモラスでわがままで魅力的。十分“もう一花咲かせそう”だ。

そういえば義父も80歳近くで義母が亡くなったあと、しばらく落ち込んでいたけど、初恋の女性と再会して元気になった。それを見て息子たち(夫と義弟)は「おお、老後に希望の光!」と喜んだ(どういうこと?)その女性は既に未亡人で、義父がひとりになったのを知って彼女から連絡してきたというから、私も「おお、見習わなくちゃ」と思うべきか。

さてピエール・リシャール。日本では『みんなで一緒に暮らしたら』(2011)『幸せはシャンソニエ劇場から』(2008)などが最近の出演作だけど、フランスでは70年代に3枚目俳優として大人気だった。そして今は魅力的なオジイサン・・・

Un profil pour deux
ステファン・ロブラン監督作品
出演:ピエール・リシャール、ヤニス・レスペール、ファニー・ヴァレット
1時間40分
フランスで上映中


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エミリーは有能な人事課長。“殺し屋”と呼ばれるほど、感情を挟まない人事は上司から評価され、彼女も自分の能力に自信を持っていた。だから、部署を変えてほしいとつきまとう中年社員も、彼女は取り合わず一日伸ばしにしていた。

その社員が会社の窓から飛び降り自殺してしまう。社員は大きなショックを受け、労働監察局が事情聴取に来る。
「奥さんと別れ、鬱状態だった」会社は責任を回避したいが、
「職場で自殺している。メッセージは明らかです」と監察局。

社長(ランベール・ウィルソン)がエミリー(セリーヌ・サレット)を採用したのは、あまり有能でない中年過ぎの管理職の一部を“排除する”ためだ:解雇すれば会社にお金がかかるので、自ら辞めるように追いつめる。

映画『Corporate/コーポレート』

能力、採算性だけが問われる非人間的な世界で、その“掟”に従っていたエミリー。
いつも真っ白なシャツ-車の中でシャツを着替え、デオドラントをつける-男社会の中で完璧であろうとしたエミリー。

監察局の追及の矢面に立たされ、社内では孤立し、自分が追いつめられる番。会社を救うか、自分を救うか・・・
ニコラ・シロル監督の『Corporate/コーポレート』

映画『Corporate/コーポレート』
photos:allociné

セリーヌ・サレットがすごく上手い。この女優さん、若いころのシモーニュ・シニョレに似ている・・・と思ったのは私だけではなく、すでにELLEが比べていた。

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フランスでも(フランスでさえ)職場のストレスやバーンアウトが問題になり、大統領選立候補者たちが労働時間や環境の改善を公約に掲げている。でも日本の残業時間とは程遠い。
第一、残業上限100時間という線引きは「過労死ライン」から来ているから、裏返せば「死ぬまで働け」に等しい。

フランスの勤務時間は週44~48時間、つまり残業週9~13時間まで認められていた。
不況の折、今年1月から「例外的な状況のみ」週60時間が認められることに。でもDIECCTEと呼ばれる地域企業・消費・労働・雇用局と労働監査局が、本当に“例外的状況”かを審査して、許可を出した場合のみ。
フランスのことだから、許可が出るころには例外的状況が終わってそうだ・・・

Corporate
ニコラ・シロル/Nicolas Silhol監督作品
主演:セリーヌ・サレット、ランベール・ウィルソン
1時間35分
フランスで上映中

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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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