Category : 映画

モノクロのパリ、奇妙な三角関係

大学の廊下で出会う教授と女子学生。2人は事務的な感じで一緒に歩き、教授用トイレに入り、激しく愛し合う。彼50歳、彼女23歳。
「最初の哲学の講義で、あなたは『哲学は生活と対立するものではない』と言って、私を見たの。覚えてる?」
「いや」
「その時、あなたを好きになったの」

彼(エリック・カラヴァカ)と彼女(ルイーズ・シュヴィロット)

フィリップ・ガレル『一日の愛人』

ある晩、婚約者に追い出された彼の娘が目を泣きはらしてやってくる。

彼と娘(エステル・ガレル)

フィリップ・ガレル『一日の愛人』

父は慰め、泊まっていくように言う。テーブルの上に花柄のペンケースがあるのを見た娘、
「誰かいるの?」
「うん・・・」

翌朝、顔を合わせる彼女と娘。
「私たち同い年なの、イヤじゃない?」
「別に・・・いつから一緒にいるの?」
「3か月前から。あなたのお父さん口説くのに時間かかったんだから」
「あなたが口説いたの?」
「そうよ」
突然、2人の若い女と暮らすようになったオジサン教授。彼は、若い彼女との生活が続けばいいと願う。
彼女は、落ち込んでる娘に服を貸し、一緒に料理を作り、外に連れ出そうとする。連帯感もあれば嫉妬もある。彼が帰ってきて、まず娘にキスすると癇癪を起すのだ。

彼女と娘

フィリップ・ガレル『一日の愛人』

フィリップ・ガレルの『L'Amant d'un jour/一日の愛人』。
この監督は、いつも同じテーマ“愛”を、ごくシンプルに描いて-モノクロ、一人称、飾り気のないパリの日常、アパルトマン-どっぷり感情移入できて、後を引く。
ストーリーはすべて彼の経験から生まれているそうだけど(そんなに若い愛人がいた?)そぎ落とされ、「愛に苦しみは不可欠?」という普遍的な問いかけが浮かび上がる。

お父さんが名優のモーリス・ガレルで、13歳のとき最初の短編を撮った。息子のルイ・ガレル、娘のエステル・ガレル(この作品の娘役)も俳優で、映画と人生に境界がないみたいな人。ゴダールやロメールと比較される。
私はガレルのほうが好きかな。『ジェラシー』(2013)、『女の影』(2015)も、もう一度観たい。

ところで、この映画で男50歳-女23歳=27歳差で、誰も驚かないのに、逆(ブリジット-マクロン=24歳差)だと世界中が騒ぐのね。

L’Amant d’un jour

フィリップ・ガレル監督作品
主演:エリック・カラヴァカ、エステル・ガレル、ルイーズ・シュヴィロット
1時間17分
フランスで公開中

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フランソワ・オゾン 『ダブルの愛人』

クロエはずっとお腹が痛くて(お腹と言っても下腹。食べ過ぎてお腹が痛くてもフランス語はmal au ventreで同じ)婦人科に行くけど、何も異常はない。精神的なものでは?と言われて、精神分析家に会いに行く。
回を重ねるうち、分析家ポールはクロエに「職業倫理に反する感情を覚え(早い話、彼女が好きになった)これ以上続けていけない」と告白する。同じ感情を抱いていたクロエは喜ぶ。
数か月後、一緒に住み始めた2人。引っ越しの段ボールを開けていたクロエは、ポールのパスポートに別の姓が記されているのに気づく。 数日後には、いるはずのない場所でポールを見かけ、一緒に暮らしている男性に、秘密の部分があるのを疑い出す。

「何か隠してるでしょ」「そんなことないって・・・」
クロエ(マリーヌ・ヴァクト)とポール(ジェレミー・レニエ)

フランソワ・オゾン『L'Amant double/ダブルの愛人』

フランソワ・オゾンの最新作『L’Amant double/ダブルの愛人』。

フランソワ・オゾン『L'Amant double/ダブルの愛人』

この監督、毎年のようにカンヌのコンペティション作品に選ばれるのに、賞が取れない。でも彼ほど、毎回ガラリと違った作品を作る監督は珍しい。彼ひとりかも。
『Frantz/フランツ』(2016)の舞台は第一次大戦直後のドイツの村。婚約者フランツを戦争で亡くしたドイツ女性と、フランツと戦地で知り合ったというフランス男性の物語。
『彼は秘密の女ともだち』(2015)ではロマン・デュリスを女装させ、『17歳』(2014)は高校生売春のお話。
遡って『8人の女たち』(2002)は、殺人をきっかけに家族の秘密が次々に暴かれる心理劇をミュージカルコメディ(!)で。

この『L’Amant double』はジャンルで言えばエロティックサスペンス。クローネンバーグの『戦慄の絆』やポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』、ヒッチコックの作品の雰囲気もある。
とにかくクロエ役のマリーヌ・ヴァクトが綺麗、中性的な裸を惜しげもなく見せる。ジェレミー・レニエもカッコいい。背景も美しく、特に精神分析家の家の豪華さ(分析家が概してリッチだけど、ちょっとやりすぎで現実味がない)。
しかし。ジャクリーン・ビセットとの最後が、夫も私も「????」。帰って批評を見たけど、ネタがばれるのでどの批評も言及していない。
若いころのジャクリーヌ・ビセット。ミステリアスな雰囲気がマリン・バクトに似てない?

ジャクリーヌ・ビセット

信憑性には欠けるけど、俳優が魅力的&官能的でサスペンスがあるので、一見の価値あり。

チケットを買う時「“愛人”2人」と言ったら、横にいたマダムが「まあ!」と目を輝かせ、
「しかも『ダブルの愛人』だから計4人!」とうっとりした顔になった。

L’Amant Double
フランソワ・オゾン監督作品
主演:マリーヌ・ヴァクト、ジェレミー・レニエ、ジャクリーン・ビセット
1時間47分
フランスで上映中


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マニュキア指一本40ユーロ!

「私たちが服を着るのは脱ぐためだ。どんなドレスも、男性が脱がせたいと思わなければ意味がない」という名言はフランソワーズ・サガン。レッドカーペットを上るスターたちの、ますます露出度の高いドレスを見ていると、これじゃ脱がせる必要もないかと。

でも彼女たちのドレスージュエリーは貸出だけど-一度しか着ない訳でしょ。いくらしたのか知らないけど、もったいない・・・でも夢を売るスターたちはイメージが大切だ。ちょっとでもバストの垂れ下がりや整形の跡がわかったら、ソーシャルネットワークでこき下ろされることになる。だからヘアメイクにかけるお金も桁が違う。

カンヌなどの映画祭の場合、請求書はそのスターが出る映画を買った配給会社にいく(知らなかった)。
フランスの某配給会社は、2日間映画祭に顔を出す主演女優の“ヘア+メイク+スタイリスト+マニキュア”代として3万ユーロ(約380万円)請求された、という話を読んだ。マニュキア指一本40ユーロ!(指1本塗るのに2-3秒?3度塗りしたって10秒・・・)メイクは整形の回数が多くなるほど(隠すのに)時間がかかり、高くなる。

顔は変わらず、ポイントばっちり。誰がメイクしたの?マリオン・コティアール

カンヌ映画祭 ヘアメイク代
photo:aufeminin.com

これがアメリカのスターになるとまた桁が違う。お抱えのヘアデザイナー、メイク、ベビーシッターを連れてきて、自分のホテル(5つ星)に近い、つまり海岸沿いのホテル(3つ星)に泊まらせる。1週間の滞在で彼らは-ベビーシッター以外-9万ユーロ(約1134万円)近く稼ぐそうだ。ほんとかね・・・

ロレアル(カンヌの協賛社)のイメージスターで毎年来るエヴァ・ロンゴリア。彼女はメイクに最低2時間かかるそうだ。
でもなんか顔、変わってない?

カンヌ映画祭 ヘアメイク代
photo:GALA

アメリカの配給会社はお金がありそうだけど、こういうスターを何人か抱えていたら天文学的な額にならない?ま、払えるだけ稼いでいるならいいけど・・・
カンヌ映画祭は一度だけ行ったけど、別の惑星に着いた異星人の気分。1日目は昼も夜も招待され、2日目は夫も私も二日酔いであまり食べなかったのでお金がかからなかった。


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プレス評が良くて観客の評判が悪い時、どちらを信じるべきか?当然、後者だ。
アルノー・デプレシャンの最新作『les Fantômes d’Ismaël/イズマエルの幽霊たち』がその例。
それなのに、キャストがすごい(マチュー・アマルリック、マリオン・コティアール、シャルロット・ゲンズブール)、カンヌのオープニング作品・・・などのミーハーな好奇心に負け、観に行ってしまった。(第一、誘った人がみんな「アレ、つまんなそう」と乗ってこなかった。)
イズマエル(マチュー・アマルリック)は映画監督・脚本家。弟にインスピレーションを受けて、外交官イヴァン(ルイ・ガレル)の映画を撮っているところだ。徹夜、アルコール、タバコ、薬漬けの彼を支える彼女、シルヴィア(シャルロット・ゲンズブール)。
そこへ20年前に姿を消し、誰もが死んだと思っていた妻、カルロッタ(マリオン・コティヤール)が現れる。

「あなた、イズマエルのパートナー?」「・・・」「私は彼の妻よ」と、まるでお天気の話をするみたいに。

アルノー・デプレシャン『イズマエルの幽霊たち』

アルノー・デプレシャン『イズマエルの幽霊たち』

「自分が引き裂かれそうになったからいなくなったのよ」
「君は俺の人生を引き裂いた!」
「私にはあなたが必要なの」
「俺は必要じゃない!」
それでもシルヴィアは、イズマエルがカルロッタを忘れていなかったことを感じる。

・・・そこまではまぁいいんだけど、それに弟イヴァンの人生が平行して語られ、イズマエルが撮っている映画が挟み込まれ、過去・現在が何の断りもなく変わり訳が分からん。デプレシャンの混沌とした頭の中に投げ込まれたようで、一刻も早くここから抜け出したい(=早く映画館を出たい)と思うけど、左右に座っている人たちを踏み越えて出ていく勇気はなく、映画が終わるのを待つばかり。(第一、イズマエルもこの状況に正気を失い、撮影を中断して北フランス、ルーベの実家に逃げ込む。)

マチュー・アマルリックは正気と狂気の境目みたいな役が多いけど、ここではそのカリカチュア。そういえば朝市で隣にいたことがあったけど、服のまま寝たようなシワクチャのシャツとズボン、染ムラのある髪はボサボサで、映画で見るのと全く一緒だった。

どこか似ている(特にボサボサ頭)デプレシャンとアマルリック。トリュフォー&ジャン=ピエール・レオーみたいなデュオ。

アルノー・デプレシャン『イズマエルの幽霊たち』
photos:allociné

プレス評の中にも「躁鬱で、一貫性がなく繋ぎ合わせたような作品」(Nouvel obs)
「デプレシャンは、アヴァンチュール、愛、ノスタルジー、若いころの夢、過去の現在の対立・・・など、彼が執着するテーマを再び取り上げているが、要素がたくさんありすぎてついていけない」(Figaro scope)など全く同感の批評もある。
「マリオン・コティヤールでも救えなかった」とはイギリスのThe Guardian。

一方、絶賛しているプレスがあるんで平均点が上がっているんだけど、なぜ絶賛するんだろう?
自分(批評を書いた人)の頭の中も同じように混沌としていて感情移入できた?
サイコロジカルに入り組んだデプレッシャンの世界を評価しなかったらバカと思われるから?
映画が終わったとき、周囲のブツブツざわざわから、退屈したのは私だけじゃなかったのがわかった。
『キングス&クィーン』や『クリスマス・ストーリー』は良かったのに・・・

Les Fantômes d’Ismaël
アルノー・デプレッシャン監督作品
主演:マチュー・アマルリック、マリオン・コティヤール、シャルロット・ゲンズブール
1時間58分
フランスで公開中

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深刻なギャンブル好きで借金で首が回らなかった父親が亡くなった。息子の良多(阿部寛)は同じ“病”を受け継いでいる:15年前に1冊小説を出したが後が続かず、探偵事務所に勤め、部下にお金を借りては競輪場に走り、妻には離婚され、ひとり息子の養育費も払えない。その息子に、かって賭け事に溺れる父親に失望した子供の自分が重なるのだ。

息子の真吾役、吉澤太陽君が自然で上手い。

海よりもまだ深く

良多の拠り所は母親の淑子(樹木希林)、あの父にしてこの子あり、と思いながらダメ息子をすっぽり受け入れる。
海よりもまだ深く・・・

海よりもまだ深く

良太と元妻・響子と息子が母親のアパートに来たとき嵐になる。母親は「こんな嵐の中、帰っちゃダメよ」と繰り返し、3人は渋々泊まっていくことに。でもそこに母親の画策を感じないではいられない・・・

『海よりもまだ深く』、フランスのタイトルは『Après la tempête/嵐のあと』
是枝さんの名前はハイフンが入る。入れないとKoreeda(コリーダ)になっちゃうから。

海よりもまだ深く
photos:allociné

『誰も知らない』『歩いても歩いても』『海岸diary』も家族の問題を扱った作品だけど、この作品はより私小説っぽい。「自分の父親のことを描きたかった」と是枝さんがどこかで話していた。観て後悔はしなかったけど、前の作品のほうが好き。ちょっと私小説すぎる気がした。
「一部のフランス映画に似てきた」と息子。
そうかも。クリスマスに家族が集まる、親が死んで子供たちが実家にやってくる、という時にそれまで水面下にあった秘密や感情が噴出する・・・よくあるテーマだ。フランス人は登場人物の誰かに感情移入できるんで飽きないで観ているけど。
「フランスでこの作品(『海よりもまだ深く』)に感情移入できるのは日本オタクだけじゃない?それに良多のダメ男ぶりがちょっとカリカチュアすぎる」
でも批評はかなり良かった。前作より“弱い”という批評はあったけど。

私の周囲で観たフランス人は口を揃えて「おばあちゃんがスゴイ」と言っていた。能天気に息子や孫が来たのを喜んでカレーを解凍したりしているけど、実はすべてお見通し。『歩いても歩いても』でも河瀬直美監督の『あん』でも彼女の存在感が後々まで印象に残った。
最近、日本映画批評家大賞でダイアモンド大賞を取られたことを読んだ。「あと1年」なんて言わないで!彼女が出る映画、もっともっと観たい人がフランスにもたくさんいますから。

『Après la tempête』
是枝裕和監督作品
主演:阿部寛、樹木希林、真木よう子、小林聡美
1時間58分
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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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