Category : 映画

日本より一足先に『Oh Lucy !』

会社とアパートの往復、孤独で味気ない生活を送っている節子は40代半ば。ある日、姪の美花に頼み事をされる:個人英会話学校に登録したけど行けなくなってしまった。払い戻しは不可能だけど、人が代わるのはOKなんで、代わりに払って行ってくれない?
「いくら?」
「60万 」
「ろくじゅうまん ?!」

母親とはうまくいかず、節子になついている美佳。可愛い姪の頼みは断れない。
節子は会社の帰りにその個人英会話学校に赴いた。学校にしてはいかがわしい雰囲気、並んだ個室のひとつに入ると、ジョンという教師が待っていた。“アメリカ人になりきるため”節子はブロンドのカツラをかぶせられ、名前はルシー。授業はハグから始まった。

『Oh Lucy!』

この体験は、閉じていた節子の心を目覚めさせる。
2回目の授業に行くと、ジョンは急に辞めたと告げられる。ショック。さらにショックはジョンと美佳はできていて、2人で西海岸に発ったところだった。
節子は2人を追いかけてアメリカに行くことを決める。姉(美佳の母)が自分も行くと言い出し、犬猿の仲の姉妹の珍道中が始まる。ひとりは娘を探しに、もうひとりは“目覚めた心”を見極めようと・・・

価値観の違う2人は悉くぶつかり合う。

『Oh Lucy!』

サンフランシスコ在住の平柳敦子監督の『Oh Lucy !』
2017年カンヌの国際批評家週間に選出され、グランプリにノミネートまで行った。

『Oh Lucy!』
photos:allociné

日本より一足先に1月31日にフランスで公開。批評もなかなかで「2つのカルチャーのズレを描き、ソフィア・コッポラの『Lost in Translation』を彷彿させる」
そうかも・・・私には彷彿としなかったけど。何より、テーマがオリジナル:真面目で地味なOLが閉じ込めていた感情が、ひょんなことから“蓋”に穴が開いてどっと溢れ出す。溢れ方は四方八方、ナイーヴでダイレクトで、観ている方がハラハラする。
強そうで、同時に脆く、無鉄砲で内気・・・節子に共感し、自分を投影する女性は多いだろうと。寺島しのぶが上手いってことだ。ジョン役のジョッシュ・ハートネットもいい。

批評のひとつに「閉鎖的で無慈悲な日本社会の横顔」。うーん、たしかに。女も男も、もっと自由に感情を吐露したら、激しい爆発にならないのでは。
封切りの週、カンヌ映画祭まで行ったのに上映館が少ない、と文句を言っていたら、2週目に上映館が倍に増えた。よしよし・・・

Oh Lucy !
監督:平柳敦子
主演:寺島しのぶ、南果歩、忽那汐里、ジョッシュ・ハートネット、役所広司
日米合作
1時間35分
フランスで上映中

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お姫さま交換

1715年、ルイ14世の死により、オルレアン公フィリップは、当時5歳のルイ15世の摂政になった。
1721年、野心家の彼は大胆な企みをする:ルイ15世(11歳)は間もなく実権のある王になる。スぺインの姫と結婚させて、長年戦争をしたスペインとの和平を回復し、戦いで疲弊した両国を盛り上げよう。その代わり、自分の娘をスペインに嫁がせよう。すなわち姫の取り換えっこ。

オルレアン公(オリヴィエ・グルメ)。カツラが似合ってない。

『l'Echange des Princesse/お姫様の交換』

オルレアン公は、娘のルイーズ=エリザベス(15歳)をスペイン国王の後継者と結婚させ、ルイ15世はスペインの親王アンナ=マリア=ヴィクトリアと結婚させる。しかし親王は・・・4歳だった。
幼い姫たちは、この強制結婚をどう生きるだろうか?

あまり知られていない歴史の一コマにスポットを当てた『L’Echange des Princesses/お姫様の交換』
ベストセラー作家のマルク・デュガンがシャンタル・トマ(デザイナーではなくて作家の)の原作を映画化。

『l'Echange des Princesse/お姫様の交換』

映像や衣装-特に2人の姫の交換劇-がタブローのように美しい。
見かけの美しさとは裏腹に、権力者の犠牲になる姫たち。結婚が成立すると、すぐから「早く妊娠して男の子を産め」。

反抗的なルイーズ=エリザベス、スペイン国王の息子ドン・ルイに「触られるのもイヤッ」

『l'Echange des Princesse/お姫様の交換』

一方、4歳の姫はぬいぐるみを抱いて寝ている。側近たちが額を突き合わせて「いかんせん骨盤がまだ狭くて」

『l'Echange des Princesse/お姫様の交換』

あんたらマジ ?!
セクハラ、小児愛が糾弾される今日では、信じられない世界。

ルイ15世は当時の人としては長生きで、5歳から64歳で亡くなるまで国王の座についていた。ヴェルサイユで生まれ亡くなった唯一の国王だ。
11歳の子供に側近のオジサンたちがお伺いを立てるのが可笑しいけど、すでにカリスマがある。18世紀半ばの男子平均寿命が25歳に達していなかったことを考えると、今よりずっと成熟が早かったはず。
右後ろの召使は奥方のお人形を持っている!

『l'Echange des Princesses/お姫様の交換』
photos:allociné

とにかく子役が上手い。特に4歳のアンナ=マリア=ヴィクトリア演じる子は姫になりきっている。

歴史物があまり好きじゃない私にも面白かった。この時代に生まれなくてよかった・・・

L’Echange des Princesses
監督/シナリオ:マルク・デュガン
主演:ランベール・ウィルソン、オリヴィエ・グルメ、アンナ=マリア・ヴァルトロミー他
1時間40分
フランスで上映中


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老婆の泣き笑い

山東省の田舎に一人暮らしているマダム・リンは元農婦。歩くのは杖が必要だけど、頭ははっきりしていて人の手を借りず質素な生活を送っている。
ある日、彼女が転んだら-大した転倒じゃなかったのに-6人の子供たちは母親をホスピスに入れる相談を始める。転ぶたびに誰か呼ばれるんじゃやってらんない、と。
「私はまだひとりでやっていける。このままがいい」とマダム・リンは抗議するが、無視される。
「もう前金を払ってあるんだ」
「じゃ、ホスピスのベッドが空くまで、あなたたちの家を順々に泊まり歩く」
母親の希望を子供たちは渋々受け入れる。

でも行く先々で彼女は邪魔者扱いされる。「場所がない」「薬代がかかる」「ただでさえ忙しいのに」
商店をやっている子供は「老婆が店の奥に座っていると印象がよくない」と聞こえよがしにいう。

映画『le rire de Madame Lin/マダム・リンの笑い』

孫たちとの場面は少しほっとする。孫娘は洗面器でおばあちゃんの髪を洗いながら(でも最後までお湯を変えない)話しかける。おばあちゃんは口数が少ないけど、その言葉は適切で、誰の悪口も言わない。

映画『le rire de Madame Lin/マダム・リンの笑い』

マダム・リンは頭を床にこすりつけてお祈りをする。願うのは子供たちの幸せだけなのに、その子供たちに、自分が歓迎されていないことを日に日に感じる。ますますしゃべらなくなり、その代わり神経質な笑いが始まる。最初は泣いているのかと思うような笑いで、止まらなくなる。不気味に感じた家族がお医者に連れていくと、老人性の神経的な笑いと言われる。その笑いのお陰で彼女はますます疎ましがられるようになる。

Zhang Taoの『マダム・リンの笑い』。中国語タイトルは『喜喪』

映画『le rire de Madame Lin/マダム・リンの笑い』
photos: allociné

いつかは誰もが直面する“老い”、現代の姥捨て山を描くのは若い監督で、これが最初の長編。
子供たちの意地悪さが、ちょっと露骨すぎと思わないでもないけど、現実なのかもしれない。それだけにマダム・リンの沈黙、後姿、視線、そして病的な笑い・・・が彼女の心情を、募っていく絶望を雄弁に伝える。
演じるのは全部シロウトで、それだけにドキュメンタリー風で、中国の田舎の生活も伺える。

観たあとに残るのは、家族の中で一番品格があり、名前の通り、凛としているマダム・リンの姿だ。

余談ですけど、この神経的な笑い、決して年寄りだけじゃない。義父の埋葬式のとき、緊張していた娘と甥が笑いだし、止まらなくなって困った。

Le rire de Madame Lin
監督:Zhang Tao
1時間22分
フランスで公開中

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作品より舞台裏のほうが話題になった

1973年。ローマの街をふらついていたポールは覆面の男たちに誘拐される。
ポールは世界一、いや世界史上一富豪のジョン・ゲティの孫息子。誘拐犯たちは1700万ドルの身代金を要求してくる。
ジョンは身代金を払おうとしない。一番可愛がっている孫の命でも、財産の一部を差し出すには十分な理由ではない、と。
ポールの母-ジョン・ゲティの義娘-ゲイル(ミッシェル・ウィリアムズ)は自分の耳が信じられない。何としてでも身代金を用意しなければ。でもどうやって?離婚した夫-ジョン・ゲティの息子-はドラッグ中毒で使い物にならない。
ゲティの警備を担当しているフレッチャー・チェイス(マーク・ウォールバーク)に助けられ、ゲイルは誘拐犯と身代金の値下げ交渉をする。
そのうちポールの耳が送り付けられてきた・・・

リドリー・スコット『All money in the world』

誘拐犯のひとりがロマン・デュリスに似てると思ったら、ロマン・デュリスだった。右が富豪の孫、ポール(プラマー)

リドリー・スコット『All money in the world』


実話に基づいたリドリー・スコットの『Tout l’argent du monde/All money in the world』

リドリー・スコット『All money in the world』

ジョン・ゲティ役、ケヴィン・スペイシーのスキャンダルのおかげで前評判になった:公開を6週間後に控えた10月末日にケヴィン・スペイシーの性的暴行事件が発覚。スペイシーが謝罪を“私はゲイだ”宣言にすり替えたことで更に批難を浴び、被害者たちが次々に口を開き、彼がセクハラ常習犯だったことが明るみに出た。
11月初め、リドリー・スコットとプロデューサーはケヴィン・スペイシーが現れるシーンを、クリストファー・プラマーで撮りなおすことに決める。
ハーヴェイ・ワインスタイン事件以来、セクハラ告発が相次いでいる。スぺイシーが出たら作品はボイコットされかねない。このスキャンダルを下げてレッドカーペットを歩くことはできない・・・
既に4000万ドルかかった製作費にさらに1000万ドル追加、徹夜の撮影で、22シーンを撮りなおす。そして監督もプロデューサーも、ケヴィン・スペイシーに作品から“消された”ことを知らせなかったのだ。ハリウッドの過酷な制裁。

さて作品自体。お金は怖い、人間を中毒状態にして不幸にする。と実感する。成功と富に取りつかれ、家族よりお金が大切、という歪んだ価値観。
「どれだけお金があれば安心するんですか?」というフレッチャー・チェイスの問いに、ゲティの答えは「もっと」
世界中のお金すべて・・・

リドリー・スコット『All money in the world』

ケヴィン・スペイシーが堕ちたのは当然で、差し替えたのは正しい判断と思うけど、お金中毒の怪物ゲティは彼が適役だった。

こういう老け顔になっていた。

リドリー・スコット『All money in the world』

Tout l’argent du monde
監督:リドリー・スコット
主演:マーク・ウォールバーク、ミッシェル・ウィリアムズ、クリストファー・プラマー
2時間15分
フランスで上映中

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人生の最後を歩き続ける人

朝起きるとまずタバコに火をつける。身体を拭き髭をそり、残り少ない髪をとかし、柔軟体操(に見えるけど自称ヨガ)をする。
ラッキーの一日の始まり。冷蔵庫には牛乳パックだけ。クローゼットには同じチェックのシャツが3枚。
着替えてブーツを履き、カーボーイハハットを被り、行きつけのコーヒーショップに行きクロスワードパズルをする。
砂漠の中にある小さな町。ひとりで暮らし、町を徘徊し、骨と皮に痩せ、タバコを止めない90歳のラッキーを、住民はみんな知っている。
ある朝“ヨガ”の途中で眩暈を起こしラッキーは倒れる。
「どこも折れていないし、心臓もしっかりしている。タバコは?」とお医者。
「一日ひと箱。毎朝ヨガをして、たくさん歩く」
「今さらタバコを止めろとは言わん。止めるほうが身体に悪い」
「じゃなぜ倒れたんだ?」
「年だよ、年取ったことを認めなくちゃ」
「・・・・」
「孤独は良くない。家政婦さんを頼んだらどうだ?」
お医者の言葉をラッキーは笑い飛ばす。
「ひとりでいるのと、孤独を感じるのは別のことだ。わたしはひとりがいい」

頑固だけど、人嫌いではない。好奇心もある。スーパーのオバサンが息子の誕生パーティに誘うと出かけていくし、日が暮れるとバーに行き、ブラディメアリーをちびちびと飲む。

唯一の友人だった陸ガメが逃げ出して落ち込む紳士は、デヴィッド・リンチ!

映画『Lucky/ラッキー』

第二次大戦中、海軍にいたラッキーは、元海軍の人に出会うと思い出話。ハリー・ディーン・スタントンも海軍にいた。

映画『Lucky/ラッキー』

9月に亡くなったハリー・ディーン・スタントンの最後の作品『Lucky/ラッキー』

映画『Lucky/ラッキー』

何も起こらない、シナリオがないじゃん、と思ったけど、間もなく気づいた:シナリオはラッキー、いやスタントン自身。
欲望がそぎ落とされたような表情には、戻って来ない日々へのノスタルジーや、明日への恐怖、自分との和解・・・が横切り、ときに深く陰り、ときに穏やかで、たまに笑顔になると限りなく優しい。
『パリ テキサス』で一番印象に残っているのは、彼が歩き続ける冒頭のシーンだ。

30年後、彼自身の人生に重なるこの作品は遺書のようだ。

Lucky
監督:ジョン=キャロル・リンチ
主演:ハリー・ディーン・スタントン、デヴィッド・リンチ、ロン・リヴィングストン
1時間28分
フランスで公開中

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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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