Category : 映画

人生の最後を歩き続ける人

朝起きるとまずタバコに火をつける。身体を拭き髭をそり、残り少ない髪をとかし、柔軟体操(に見えるけど自称ヨガ)をする。
ラッキーの一日の始まり。冷蔵庫には牛乳パックだけ。クローゼットには同じチェックのシャツが3枚。
着替えてブーツを履き、カーボーイハハットを被り、行きつけのコーヒーショップに行きクロスワードパズルをする。
砂漠の中にある小さな町。ひとりで暮らし、町を徘徊し、骨と皮に痩せ、タバコを止めない90歳のラッキーを、住民はみんな知っている。
ある朝“ヨガ”の途中で眩暈を起こしラッキーは倒れる。
「どこも折れていないし、心臓もしっかりしている。タバコは?」とお医者。
「一日ひと箱。毎朝ヨガをして、たくさん歩く」
「今さらタバコを止めろとは言わん。止めるほうが身体に悪い」
「じゃなぜ倒れたんだ?」
「年だよ、年取ったことを認めなくちゃ」
「・・・・」
「孤独は良くない。家政婦さんを頼んだらどうだ?」
お医者の言葉をラッキーは笑い飛ばす。
「ひとりでいるのと、孤独を感じるのは別のことだ。わたしはひとりがいい」

頑固だけど、人嫌いではない。好奇心もある。スーパーのオバサンが息子の誕生パーティに誘うと出かけていくし、日が暮れるとバーに行き、ブラディメアリーをちびちびと飲む。

唯一の友人だった陸ガメが逃げ出して落ち込む紳士は、デヴィッド・リンチ!

映画『Lucky/ラッキー』

第二次大戦中、海軍にいたラッキーは、元海軍の人に出会うと思い出話。ハリー・ディーン・スタントンも海軍にいた。

映画『Lucky/ラッキー』

9月に亡くなったハリー・ディーン・スタントンの最後の作品『Lucky/ラッキー』

映画『Lucky/ラッキー』

何も起こらない、シナリオがないじゃん、と思ったけど、間もなく気づいた:シナリオはラッキー、いやスタントン自身。
欲望がそぎ落とされたような表情には、戻って来ない日々へのノスタルジーや、明日への恐怖、自分との和解・・・が横切り、ときに深く陰り、ときに穏やかで、たまに笑顔になると限りなく優しい。
『パリ テキサス』で一番印象に残っているのは、彼が歩き続ける冒頭のシーンだ。

30年後、彼自身の人生に重なるこの作品は遺書のようだ。

Lucky
監督:ジョン=キャロル・リンチ
主演:ハリー・ディーン・スタントン、デヴィッド・リンチ、ロン・リヴィングストン
1時間28分
フランスで公開中

ランキングに参加しています。クリックしていただけたら嬉しいです。
にほんブログ村 海外生活ブログ フランス情報へ

にほんブログ村 海外生活ブログへ
にほんブログ村




冒頭の会話、妻に髪を切ってもらいながら、ネチネチと文句を言う夫。エゴで意地悪でサイテーのヤツ!
私だったら-しかもハサミを持ってるんだから-脳天の髪を一束バッサリ切っていただろう。なのに、妻は同じレベルで言い返すことなく、寛容にかわす。彼女に代わって、私は暗闇で腹を立てていた。
でもこの冒頭シーンは上手い。ほんの数分の会話がこの2人のキャラを見事に浮かび上がらせる。夫が売れっ子の作家、衣笠幸夫であることも。

夜行バスで友人とどこかに行く妻が出ていくのを待ちかねるようにして、夫は愛人を呼び寄せる。ホットな夜を過ごし、翌朝の電話で妻を乗せたバスが崖から転落したことを知らされる。
妻の死に涙も流せない幸夫は、同じバスに乗っていた妻の友人の夫、道夫と知り合う。彼は2人の子供と残され、幸男とは正反対に悲嘆に暮れていた。幸夫は週に2日、長男が塾に行っている間、妹の子守を申し出る。

『永い言い訳』フランスで公開

幸夫がリッチな生活をしていて、道夫が長距離トラックの運転手、という対称が、是枝監督の『そして父になる』を思い出させるけど、幸夫は父にはならず、自分がいかにダメな人間であったかを思い知っていく。

フランスでのタイトルはそのまま英語で『The Long Excuse』

『永い言い訳』フランスで公開


幸夫役の本木雅弘が繊細な演技で上手いのにびっくり(最近、日本映画の俳優の名前を殆ど知らないけど、さすがにモッくんは知っていた。)しっかり者で反抗期にさしかかっている長男、小さいのに頭の回転が早い妹、子役の2人も自然で上手い。

フランスで日本映画ファンは多く(小津、溝口、黒沢で止まっている人もいるけど)、ル・モンドやテレラマでいい批評が載るのに、この秀作がイマイチなのは不思議。第一、パリで2館しか上映していないし、私たちが観に行ったボブールのMK2は小さな上映室だった。
テレラマの批評は4段階評価:『情熱的に好き』『すごく好き』『少し好き』『好きじゃない』の下から2番目。
「主人公のスーパーベビーシッターぶりが、ハリウッド映画が贖罪を描くレシピに似ている」(そんなことない。でも“人気作家の嫌なヤツ”と“子供もなつくベビーシッターオジサン”の落差がちょっと激しい気はした)
「単なるメロドラマになるところを俳優たち(子役も)のデリケートな演技が救っている」
近親の死に直面した4人の、それぞれ違う立ち向かい方。決して“単なるメロ”なんかじゃないのに!
残念ながら長くはかかっていないかも。在住者の方、お早めに。

The Long Excuse

西川美和原作・監督作品
主演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、深津絵里
2時間4分
フランスで上映中


ランキングに参加しています。クリックしていただけたら嬉しいです。
にほんブログ村 海外生活ブログ フランス情報へ

にほんブログ村 海外生活ブログへ
にほんブログ村




女ばかりの世界にひとりの男

1852年、ルイ・ナポレオン(ナポレオンⅢ)のクーデターで、村の男たちは一斉逮捕され強制収容所に送られててしまった。残った女たちは、いつか夫や兄弟が戻ってくるのを夢見ながら、きつい畑作業を分担して生活していた。

仏映画『le semeur/種を蒔く人』

こうして2年が経つ。女たちの顔には疲れと欲求不満が隠せない。
適齢期の女子たちは「もし見知らぬ男が村にやってきたらどうしよう?」と相談し始める。その結果、「みんなで共有する。その男が一人と寝たかったら、あとの全員とも寝る。選択の余地は与えない」という協定ができた(セクハラ男性版?)

そこへ、見知らぬ男が通りかかる。久しぶりに見る異性の姿に、女たちは思わず仕事の手を止める。
男はヴィオレットに声をかける。「どこか泊まるところはないだろうか?」
彼女が一番近くにいたからだけど、彼女が一番可愛かったのも確か。村で読み書きができるのもヴィオレットだけだ。

男は村に居ついて畑仕事を手伝うようになった。毎日食事を運ぶヴィオレットと本を貸し合い、当然2人は接近していく・・・

仏映画『le semeur/種を蒔く人』

「あんた、寝たでしょ?」という視線・・・

仏映画『le semeur/種を蒔く人』

マリーヌ・フランセンの初長編『Le Semeur/種を蒔く人』二重の意味を持つタイトル!

仏映画『le semeur/種を蒔く人』
photos:allociné

女だけの(ヒステリックな)世界に男がひとり放り込まれる・・・1971年のドン・シーゲルの作品『白い肌の異常な夜』(原題は『Beguiled/魅せられて』なのに日本語タイトルはダイレクト!)、負傷した兵士(若きクリント・イーストウッド)が女学院の教師と生徒たちに介抱される話が有名だ。ソフィア・コッポラが『ビガイルド 欲望のめざめ』(2017)でリメイクした。

この『Le Semeur/種を蒔く人』で、農婦たちは寡黙で、嫉妬や羨望は表情や視線が語る。それでも欲望の強さは伝わってくる。クラシックな作りで『ビガイルド』の農村ヴァージョンにならず、ご覧のように映像が綺麗で19世紀のタブローのようだ。
主人公のヴィオレット(ポーリーヌ・ビュルレ)の真摯な大胆さもいい。

Le Semeur
監督:マリーヌ・フランセン
主演:ポーリーヌ・ビュルレ、アルバン・ルノアール、ジェラルディン・ペラス
1時間40分
フランスで上映中

ランキングに参加しています。クリックしていただけたら嬉しいです。
にほんブログ村 海外生活ブログ フランス情報へ

にほんブログ村 海外生活ブログへ
にほんブログ村








声の出ない週末も悪くない

週末、私はテレビの前に寝そべってCanal+ à la demande(オンデマンド)で映画を観続けた。
Canal+ à la demandeはCanal+でかかった映画だけでなく、古い映画、Arteでかかった映画もリストに加わり、選択肢が多い。

ジャン=ピエール・メルヴィルの『Un Flic/リスボン特急』(1972)はこれで3回目?メルヴィル(『Le Cercle Rouge/仁義』(1970)『Le Samourai/サムライ』(1967)・・・)は何回観てもいい。
シモン(リチャード・クレンナ、写真の真ん中)はナイトクラブのオーナー兼ギャング。ある組織が大量の麻薬をリスボン行き特急で運び出そうとしているという情報を得て、横取りしようとする。

一方腕利きの刑事コールマン(アラン・ドロン)も同じ情報を得て、リスボン特急を追いかける。
コールマンとシモンはかっての戦友で、シモンの愛人カティ(カトリーヌ・ドヌーヴ)はコールマンともできていた。
つまりみなさん、2つの顔を持っていた。

メルヴィルの映画は男たちが美しく、恐ろしくお洒落だ。
銀行強盗をする男たちのトレンチの着方、寝台特急の中のシモンのガウン姿なんて「モードのビデオクリップか?」と言いたくなる。

真ん中がシモン

メルヴィル『リスボン特急』

ドロンもカッコいいけど、この人は「俺は美しい」が顔に出ていて、 メルヴィルの撮り方がナルシズムをさらに助長する、という気がする。
彼が部下の刑事と乗り回している車に本署から電話がかかると、
「わかった。すぐに向かう。その後電話する」と無表情な顔で判を押したような答え。カッコつけすぎ。部下の刑事は電話を渡すだけの役で気の毒になる。

メルヴィル『リスボン特急』

そしてカトリーヌ・ドヌーヴが絶頂の美しさ。今、彼女がこの作品を観たら落ち込むだろう。

メルヴィル『リスボン特急』
photos:allociné

私がテレビを観ていると、必ず猫たちが寄ってくる。タマは私の上に寝て(6㎏が乗るとかなり重い)、リュリュは・・・

リュリュ

これ、字幕のときやられると困る。
他の映画で、ブノア・マジメルにも関心を示していた。リュリュは男の子なんだけどね・・・

リュリュ

週末アングレームから帰ってきた娘がお風呂場から叫んでいる。
「ファンデーションがなくて、授業に行くのやめようかと思った。目のクマが目立つのよ」
どう見たって、誰が見たって、クマなんかないのだ。”大クマ”のある私は「よく生きている」と思われているだろう。
「あ、コーダリーのFrench KIss、なかなかいい色じゃん」
「・・・・」
「持って行っていい?」
「・・・・」
私は返事をしない。声が出ないのもいいもんだ。


ランキングに参加しています。クリックしていただけたら嬉しいです。
にほんブログ村 海外生活ブログ フランス情報へ

にほんブログ村 海外生活ブログへ
にほんブログ村



風邪薬は映画!

朝起きると声が出なくなっていた。出そうと思えば出るんだけど、娘が、
「ギャーッ!すごいヘビースモーカーのオバアサンみたいな声」とケラケラ笑う。笑ってる場合だろうが。

前の晩、寒気がして気分が悪かったけど、いきなり声が出なくなるとは。週末に病気になるなんてまことにツイていない。
夫は出張でマラケシュに行っていて、「週末来たら?」と言われていたけど、帰りの飛行機が目から火が出るほど高くて諦めた。

友達と会う約束を断り、でも熱もないし寝込むほどじゃないし、こういう時は映画!
厚着をして、歩いて5分の映画館に赴き、ギリシャ人監督ヨルゴス・ランティモスの『Mise à Mort du Cerf Sacré/神聖な鹿の殺人』(原題『The Killing of a Sacred Deer 』

ヨルゴス・ランティモス『The Killing of a Sacred Deer』

スティーヴン(コリン・ファレル)は腕利きの外科医、眼科医の妻(ニコール・キッドマン)、2人の子供と大きな家に暮らしている。
裕福で幸せそうなブルジョア家族、なんだけど家庭には人間味がなくて会話もマニュアルっぽい。会話だけでなく、夜ベッドに入る時、妻は夫に「全身麻酔?」と尋ね、セックスの間“昏睡状態”を演じるのだ。

彼らのマニュアル生活に15歳のマーティンが登場する。彼の父親はスティーヴン執刀中に死亡した。

ヨルゴス・ランティモス『The Killing of a Sacred Deer』

同情を感じたスティーヴンは、プレゼントをあげたり、家に招待する。マーティンは家や病院に出没しだし、ますます“愛情”を要求し、それは脅しに変わっていく。
目には目を・・・

アメリカの家族にギリシャ悲劇を持ってきた。なぜかカンヌ映画祭でシナリオ賞を取ったけど、ギリシャ悲劇と現実に起こることがかみ合わなく、ストーリーに入り込めない。それを救おうとするのが主役の2人:有能な医師、良き夫、良き父という“殻”から、背徳的な地肌を垣間見せるコリン・ファレル。自分も不安だけど、人も不安にするのが上手く、何考えているのかわからないニコール・キッドマン。

ヨルゴス・ランティモス『The Killing of a Sacred Deer』
photos: allociné

帰って娘に「なんか後味の悪い映画だった」というと、
「ビョーキの時観たからよ。『ロブスター』はよかったのに」
子孫を残すことが義務付けられた近未来。45日以内に配偶者を見つけなければ動物に姿を変えられてしまう・・・という『ロブスター』は発想がオリジナルで、ユーモアもあった。
ヨルゴスさん、模索中?

Mise à mort du Cerf Sacré
ヨルゴス・ランティモス監督作品
主演:コリン・ファレル、ニコール・キッドマン、バリー・コーガン
2時間01分
フランスで上映中

ランキングに参加しています。クリックしていただけたら嬉しいです。
にほんブログ村 海外生活ブログ フランス情報へ

にほんブログ村 海外生活ブログへ
にほんブログ村



プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

カレンダー
01 | 2018/02 | 03
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 - - -
最近の記事
カテゴリー
おすすめ書籍
RSSフィード
おすすめコスメ
フランスに行くなら
プロヴァンスの田舎町をまわる1日
アーカイブ