Category : パリ雑記

白い花束と黒い壊し屋

毎年5月1日、駅前や街頭に現れるスズラン売り。

スズラン売り
photo:Charente Libre

“谷間の百合”、日本では“君影草”という詩的な別名がある可憐な花を贈り合うのは、スズラン振興会(そんなものがあればの話)が考え出したものではなく中世から続く伝統。
ケルトにはこの花が“幸運をもたらす”という言い伝えがあり、1561年5月1日にスズランを贈られたシャルル9世は、宮廷の女性全員に贈ることを決めた。
この習慣が一般的になるのは1900年。当時の有名なクチュリエたちがお針子全員にスズランを贈ったのがきっかけ。

さて歴史のお勉強はこのくらいにして、5月1日は労働者の祝日だから恒例のデモが行われた。
夕方、映画を観に行こうと夫と外に出たら、バスティーユ広場には“祭りの後”の雰囲気が漂い(デモの出発点だったので、デモ隊はとっくにイタリー広場に着いていた)、スズラン売りはまだたくさん出ていた。
「買ってよ」と夫に言い、小さな花束を取ろうとしたとき、黒づくめの男たちが20人くらい、私たちのほうに走ってきた。覆面をしている人もいてアグレッシヴな雰囲気、思わずよける。
「壊し屋だ」と夫。デモや占拠の抗議集会がある度に、お店のウィドウや銀行の窓ガラスを壊すプロの壊し屋でBlack Bloc/ブラック・ブロックと呼ばれている。そこへ今度は憲兵のトラックが何台も到着し、黒い群れを追っかけて行った。

夜のニュースによるとBlack Blocの数は1200人あまり、その約1割が逮捕された。オステルリッツ駅そばのマクドナルドやカフェが滅茶滅茶に壊された。

メーデーデモ、壊し屋
photo:Slate

極右マリーヌ・ルペンは「壊し屋は極左派」という声明を出し、急進左派ジャン=リュック・メランションは「あれは極右だ」
子供の喧嘩みたい。
ブラック・ブロックは1980年代ドイツで生まれた反政府、反キャピタリズムのアナーキスト団体、極左派とも極右派ともイデオロギーを共有しない。逮捕者の中にはドイツから出張してきている人もいた。彼らは、マルチナショナル企業や銀行などキャピタリズムの建物を選んで壊し、小さな小売店は(なるべく)触らない。

あまりニュースで繰り返すので、翌日通ってみたら・・・ガラスを全部壊されたマクドナルド(左)は既に板囲い。新聞スタンドもやられている。これ、小さな小売店じゃない?

5月1日メーデーデモ

こちらは大きな歯科医院。歯科医=金持ち=キャピタリズム?

5月1日メーデーデモ

とにかく、スズラン売りたちの可憐な白い花束と、黒く物騒な壊し屋たちのコントラストが印象的だった。

スズラン


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パン屋がパンを焼けない日

ある日、行きつけのパン屋に行ったら、いつも林のように並んでいるバゲットが一本もない。どこかの大集団がやってきて全部買っちゃったとか?それでも行列している人は、ケーキやサンドイッチ、サラダを買うつもりらしい。諦めて回れ右。

オーナーの奥様が日本人で、東京にこれよりずっと立派な店舗があるメゾン・ランドゥメンヌ

パン屋メゾン・ランドゥメンヌ

後日のある日、またパンがない。
「全部売れちゃったんですか?」と聞くと、
「いえ、水曜日はパンを焼いちゃいけないんです」
「??」
「法律で決まってるんです」
「マクロンが決めた?」
「もっとずっと昔の法律、マクロンが生まれる前の」
店員さんは、その法律が許せないという怖い表情になった。

手ぶらでパン屋を出て、そういえば!と思い出した。オーブ地方のパン屋が無休で営業したかどで3000ユーロの罰金を取られたというニュース。スーパーやガソリンスタンド(でもパンを売っている)から小さな自営業を護るため、県や都が7日間営業の許可を出すことができる。このパン屋さんは許可なしで開けていた。

私のパン屋は以前水曜定休だったけど、数ケ月前から無休になった。でも許可を取っていないので水曜日はパンなし。パンがないパン屋なんてギャグじゃない。花がない花屋みたい(花屋も無休営業を申請できる)。

これがパン屋の正しい姿!

パン屋メゾン・ランドゥメンヌ

しかしケーキやサンドイッチは売られている。ということは、今まで自家製と信じていたものが、実はどこか別のところで作られていたってこと。なるほど。
さて、水曜日はどこでパンを調達しよう?


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ロベールの心配

中庭を歩いてくるロベールは、新しいグレイのジョギングパンツに、グレイに赤のストライプのTシャツ。よく何日間も同じ服を着ているのに、「カッコいいじゃない!元気?」
ロベールは“カッコいい”にも反応せず、「ふーん」とうかない返事。私がドアのカギを開けて振り返ると、もういなくなっていた。

その翌日。
「アスペルガー?!」
夫が、ロベールのお母さん(義母)にばったり会ったら「検査でアスペルガー症候群とわかった、ずっと児童精神科医2人に相談していたのにどっちも見抜けなかった、ヒドイ!」という話をしたそうだ。普段は口もきかないのに、夫の出版社が子供の問題を扱ったシリーズを出しているので話す気になったらしい。

ロベールは小学生の頃から「集中できない、先生の言うことを聞かない」とお母さんが嘆いていた。私も小さい頃、同じことを言われていたから「仲間じゃない」くらいに思っていた。でも程度が違ったみたい。
去年の秋、中学校に入ってからそれが顕著になったそうだ。フランスの中学校は担任がいない、科目ごとに教室が変わる、つまり自分の机がない。つまり小学校とは急激な変化。今まで担任の先生になんとか焦点を合わせて繋ぎとめていたのが不可能になった。
「アスペルガー症候群」をウィキペディアを見ると“社会的コミュニケーションの困難”:たしかに。彼には友達がいない。
一緒に歩いていて、知らない人の持ち物に突然触ったり、挨拶されても返事をしないのは、家庭教育のせいかと思っていたら。だってお母さんがボンジュールと言っても返事をしない人だから。
“狭い興味と反復行動”:その通り。一時はお小遣い稼ぎだけに興味を持っていて、口を開けばお金の話だったのが、今はバス。時間があればバスを乗り継いであちこち行っているらしい。
“知能の遅れはない”:むしろ頭がいい子だ。
フランスではアスペルガー症候群を自閉症のひとつに分類していて、約30万人と言われる。

当面、ロベールはセラピストの付き添いつきで、今の中学を続けるそうだ。
問題の理由がわかったのを良し、とすべきか。でも前途多難。ため息が出る。あの「ふーん」は何だったんだろう?
「私も妻もロベールが好きだから、何かできることがあれば、と言っておいた」と夫。
できることねぇ・・・一緒にバスを乗り継いでパリ旅行?迷惑がられるだけか・・・


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3か月前にこの質問をしたら「はい」か「いいえ」で終わっていたのに、ナタン君はしばし考えてから話し出す。
「いえ好きじゃないです。でも・・・お父さんとテニスします」
合間に入ったフランス語説明によると「身体にいいから運動しろ」と両親がうるさいらしい。そういえばお母さんはお医者さんだ。
「それから歩きます」
10分早く着いて、周囲を歩き回ってるくらいだからね。でもよく聞くと、競歩のこと。Marcherは“歩く”だけど、単語 la marcheになると競歩の意味になる。
「でも・・・一番好きなのはソファ!」
とマンガチックな顔になった。
一瞬、ソファという私の知らないスポーツがあるのかと思って、
「ソファって・・・あのソファ?」
「そう、ぼくのソファが大好き」
ソファで本を読んだり、アニメを観たりするのが一番なんだそう。たしかにオタクっぽい雰囲気の子だけどやっぱり。

その日は初めて宿題に出した漢字を書かせてみた:友だち・今年・今週・午前・午後
おお!ちゃんと書く。全部ばっちり。
「どのくらいかかった?」
「日曜の午後ずっと。500回」
「 ごひゃっかい !? ひとつの漢字を500回書くの?」
「そう、それから毎日少し」
「・・・・」
ああ、子供たちに聞かせたい、とため息が出るのと同時に息子のセリフを思い出した。
「(日本語は)自分で学ぼうと決めたわけじゃない。そういう運命に生まれついた」
屁理屈に聞こえるけどその通りだ。だから、私が一時フランス語をモーレツに勉強した、というのは引き合いにださない。自分で決めたことだから。
20歳で、日本語をマスターしようと決めたナタンのモチベーションに改めて感嘆した。
『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』を日本語で読めるのも夢じゃないかも。


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ナタン君の深読み

「週末、何をしましたか?」
ナタンと会うのは月曜日なのでよくこの質問から始まる。
「ひまなので日本語べんきょうします」
「ひまだったので、日本語べんきょうしました。何をべんきょうしたの?」
「9か、おわりました」
「 ?!」
その日は9課をやる予定で練習問題を準備したのに、予定狂うじゃない!

試しにいくつか質問するとちゃんとわかってる。あなた天才?
「先生、いらないじゃない」思わず言うと、ナタンは椅子の上でクネクネして、
「いえ、先生いります・・・ここ、よくわかりません」
“ここ”とは、会話の文章。ミラーさんが木村さん(女性)をコンサートに誘う。
----------------------
木村:いつですか?
ミラー:来週の金曜日の晩です。
木村:金曜日ですか。金曜日はちょっと・・・
ミラー:だめですか?
木村:ええ、友達と約束がありますから・・・
----------------------

「何がわからないの?」
「ムムム・・・日本語で言えないからフランス語で言います。木村さんはほんとに金曜日に約束があるんですか?」
「??」
「ミラーさんがいつ誘っても“だめ”なんじゃないですか?」
ははぁ・・・フランス人らしい発想というか、日本語は“行間を読むべき”と知っているからか?確かに「ちょっと・・・」だけで否定になるんだから。
「この文章からは、木村さんはほんとに金曜日に約束があるとしか言えない。最後に『また今度お願いします』って言ってるし。もしミラーーさんと出かける気がないなら言わないでしょ」
ナタンはちょっとがっかりした様子で頷いた。ミラーさんが嫌いなの?


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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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