老人が窓から、戦火で荒れ果てた風景を眺めている。ソファに座り込み頭を抱える。
周囲の住民はみんな避難し、残るのはこの家族だけ:老人と息子の嫁、その子供2人、家政婦さん。子供の友達2人、そして階上に住む若夫婦+赤ちゃんが居候している。
ドアには太い木材が渡され、10人が息をひそめて新しい一日を生きようとしている。

映画『Une famille syrienne/あるシリアの家族』

銃声や爆発音の度に窓にかけより、住人のいないアパートを略奪する人たちの足音に怯える。水道は止まり、電話もなかなか通じない。

建物を揺るがす空爆。一番奥まった台所に避難する。
中央が、10人の住人を仕切る”息子の嫁”。息子(つまり彼女の夫)はどこかに出かけてまだ戻ってこない。

映画『Une famille syrienne/あるシリアの家族』

ここでは生きられない。若夫婦の夫は“渡し屋”と話をつけ、夜には国外逃亡するつもりだ。

ここを離れられない、と思うのは老人と息子の嫁。アパートは大きく、裕福な暮らしだったことが窺え、食器棚の上に並ぶ写真が家族の歴史を物語る。平和で幸せだった日々の名残を捨てていくことはできない。
一家を仕切る息子嫁は、家族が食事をしてなんとか一日が過ごせるようにイライラと動き回る。

『Une famille syrienne/あるシリアの家族』は、シリアのどこか-アレッポかダマス?-の、アパートの中の24時間を描いている。

映画『Une famille syrienne/あるシリアの家族』
photos: allociné

ハラハラの1時間半、どんなサスペンス映画より怖い。
メランコリックな優しさの老人、性格はきついけどすべてに気を配る母、不便な生活と戦闘の怖さを我慢する子供たち・・・すべてがリアル。観客はスナイパーの音に息を呑み、外の足音にドキドキする。

最初、アパートの部屋から次々に人が出てくるので、その関係を理解するのにちょっと時間がかかった。
主人公の女性がどう見ても50代半ばなので、小さい男の子の母親とは思えず、老人の奥さんかと思ったら、息子の嫁だった。

ニュースで荒廃したアレッポの様子は伝えられるけど、そこに暮らす住民の日常を描いたものは初めて観た。ショック。
シリアからの難民を批難する人たちはこの映画を観るべきだ。
たとえ危ういゴムボートでも、他の国に逃げようとする人たちの生活が、臨場感をもって伝わってくる。重い映画だけど観てよかった。

Une famille syrienne
Philippe Van Leeuw監督作品
フランス・ベルギー合作
主演:Hiam Abbass, Diamond Bou Abboud, Juliette Navis
1時間26分
フランスで公開中

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パリとマラケシュ、既に話題になっている2つのサン=ローラン美術館のオープン(10月初め)を待たず、ピエール・ベルジェが亡くなった。

ピエール・ベルジェ死去
photo:AFP

モロッコ、マラケシュの美術館。

マラケシュ、サン=ローラン美術館

サンローランの半世紀の伴侶であり、保護者であり、クチュール・メゾン、イヴ・サン=ローランの支柱となった人。メセナ(芸術擁護者)であり、エイズ患者のために戦った実業家・・・

イヴとピエールが出会ったのは、1958年2月、ハーパース・バザー主催のディナーの席。その前の年、ディオールの主任デザイナーに抜擢されたイヴは21歳。18歳でパリに出てきて本屋を経営していた文学青年、ピエールは27歳。2人は忽ち恋に落ちた。
当時ピエール・ベルジェは画家ベルナール・ビュッフェの恋人で、彼のビジネスを仕切っていたが、この日以来、イヴのために同じことをするようになる。
60年、イヴはアルジェリア戦争に徴兵され、すぐに抑うつ症になりヴァル・ド・グラース病院に収容された。同時にディオールを解雇されたことを、お見舞いに行ったピエール・ベルジェが告げると、イヴの返事は、
「じゃ僕たち2人で別のメゾンを作ろう、君が運営するんだ」
1962年、イヴ・サン=ローランYSLが生まれ、2人の「僕は創る人、君は売る人」のデュオは、2002年、イヴが引退するまで40年続く。イヴ・サン=ローランは確かに天才的デザイナーだったけど、ピエール・ベルジェの運営力がなければ、フランスのエレガンスの代名詞にまでならなかったに違いない。

1970年、”幸せなモロッコ時代”。真ん中は当時、”ヒッピー・シック”のアイコンだった女優&モデルのタリタ・ゲティ。

イヴ・サン=ローランの伴侶ピエール・ベルジェ死去
photo: Paris Match

1998年。

イヴ・サン=ローランの伴侶ピエール・ベルジェ死去
photo: orange

ベルジェの野心はYSLだけにとどまらず、74年、『Mode et Création/モードとクリエーション』グループを作り、イヴはもちろん、ディオール、ウンガロ、ソニア・リキエル、ドロテ・ビス、Kenzo・・・を擁護し、86年にモード研修と専門職の鑑定を行う『Institut Français de la Mode/フランス・モード・インスティテュート』を作る。プレス界にも進出し、1990年、新聞Courrier international、95年 に雑誌Têtuを創刊。ル・モンドの大株主でもあった。

失敗もあったというけどピエールが関わればビジネスは概ね成功し、イヴと巨万の富を成し、世界中の美術品を買い集める。
2009年、イヴが亡くなった翌年、思い切りよく美術品の殆どを競売に出し、グラン・パレで《世紀のオークション》が開かれた。
売り上げは3億7500万ユーロ(約487億5千万円。ゼロの数が違う世界で暮らしていた!)。

映画『イヴ・サン=ローラン』では、鬱とアルコール、ドラッグに閉じこもりがちな天才デザイナーを立ち上がらせ、励ますピエールをギヨーム・ガリエンヌが演じている。

数年前からミオパチー(筋ジストロフィーなど筋肉の難病)に苦しんでいたけど、精神力で最後まで仕事をし、サン=ローラン美術館のオープンを待ちかねていた・・・
あの世でイヴと一緒にオープニングを見守るんでしょうね。


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試着は危険!

オペラ座の左手にお店を開いた高級カシミアニットのブランド、ラナ・ディ・カプラ。ロロ・ピアーナから仕入れたカシミア糸、ヒルカス山羊の下毛を使っている、と言われてもすぐにはピンとこない。
ロロ・ピアーナは日本にもブティックがある、知る人ぞ知るイタリアの最高級ウール・カシミアニットブランド。エルメス、シャネルと同じカシミア糸と言われるとさらにわかりやすい。1頭からわずか100gしかとれない希少な毛で、その結果ロロ・ピアーナのタートルセーターは1400ユーロ!
ラナ・ディ・カプラのカシミアセーターは約半分の値段(それでも高い)。デザインがクラシック(Vネック、丸首、カーディガン)じゃなくて、一度見てみたいと思っていた。先日オペラにいたら突然土砂降りになり、私は迷わずラナ・ディ・カプラに飛び込んだ。

色が綺麗。

カシミアニット ラナ・ディ・カプラ

カラーバリエーションがこんなにあって「このモデルをこの色で」とオーダーできる。オーダーは3-4週間、外国にも送ってくれる。

カシミアニット ラナ・ディ・カプラ

このモデルが人気はちょっと意外。「イタリア人が好き」と聞いてなるほど。

カシミアニット ラナ・ディ・カプラ

フランスでcamionneurと呼ばれているプルオーバー。トラック(camion)の運転手が着ていたからこの名前になったけど、女性が着ても素敵。

カシミアニット ラナ・ディ・カプラ

これもメンズ。ツインセットにできる。

カシミアニット、ラナ・ディ・カプラ


デザイナーのシャルレーヌ、しょっちゅうお店に出ているそうだ。

カシミアニット ラナ・ディ・カプラ

“ちょっと見るだけのつもり”だったけど、来たからには試着してみよう。特に惹かれたこのブルーを・・・

カシミアニット ラナ・ディ・カプラ

それが間違いのモトだった。肌触りが違うし、サイズが細かくある(XS~XXL)ので身体にピッタリ。肩のスリット(?)も素敵。丈が長いのでスカートの中に入れても出てこないし、パンツにも合う。
脱ぎたくなくなった。
「高い(700ユーロ)けど一生ものよ!ロロ・ピアーナと比べたら半額じゃない」「9月は新年度で物入りだから・・・」の2つの声に引き裂かれる。
クリスマスに誰かに贈らせよう、という結論に達し、やっと脱いだ。
これだから試着は危険だ。でもやめられない・・・

公式サイトはこちら。でも値段は表示されていない。プルオーバー700ユーロ~、ワンピース1000ユーロ前後、メンズは800ユーロ~



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『日本人なぜ休み下手?』

という記事が毎日新聞(デジタル)に載っていた。
“プレミアムフライデーを利用する人が少なく「見直すべきだ」と言われている。政府は来年度から子供の夏休みを別の時期に移し「キッズウィーク」(なぜ全部英語なんだろう?)という大型連休を始めようとしているけど、既に「子供に合わせて休みは取れない」など批判が噴出・・・”
その原因のひとつとして「若いころから休まずに働くことが普通だった人が今管理職についている。上司が休まないから部下も休めない」と分析している。
つまりいくら政府がいくらお膳立てをしても、「3時になりました。帰ります」と言いづらい職場の空気、上司&同僚の目があるということ。
「フランスや北欧の人から見れば滑稽だろう」
滑稽とは思わないでも、理解に苦しむだろうね。
ヴァカンスがあるからこそ、フランス人は毎日仕事をし、
定年&年給があるからこそ、あと1年、もう1年と仕事を続ける、と言っても言い過ぎではない。

8月最後の週末、パリに戻る車の渋滞

ヴァカンス帰り 渋滞

記事中、東工大教授の上田紀行さんの意見に同感した。
「日本人の場合、休むことの意味そのものが確立していない。(・・・・)休暇自体が人生の楽しみだという発想が乏しい」

退職した友人夫婦はあちこち飛び回っていて、仕事をしていた頃より会えなくなった。久しぶりに会ったら前より生き生きしていた。
先日会った友人は、「あと何年で定年」と「もういくつ寝ると・・・」みたいに言っていた。
彼らは、若いころから趣味、余暇に“投資”しているから、仕事をやめても退屈していない。
遊んだり休むことの“豊かさ”を、私も住むようになって経験した。

一方、日本では「休む=怠ける=よくない」という公式が刷り込まれていて、このメンタリティを変えるのは恐ろしく時間がかかる。待っていられない。
上田氏の言われるように「有給消化しない会社に罰則」、だけでなく、消化しない社員は減給、みたいに形から入っていくしかないだろうか。誰かが大型休暇を取るのを待っていたら、いつまで経ってもこのままだ。
あと、高校から哲学をカリキュラムに入れる?
フランスの教育で一番羨ましいと思うのが哲学の必修だ。
「人間の幸せとは?」「なぜ生きているか?」とか考えさせられると「仕事だけが人生じゃない」「自分の人生、他人の目なんか気にしてられるか」と思えてこないだろうか。
ま、フランス人が好き勝手なことをして、同僚全員が残っていても心置きなく帰り、4週間休んでもひとかけらの罪悪感も持たないのは哲学のせいだけとは思えないけどね。
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マクロン支持率落下、5つの理由

43%。就任当時は62%だったから、確かに落ちた。
最初は期待が大きく、3か月も経つと現実とのギャップに国民が失望するのは過去の大統領でも似たり寄ったり。でも同じ時期、二コラ・サルコジは55%、フランソワ・オランドでさえ46%を確保していたから、やっぱり深刻に落下したことになる。

マクロン大統領、支持率落下

人気失墜は法外なメイク代のせいではなく、理由は政策にあり:

嬉しくない措置、しかも説明不十分

まず2017年最後の四半期からAPL(住居手当)を5ユーロ削減(学生たちとその親が怒る)、続いて軍事費と地方自治体の予算も削減すると発表。
一番最近では2018年1月1日からCSG(社会保障への源泉徴収)の値上げ。この代償として負担額を減らすというけど、それは2回に分けてで、2018年末に完全に施行される。つまり何か月かは代償ナシの値上げ。

労働法の改正
8月31日発表になった改正案。その内容が事前に殆ど知らされず、不安や批判が高まった。
フィリップ総理が発表した内容は、中でも労働裁判での賠償金の上限が定められたことが中手企業の経営者にウケた。不当な解雇などを理由に社員が労働裁判所に訴え、払えない額の賠償金を請求され倒産する会社もあったから。上限は月給20か月分。
それでも一部の労組は9月12日に、メランション率いるLa France Insoumise/屈しないフランス党は、23日に改正反対のデモを予定している。つまり改正案を知らないうちから、既に“反対”は決まっていたということ。ま、それが野党のお仕事だけど。

議員の過半数は未経験者
6月の総選挙で当選したLa République en marche/共和国前進党の議員の過半数は、民間企業出身で政治経験ゼロ。最初はそれが新鮮に見えたけど、実際に議会が始まってみると彼らのシロウトぶりが歴然(案件を間違って却下してしまう、手一杯で議会進行についていけない・・・)
メディア露出が少なすぎる(プロの政治家のように“出たがり”じゃない)のは、大統領も非難した。

国民から遠い大統領

就任以来、声明をできるだけ発表しない、メディアに出ない、という方針をとってきたマクロン。随行する記者をエリゼ宮が選ぶ、と言い出した時はさすがに論争になった(ジュピター式は今の社会に通用しないのよ)。大統領がどこで何をしているか見えず、国民と距離ができる。
マルセイユでのバカンス中、ヴィラ内に侵入したパパラッチを訴えたときは記者たちから非難が相次いだ。
そこで方針の修正:エリゼ宮は8月末に「今後、大統領はもっと頻繁に発言します」と発表し、東ヨーロッパ訪問の際は、記者を専用飛行機に乗せた。

ド・ヴィリエ事件、失墜の始まり
ピエール・ド・ヴィリエ大将(かっての幕僚長)が軍事費削減に反対したとき、大統領は怒り、公の場でド・ヴィリエ大将の“遠慮を欠いた発言”を非難。その権威的な態度にみんなびっくり(7月13日)。結果、ド・ヴィリエ大将は辞任することに。この後で支持率が10ポイント落ちた。

何しろまだ3か月。マクロン本人も“長い目で見た変革を”と言っているし、もう少し観察してあげたほうがいいとも思うし。マクロンに投票した人たちの一部が、決して政策のためではなく、“マリーヌ・ルペンを大統領にさせないため”だったのを思い出すと心配にもなる。


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プロフィール

Author:長谷川たかこ

この国に住もう!と決めたのは13歳のとき。それが実現したのは10年以上経ってから、それから30年の月日が流れました(計算しないで!)
現在フレンチ・コード主宰。訳書多数、著書3冊。夫1人、子供2人、猫2匹と暮らす騒がしい毎日。映画と料理とデビッド・ボウイが趣味。


長谷川たかこ

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